浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

テストストーリー7

2010-09-06 01:01:32 | Weblog



 においというやつは、そこがどこなのかをさりげなく教えてくれる。
 安全なところなのか、危険なところなのか、俺がいてはいけない場所なのか、それとも俺の居場所なのか。目覚めたそのときに、すぐに身構えなければならないかどうかを、においは教えてくれる。
 すべすべのシーツの、海軍御用達の洗剤の残り香の中にいるのに、かすかな警戒心が首をもたげている。
「目、醒めた?」
 声で誰なのかわかった。こいつは怒らせないほうが良い。俺は息をついて、ゆっくりと目を開いた。
 低い天井と、ありふれた蛍光灯カバー、ベッドの周りを囲えるようにカーテンのレールが走っている。母艦マーヴィンの診察室だ。
「なんで目を逸らすわけ?」
 声はさらに腹立たしげに言い、俺は仕方なく目を向けた。
「よお」
 俺は片手を上げて見せる。
「何が、よお、よ」
 リンジー・リンは両手に腰を当てて、頬を膨らませて見せる。栗色の髪と、黒い瞳の女だ。俺より年上の癖に、俺より年下に見える。東洋系の血を引いているかららしい。
 彼女の自慢は、そのルーツではなく、三代続けての戦闘機パイロットということだった。その通りだと思うことが良くある。彼女は、俺とは違うパワーを持つ女だ。血管にジェットフュエルか油圧フルードが流れているといわれても、あまり不思議には思わない。不思議なのは彼女のおつむは、ロジック信号ではなく、女の勘って奴で動いていることだ。
 リンジーはベッドサイドの椅子へ座りなおし、俺を見つめた。流石に少し不安げに見える。
「負傷者があなただと聞いて、本当に心配したんだから」
「ごめん」
 リンジーは、かすかに眉を寄せて俺を見る。
「PAF同士で殴りあうなんて、馬鹿じゃない?」
 彼女に悪いことをしたな、と思ったことを後悔した。彼女はどう見てもお説教モードだ。こうなると止まらない。
「やらないで済むなら、俺だってやらないでいた」
 リンジーはますます眉をひそめる。仕方なく俺は言った。
「だから、悪かったって言ってるだろ?」
 それから俺はリンジーへ問う。
「敵はどうなった?」
 リンジーは首を振る。
 確認されたPAFの残骸は三つだけだった。一つは浜辺の直前の阻止射撃でぶち抜かれたもの。もう一つは、海浜でアイアンハンド1チームに仕留められた。最後の一機は、俺と殴り合った奴だ。
 彼女は言う。四機目は見つかっていない。回収したLIBの破片からは、四機目の存在が示唆されているけれど、実際には発見されていない。今でもキャップチームと、スパイディーが交代で捜索している。
「そうか・・・・・・」
 奴らをここまで運んできた貨物船のほうも、芳しくなかった。
 マーヴィンの警告射撃に停船したけれど、事情を把握しているものは一人も残っていなかった。船長も、オペレーションに帯同した発注主も姿を消していた。
  LIBと同時におろした小型船で逃げ去ったらしい。その小型船はマーヴィンのレーダーにも、赤外線センサーにも捉えられなかった。たぶん可潜ボートだったんだろうとリンジーは言う。工作戦用の潜水可能なモーターボートだ。PAFを持ち込むような敵だ。それくらいしていてもおかしくは無いだろう。
 PAFの残骸を回収して、開発国に突きつけたとしても、知らぬ存ぜぬ盗難にあったとありえない答えではぐらかされるのも判っている。作戦はほとんど失敗に近い。
 そうね、とリンジーも言う。
 俺は息をついて問うた。
「で、敵のPAFの最後の一機は、どんな風になっていた?」
 問う俺に、リンジーは不快そうに眉をひそめる。飛行機乗りってのは、そういうところがある。死を撒き散らす癖に、その結末を間近に見ることを嫌がったりする。
「何が聞きたいのよ」
「俺の仕掛が上手くいったかどうか」
 殴りあったのは、破れかぶれにじゃない。ちゃんと目算があった。プログラマブルグレネードをぶつけたからって、敵のPAFを倒せるわけじゃない。PAFの防御水準ならば、80mm迫級の至近炸裂にも耐える。
 リンジーは不満げに問い返す。
「あなたはヘルメット吹き飛ばされたのに?」
「それでも俺は生きてるだろ?」
「馬鹿!」
 怒ってみせるリンジーに俺は少し笑って見せた。
「どうしても奴を水の中に放り込みたかったんだよ」
「なぜ?」
「ウォーターハンマーでふっ飛ばしてやろうと思って」
 リンジーは少し眉を開いた。けれど、俺がにやりと笑みを作る前に、彼女はさらに眉をひそめる。
「それ、本当に考えてやったの?もののはずみとか、結果オーライとかじゃなくて」
「あのなあ、お前は俺を筋金入りの阿呆とか思ってないか?」
「思ってないけど、脳みそまで筋肉だと思ってる」
 俺は唸った。ひどいことを言いやがる。俺だってちゃんと考えている。外から破れないなら、破らずに倒すしかない。それでもリンジーは疑わしげに俺を見ている。
 プログラマブルグレネードを空中で炸裂させると破片を撒き散らして辺りを薙ぎ払う。水中で炸裂させるとどうなるか。いや、科学的に詳しく説明しろと言われても無理だ。俺は兵隊で、敵を倒すのが仕事なんだ。説明することじゃない。
 けれど水中爆発が、近距離に強い衝撃波を与えることは知っている。昔からそれをつかって、たとえば爆雷で潜水艦を沈めたり、ダイナマイトを放り込んで魚を採ったりしていた。それをウォーターハンマーというのだと俺は聞いた。それで何が悪い。
 なぜかリンジーは大きなため息をついてみせる。
「言っても無駄かもしれないけれど・・・・・・」
 そしていきなり言った。
「あなた、女の子なんだから、顔に大怪我したら大変よ?」
 俺は思わず自分の頬に触れていた。リンジーはくすくす笑う。悪魔の笑みだ。俺はあわてて手を引っ込める。いつもそうだ。この女は、いつでも不意を打ってくる。
 俺はそのことにうろたえていた。
「だからなんだって言うんだよ!PAFに乗っちまえば男も女も無いだろ!」
「あなたがすごい叫び声を上げているのを無線で聞いて、わたしがどれだけ心配したと思ってるの?」
「ちょっと待て!」
 俺はベッドから跳ね起きた。
「俺は女々しく泣いたりしてないぞ!」
「無線ログは残っているし、文章出力処理もされているし」
 身を起こし、睨みつける俺へ、リンジーはぐっと顔を近づける。
「初めから確かめてみる?」
 そして彼女はくすくす笑いながら立ち上がる。
 

という話だったのさ。
ツイッターで、タクティカルロアのラフ絵を見て、近未来架空戦もおもしれえなと思ったわけさw。
ごめん、本当は俺は、タクロア見てない。

あとはつれづれなるままに。

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