虹の足
吉野 弘
雨があがって
雲間から
乾麺みたいに真直な
陽射しがたくさん地上に刺さり
行く手に榛名山が見えたころ
山路を上るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる田圃の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて
虹のアーチが軽やかに
すっくと空に立ったのを!
その虹の足の底に
小さな村といくつかの家が
すっぽり抱かれて染められていたのだ。
それなのに、
家から飛び出して虹の足にさろうとする人影は見えない。
―おーい、君の家が虹の中にあるぞオ
乗客たちは頬を火照らせ
野面に立った虹の足に見とれた。
多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。
そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で
格別驚きもせず
幸福に生きていることが―。
(詩集『北入曽』より)
ゆっくりと暇にあかせて、ことばの芽を育てていきたいものです。
吉野 弘
雨があがって
雲間から
乾麺みたいに真直な
陽射しがたくさん地上に刺さり
行く手に榛名山が見えたころ
山路を上るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる田圃の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて
虹のアーチが軽やかに
すっくと空に立ったのを!
その虹の足の底に
小さな村といくつかの家が
すっぽり抱かれて染められていたのだ。
それなのに、
家から飛び出して虹の足にさろうとする人影は見えない。
―おーい、君の家が虹の中にあるぞオ
乗客たちは頬を火照らせ
野面に立った虹の足に見とれた。
多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。
そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で
格別驚きもせず
幸福に生きていることが―。
(詩集『北入曽』より)
ゆっくりと暇にあかせて、ことばの芽を育てていきたいものです。