罠その後

年末に初めての罠を仕掛けてから、1ヶ月近くが過ぎた。
その間に獲れた獲物はゼロ。
といっても何も無かったわけではない。

1月3日、初めての獲物がかかった。
しかし、これは大変苦い獲物だった。
罠を仕掛けたら毎日見回るのが基本だ。
しかし、毎日変化の無い罠にしびれを切らしていたのと
正月に家族が集まっていたのとで、見回りは2日に1回のペースになっていた。

その日、罠を見に行くとなんとなく場の雰囲気が違っていた。
変な不安を感じながら罠の場所に近づくと、罠のすぐ脇の細竹の下10センチほどのところに何か赤いものが巻きついていた。
不安は的中していた。
思ったとおり赤いのは肉片で、ちぎれた足がからみついていたのだ。
その瞬間ものすごい後悔と悲しみを感じた。
何よりも手負いの獣を作ってしまったということにものすごくショックを受けた。
もし毎日見回りをしていれば、このイノシシを手負いにしないですんだかもしれない。
巻きついた足は一番下の関節のところからきれいに外れ、肉は引きちぎられていた。
蹄からすると２，３０キロのイノシシだ。
片足をなくしてうずくまっているイノシシの姿が目にちらついてどうしようもなかった。
罠にかかった獲物をしとめるのと、ただ怪我を負わせてしまうのとは雲泥の差だ。

それから休みの間は毎日見回りをした。
仕事が始まってからは先輩猟師に見回りをお願いしている。
足だけが掛かってから数日後、今度は同じ場所で罠がはじいていた。
しかし、うまく作動せずに獲物は掛からなかった。
その後、ほかの場所でもはじいたが同じく作動ミス（設置ミス？）や、
作動しても逃げられていたりと、獲物がかかることはなかった。
しかし、これはこれでとてもおもしろかった。
罠がはじくということは、自分の狙った通りの道を確実に獲物が歩いたということだ。
踏み跡からどんな獲物がここを通って、罠がはじいたときにどんなに驚いて逃げ出しただろうと想像する。
目に見えないけれど、確実に生き物と接点で交わった証しだ。
そんなことを楽しむうちに、もう６回ほども空振りをくらっている。
こうなってくると開き直って、今年はもう獲物はないかなと思う。
どちらにしろ初めての年だ。勉強あるのみ。

私の罠にかかったのは足だけだったが、先輩の罠にはいろいろかかる。
イノシシ狙いだが、時には狸、キツネ、野イヌ、そしてアライグマまで！
先日はそのアライグマが罠にかかっているのを見せてもらった。
耕作放棄地の茶畑に仕掛けられた罠にかかったアライグマは雨に濡れて座っていた。
しかし、そのまわり半径１メートルは荒らされて噛みちぎられた木片が散乱するばかり。
アライグマはかわいいイメージとは裏腹に荒々しい外来生物だ。
牙も爪もものすごく鋭い。飼い犬がやられたという話も聞く。
駆除対象の生き物だ。

初めて見たアライグマは弱ってはいたがまだ噛みつこうとしている。
色はタヌキに似ているが手の形も足の形も全然違っていた。
こいつはあっけなく駆除されてしまった。

罠にかかる生き物はかわいそうだと思う。
しかし、そんな感情論で猟師はやっていられない。
猟師になったからにはいろんなことを覚悟している。
隠された自然を垣間見る一つの手段として、これからももっともっと学んでいくことはたくさんある。