公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

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『生命とは何か』シュレーディンガー

2015-05-11 00:48:22 | 今読んでる本


生命がマイナスのエントロピーを食べるという表現が熱力学者と生物学双方の反発を招いたシュレージンガーのこの著作は今も尚、大胆な名著である。特に『生物と無生物の間』福岡伸一著の誤解は、文庫本版の2008年の訳者鎮目康夫氏の21世紀あとがきに、福岡氏の著作引用が記載され誤解事例として、指摘されているので引用する。註1
「シュレーディンガーは誤りを犯した。実は、生命は食物に含まれている有機高分子の秩序を負のエントロピーの源として取り入れているのではない。生物はその消化プロセスにおいて、タンパク質にせよ炭水化物にせよ有機高分子に含まれているはずの秩序をことごとく分解し、そこに含まれている情報をむざむざ捨ててから吸収している。なぜならその秩序とは他の生物の情報だったもので、自分自身にはノイズになりうるものだからである。」講談社現代新書150頁」
シュレーディンガーは負のエントロピー源をタンパク質などに求めたのではない。彼の言う非周期性結晶が、遺伝子を乗せたりしている安定な原子間相互作用が、熱力学の法則を超越している時計じかけが生物であるとみなしたのであって的が外れているばかりではない。福岡伸一氏はエントロピー増大の情報概念(他の生物の秩序が消化される)と実際の熱力学に関係する自由エネルギーの取得を直結して誤解している。

熱力学的エントロピーと情報学のエントロピーを混乱させている通俗科学が今も尚巷の知識野郎達に蔓延している。

ともあれ



①無秩序から秩序が生まれる物理仕掛け

②秩序が秩序を生む物理仕掛け

①は、脳内の初観念<自己意識>の始まりと同じである。②は、観念の精神化と同じである。同じというか、相似している。

私の主張する初観念の三つの端緒は
一、情緒
一、直覚
一、愛
いずれにも共通するのは共感という、ないところに観念を直接形成する心のメカニズムが働いている。
ここでは無が自ずから秩序を生む。あるいは意味のない並び、シュレーディンガーの生物で言えば非周期性結晶が自ずから意味を成す。①は遠い生物の進化のある時期の出来事ではなくいつでも起こりうる必然的な自己組織化でなければならない。②秩序が秩序を生む物理仕掛けは比較的エンジニアリングしやすいが①無秩序から秩序が生まれる物理仕掛けは生命では未だに成功していない。それはなぜかというと、先行する秩序が封止しているからに他ならず、そこが自己意識の時間進行性と相似している。

物理的集合を前提に最も単純な関数とでも言うべき線引きが物理的に生まれることに生命の秘密がある。次元の増加という霊の宿り無しにこの偶然の関数が自分自身の秩序を媒介することはないだろう。

エピローグにシュレーディンガーは、自己を無地のキャンバスのようなものと言う。無秩序から秩序が生まれる過程は、統計的物理学の世界観で捉えていたようだ。ここまでくると手法として私の非所与の自己の哲学に似てくる。完全な無秩序が統計的に秩序を形成するエネルギーがわれわれの中に流れている。そこは一つの世界とするべきだというのがシュレーディンガーの意見だ。その他の生命は機械仕掛けと考えても認識に誤解は生じないが、それだけでは、死を理解することがただの機械の故障とみなされる。時計の故障は明らかに無秩序への旅路ではない。これらはシュレーディンガー自身のエピローグに補足されているオールダス・ハクスリの『永遠の科学』1944年に依拠して記載されている。読んでみなければ。

オルダス・ハクスリ
哲学
『目的と手段』 - Ends and Means (1937)
『永遠の哲学 - 究極のリアリティ』中村保男訳、ISBN 4-89203-142-9。- The Perennial Philosophy (1944) ISBN 006057058X



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