中国が日本のEEZに弾道ミサイルを発射 ~撃つ前から着弾地点を計算できる弾道ミサイル
飯田)日本は中国やロシア、北朝鮮を目の前にしているなかで、今後どうしていけばいいのか。中国は国内の弱いところを、例えば外に打って出ることによって強さに変えていく可能性はあるのですか?
青山)可能性があるのではなくて、やっていますよね。
飯田)実際に排他的経済水域(EEZ)にミサイルを撃ち込んできました。
青山)それがあったので私は真珠湾へ行き、アメリカのインド太平洋軍司令部、太平洋艦隊司令部の将軍たちと議論しました。日本では公共放送でも「(中国が撃ったミサイルが)落ちた」と言っています。しかし、米軍には釈迦に説法なのですが、米軍が何を言ったかは基本的には言えませんけれど、現実に意見が一致するのは、弾道ミサイルなので撃った瞬間どこに落ちるかわかるということです。撃つ前から計算できるのが弾道ミサイルの特徴です。
狙いをすませて与那国島と波照間島の目の前の海に撃ち込んだ中国軍
飯田)放物線を描いて飛んできますからね。
青山)そうです。狙いをすませて与那国島と波照間島の目前の海に撃ち込んでいるのです。これは史上初めてのことです。大事なことは、弾頭が核兵器を積めるくらいのものなのかどうかということです。もちろん、「未確認」と言っておかなくてはいけないけれども、基本的には核弾頭を積めるものだと思わなくてはいけません。そうすると、事態はまったく変わってきます。
飯田)核兵器を搭載できるものであれば。
青山)もう1つ、極めて危険なのが、台湾へは下院議長が行っただけですよね。ペロシさんという有名人ですけれども、大統領に何かあったときは代わりの大統領になる、3番目のポジションだということをよく言われます。しかし実権力としては、大統領制のなかで下院議長はあくまで下院議長にすぎないのです。
ペロシ下院議長の訪台で軍事演習し、手の内を見せてしまった習近平氏の焦りと中国軍幹部の憤り
青山)それなのに、あんなに興奮している。残念ながらまだ接触できていませんけれども、中国の軍部からすれば、「なぜ手の内を全部見せなくてはいけないのか」と思っているのです。
飯田)下院議長が台湾へ行ったことだけで。
青山)ミサイルを撃ち込むだけでなく、いざとなったときに台湾の周りをぐるりと囲むように封鎖するのだとか。あるいは南の東沙諸島という無人島に、監視兵がいる台湾領があるのですが、そこを爆撃する可能性が高いとか。それから台湾周辺のどの辺りに、中国の弱い空海軍を配置するのかということが見えてしまう。
飯田)弱い空海軍。
青山)つまり、手勢として足りないわけではなく、能力が低い。進水したばかりの「福建」という3隻目の空母にしても、電磁式カタパルトを入れたのはいいけれど、あれだけ電気を消費するのに、動力は原子力ではなく通常動力です。おそらく電磁式カタパルトで戦闘機を発進させると、電気がなくなってしまうのです。「そのあとどうするのか」ということです。
日米、英独にとっては重要な情報を提供され、備えやすくなった
青山)軍部としては、そういう実態を踏まえて、とにかく負けないようにしないといけません。負けてしまったら本当にとんでもないことになりますから。そのために考えてきた布陣を、習近平国家主席の焦燥感のために見せてしまったわけです。
飯田)密かに練ってきたものを。
まずは弾薬の補充から整備しなくてはならない自衛隊の実態
青山)日米にとって、あるいは英独にとっても重要な情報を提供してもらったので、備えやすくなりました。備えやすくなったのだけれども、自衛隊は防衛予算が足りないので弾がない。
飯田)弾がない。それは最近報じられるようになりましたね。
青山)長年言ってきましたけれども、やっとです。弾がないだけではなく、あえて言うと、例えば青森県に大湊という海上自衛隊の拠点がありますが、クーラーがないのです。
飯田)クーラーがない?
青山)青森県は涼しいはずだからという理屈ですが、いったい何年前の話だということです。この気候変動のなか大汗をかいて、一生懸命仕事をなさっているのだけれども、全体的に「いざ」というときの体制ができていない。見せかけだけです。だけと言ってはいけないけれども、見せかけ中心です。
飯田)有事の際の体制が。
青山)米軍もいままでは黙ってきたけれども、今回のように台湾危機が目の前にきたらどうなのか。独裁者の焦燥感は、ウクライナ侵攻でのプーチン大統領を見ても、どんな判断ミスが起こるかわかりません。ロシアは二度と元のロシアには戻れませんよね。
飯田)そうですね。
青山)それなのに注意する人もいない。そっくりなわけです。今回のペロシ下院議長の訪問だけで、こんなに焦って手の内まで見せてしまうわけですから。そう考えたら「弾がない自衛隊」を何とかしなくてはいけない。本当は防衛費の増額は宇宙、サイバーのためなのですけれども、まずはここから考えなくてはいけないのです。