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Kの言葉の意味が全く理解出来ず、私は視線をKから外の景色に移しながらぐるぐると思いを巡らせていました。
しかし、この雰囲気を元に戻すにはとにかくKが怒った原因がわからないと対処のしようもないので、私はKに出来るだけ優しい口調で
「え?でもKが『もう行けねぇだろ!』って言ったから、私 他に何か約束してて忘れてたんだと思ってたんだけど・・・違うの?」
と言ってみたのです。
するとKは私の視界のはじっこで、首を横に振っていました。
ますます意味が分からず、1人悶々と考え続けていると、あっというまにショッピングセンターの駐車場に着いてしまいました。
Kはいくつかある駐車場の内、自分がいつも停める駐車場に入ると、ささっと車を停め、エンジンを切って車から降りました。
私もシートベルトを外し、急いでドアを開けて降りると、いつも先に歩いて行ってしまうKの後を追おうと小走りになりかけました。
しかし、Kは運転席から助手席側に回って来てくれていて、私の前に立つと
「大丈夫か?」
と声を掛け、私がバッグをつかんでいた手と反対の手を握って歩き出しました。
それまでの流れと全く違うKの態度に驚いた私はしばらくKに手をつながれたまま歩き、その間も頭の中が混乱していましたが、すぐに
(そっか、私が妊娠してるから気遣ってくれたんだ・・・。)
と思い、ゆっくり歩くKの横顔を見ていました。
それにしても、出かける前のことが気になって仕方がない私。
どうしても突き止めておかないと、この次に同じことが起きた時、また同じように不機嫌にさせてしまうのではないかと心配だったのです。
どうにかしてKにその理由を教えてもらわないと気が済まない気持ちでしたが、先ほどまでとはうって変わって私を気遣うように静かに歩くKに、またそんな話を蒸し返して不機嫌にさせてしまうのではないかと思い、聞くのをためらってしまうのでした。
そんなことを考えているうちに、私たちは駐車場からショッピングセンターの入り口にたどり着き、中に入りました。
ショッピングセンターは休日の昼過ぎとあってかなり人が出ていました。
私はそこで
「お昼だし、先に食事する?」
と声を掛けました。
いつ起きるかわからないKを待って朝ごはんも食べないでいた私と、朝は食べない主義でしたが、さすがに昼過ぎまで何も口にしていないKだったので、ここはその方がいいだろうと思い、そう言ったのでした。
しかし、その言葉を聞いてKは
「いや、俺は(さっき起きたばかりだから)腹減ってねぇし。先に本買おうぜ?」
と言って私の手をひき、ずんずんとエレベーターに向かって行きました。
(ええ?何で?)
正直私はとてもお腹が空いていました。
なので、
「そっか・・・Kはお腹空いてないんだね。私は結構空いてるんだけどなぁ~。」
とつぶやくように言ってみると、Kは急に私の方に向き直り、はぁ~とため息をついて
「お前って本当にいっつもいっつもメシのことばっかりな?お前の用事で来てんだろ?」
と言って呆れた顔をしました。
そしてつないだ手を離すと、
「お前の都合で動いてんじゃないんだからさぁ。少しはこっちのことも考えろよ!」
と言ってすたすたと先に歩いて行ってしまったのです。
私はその言葉にかち~んと来てしまい、一気に怒りがこみ上げて来ました。
そんなことを言われるなんて、全く心外でした。
その場に立ち尽くしたままエレベーターホールにまっすぐ向かうKの背中を睨むようにしていると、しばらく行ったところからくるっと振り返ったK。
その顔は不機嫌そうにこちらを睨んでいました。
そして私の様子に気がつくと、チッと舌打ちしてこちらに戻ってきました。
私はそんな様子をゆっくりと睨みながら心の中で湧き上がる思いに必死に耐えていました。
Kは私の目の前まで来ると、
「何だよ、お前何か怒ってんの?何で怒ってんだよ!」
と言い、急にまた私の手をつかむとぐいぐい引っ張りながら
「早くしろよ!疲れてんのに来てんだから!」
と言ったのです。
そこで私は はっとなり、
(そうだ・・・確かにKは毎日疲れているのに貴重な休みをこうやって私の為に使ってくれてるんだった・・・。
ちょっとは我慢しなきゃ。)
と思うと湧き上がってきていた怒りも何とか静められそうな気持ちになって来ていたのでした。
それでもこれだけは言いたいと思い、
「それは悪かったけど・・・でも、自分の都合ばっかり考えてるわけじゃないんだから、そんな言い方しないで。」
と、そう口にしたのです。
Kはたどり着いたエレベーターホールの前でエレベーターのボタンを押しながら
「ああ。」
と短く返事をしました。
そして2人して来たエレベーターに乗り込み、目指す階のボタンを押すと、静かに到着するのを待っていました。
エレベーターを降り、目指すお店へ足を進めると、想像以上に混雑しているのが見えて来ました。
私は気にせずにまっすぐお店に入ろうとすると、後ろからKがついて来ていないのに気がつきました。
不思議に思い、振り向くとKは2~3歩手前で立ち止まっていました。
そして振り向いた私に
「俺、混んでんの嫌だからお前行って来いよ。」
と声を掛け、そのまま向きを変えてお店とは別の方に歩いていってしまいました。
私もその方が探しやすいと思い、またお店の方に向き直るとお目当ての本がありそうなコーナーへと足を進めました。
そこは前に私が行った書店と違って、赤ちゃんや育児の本が山のようにあり、私はそんな優しい色のカバーのかかっている本や雑誌を見て顔をほころばせていました。
ふと見ると平積みされた雑誌の中に、”初めてのたまごクラブ”という本が置いてあるのに目が留まりました。
そっと手にとってみると、それはまさに私が探していた妊娠初期の頃からのことが書いてある雑誌のようでした。
まだ発刊されたばかりのその雑誌を手にして、これだというものが案外早く見つかったことで、私はそれまでのKとの嫌な雰囲気を忘れ、雑誌を手に持ったままウキウキした気持ちでお店の入り口に向かいました。
きっとKはお店の外にでもいて、ぼ~っとしていると思ったのです。
しかし、予想に反して、辺りを見回してもKの姿は見当たりませんでした。
私は大体、Kと一緒に買い物に来て自分のものを買う時には、必ずKに聞いていました。
その時もそうするつもりだったので探したのですが、居そうにありません。
ひょっとして私を待つ間に外にでも出てしまったかもしれないと思い、仕方がなく手に持った雑誌を脇に抱えるようにして店内に戻ろうとした時、混雑した店内の奥のほうに向かって歩くKの姿が見えました。
(混んでるのが嫌だと言ったのに、何してんだろ???)
そう思いながらも、Kを見つけることが出来てホッとした私は、Kを見失わないように後を追い、人を掻き分けるようにして進んで行きました。
ようやくたどり着くと、Kは旅行のガイドブックが沢山置かれているコーナーにいました。
「K~!」
私がそう声を掛けて近寄ると、Kは手にした雑誌を持ち上げながら私の方を向き、
「何だ・・・もう終わったのかよ?」
とつぶやきました。
私はうなづいて脇に抱えていた雑誌をKに見せると、
「ほら、こんなのがあったんだよ。」
と言って、笑いかけました。
するとKは少しだけ柔らかい表情で
「そっか、良かったな。」
と言って、そのまま手にしていた雑誌をぱらぱらとめくり、眺め始めました。
どうやらKはその雑誌を見ていたいようだったので、
「じゃあ、これ買って来るね。」
と言って私はその場を後にしました。
そしてまた人を掻き分けてレジにたどり着くと、ずらりと並んでいる列の最後尾に立ち、順番を待っていました。
待っている間も表紙を眺めながらニヤニヤしていました。
何だか妊娠したんだなぁ~と実感して、その雑誌を買うのが誇らしい気持ちでした。
そしてようやく会計を済ませると、私は急いで雑誌を抱え、さっきまでKがいたコーナーへ急いで戻って行ったのでした。
結局Kの言った言葉の意味は分からないままでした。

うう~何気ない休日のヒトコマが、こんなに疲れる状況だったことに、思い出して改めてガックリ来ています。

この日はまだまだ終わりません。

何とかまた書き進めて行きますので、是非とも応援をお願いいたします。


