国際交流のススメ

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年収が5千万円の小道具係りって

2009年10月27日 | アメリカ劇場事情
   

うーん、久々に驚いた。
何がって・・・
Metro New Yorkという日刊のフリーペーパーに10月21日付けで掲載された記事に対してなんですが・・・。

その記事のタイトルは 

“The best job at Carnegie isn‘t on stage”
直訳すれば、「カーネギーで一番の仕事は舞台上にはない」です。

記事によると、「カーネギーホールでピアノを押して舞台上に移動させる男は、それを演奏する男よりも高給取りである。デニス・オコーネル(実名ですよ!!)はカーネギーホールで小道具・機材などの管理を担当しているが今年度の年収は53万44ドル(日本円にして約4887万2700円)であった。」

えー!年収約4900万円の小道具係って・・・。しかし、この記事、実名で金額も1ドル単位まで伝えていますね。こんなことって日本ではあまりないですよね。さすが情報開示の国・アメリカ!しかし、こんな(馬鹿げた?)高給もアメリカでないと実現しなったでしょうね。さらに・・・

「オコーネル以外に4人のフルタイムのステージスタッフがいるが、2人は大道具で残る2人は照明担当、彼らの平均給与は43万543ドル(約3970万円)であった。カーネギーホールにおいて、シアターディレクターのクリーブ・ギリンソンだけが彼らよりも高給で同時期の給与と福利厚生の合計が94万6581ドル(約8728万円)であったことが、カーネギーホールの税務申告から明らかになった。」

カーネギーってのは音楽ホールですから、照明や大道具といってもそんなにたいしたことはやらないんですね。フルセットでオペラとかをやる訳ではないので。基本は反響板だけのごくごく普通のクラッシックコンサートを年中やっているだけです。それで平均年収が約4000万って・・・。シアターディレクターはさすがに道具の棟梁よりも高給でしたねって・・・・てもこの人も8700万も貰っているんですね。ふえーさすがカーネギー。

うーん、職場を誤った・・・。なんとしてもカーネギーに就職しておくんだった・・・。

「彼らはローカル・ワン(Local One of the International Alliance of Theatrial Stage Employees)と呼ばれるステージクルーのユニオンの所属で、ローカルワンは2007年の11月に労使交渉のもつれから26のブロードウェー劇場を約3週間に渡って閉鎖に追い込んだ。このときNY市が受けた損失額は4000万ドル(約36億9000万円)であったとNY市の会計監査官が発表している。ステージクルーとプロデューサーたちはその後、双方が妥協の産物と呼ぶ5年間の契約書にサインをしている。労働史研究家のジョシュア・フリーマンはNY市の活気の源である劇場産業を閉鎖に追い込むだけのパワーが労働者ユニオンに力を与えていると語っている。」

まあねえ、まあ、そういうことなんだろうけどねえ。それで劇場がまわってるんだったらねえ、誰も文句言う筋合いでもないんだろうけどねえ。一部のエクゼクティブだけが数千万から数億円もらっていて、ステージスタッフは年収300万円、みたいな世界だと不公平感があるけど。でも、4000万円とかいう年収はちょっと世間の常識からは外れているよね。シアターディレクターの8700万円もどうかとは思うけど。しかもカーネギーは非営利法人として税制控除とかの優遇もあるし、運営の半分ぐらいは助成金や寄付金なんじゃなかろうか・・・。もっともカーネギーに限らずメトロポリタン美術館やグッゲンハイム、リンカーンセンターなんかのエクゼクティブも数千万円単位では少なくとも給与をもらているはず。日本では非営利はまだまだボランティアの域を脱していない面があるけど、アメリカでは完全にビジネスとして成立していますね。

非営利なのにビジネスっておかしい、と思うかもしれませんが、僕は非営利も非営利と言う形態のビジネスであって、そこで働く人達が事業の規模や専門性、貢献度に応じて適切と思える給与を貰うのは当然であって、それが一流企業と遜色ない内容であれば、その給与も相応のものになるべしと思っています。漢字検定協会のような内部での不当な会計処理とは全く話が別です。そのため、非営利団体では税務状況を公表しなくてはならず、その中で給与額の上位5名のポジションと金額を公表する義務があります。また、運営組織の上部に理事会を設けて資産やファイナンスの透明性や正当性を常に問うことが求められています。とは言え、小道具係りの給与が5000万円って・・・理事会がよくOKしたなとは思いますがね。

まあ、組合にも良い面と悪い面があるだろうし、また日本と西欧では産業の成り立ちの歴史が違うので同じようには考えられないけど、日本の産業構造も西欧化(市場主義化)がますます進んできている状況において、組合のあり方も違ってくるべきなのではないでしょうかね。とりあえず日本の劇場界は劇場スタッフの労働時間の短縮、それと労働条件の整備から始めるべきじゃないかしらと思うのですが・・・。


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