●1日目
ルートとしては東海道本線を選んだ…このルートは普通列車の乗り換えと待ち時間が多く面倒であるが、
その時間を利用して途中下車や一服
を行う事ができるという、気が付きにくい利点もあった。
当初、京都から山陰本線で但馬入りする予定であったが、うたた寝してしまいすでに列車は大阪を走っていた。
夕闇の明石大橋と欲望の光
…車内の声が関西弁で無かったら、横浜あたりと変わらぬ雰囲気ではある。
姫路にて下車、このころには片田舎の通勤路線に過ぎないと分かり興味を失っていた播但線(バンタンセン)の電化区間に、結局乗る事となった。
非電化区間との分岐である寺前(テラマエ)駅にて下車…時刻は夜の8時前
、接続列車の時間がだいぶあるので駅前の居酒屋に入り夕飯とする。
店内には客が数人、店のおじさんを含めて全員がひっきりなしに喋っていた…関西人の辞書に、沈黙という文字は載っていないのかもな。
「おっちゃん、ポテトフライと生2つ
、それと枝豆とイカの唐揚げも頼むわ。」
「ちょっと、まってえーな。」
頼んだ650円の味噌ラーメンは少々の化学調味料の味…だが、麺の量が少ない事を除けば満足できるものであった。
「勘定お願いします。」
「はい、お釣り…あんた写真撮ってたやろ?、これ店の名刺
、また来てくんなはれ…おおきに。」
20:37分発の和田山(ワダヤマ)行きのヂーゼルカーに乗る。
ノンビリとした走りとエンジンの鼓動…無機質な電車と違って、ヂーゼルカーの持つ味わいはやっぱり良いもんだ、邪魔な電柱と架線も無いしね。
この日は和田山の旅館に泊まった。
●2日目
6:18分発~始発の次の列車~に乗り、1つ先の竹田(タケダ)駅にて下車する…街並全体が朝霧に包まれている、そんな感じだった。
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駅の背後にあるはずの山城・竹田城
の姿もガス
に包まれて影も形も見えない。
位置の見当すらつかないが、駅にあった案内板により登山道への入口はすぐに見つかった…その説明によると竹田城までは徒歩40分だそうである。
登山時における個人的な見地から、ガス~ここで言えば雲海
~と城からの「展望。」のタイミングが最適になるのは7時~8時ごろまでと判断した。
早すぎてもダメだし遅すぎてもダメだが、早くついたとしても待てばいい…ついつい悪い癖が出て、急いで登ってしまった。
つまり走って登った訳である…結果は当然、汗だく…そして休憩を兼ねた待ち時間、非効率な事この上ない。
登山道では誰とも会わなかったが、駐車場からの道の合流点からは大勢の連中がやってきた…皆、「疲れた。」だの「これは大変だね。」などと言っていた。
まったく、お前らときたら…
本丸へと続く、山の背骨付近から…この山の標高は低いので雲海というよりは川霧
と言ったほうが正確かもしれないが、響きが良いのであろう。
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本丸付近より、曲輪を見る…この城は、但馬を攻略した「木下とうきち。」の弟である羽柴秀長が一時期、城主として在城していた事もある。
控えめで人の心を知る秀長が死んでからというもの、人たらしの「とうきち。」は単なる女たらし&戦争バブル経済マシーンと化してしまった。(俺の私見。)
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本丸付近には、高そうなカメラを構えた人が数人ほどいてね、彼らはガスの具合の他に太陽も計算していたようだ。
可愛らしいビーグル犬や、本丸からの展望に興味津々なチワワもいたよ。
下に見える橋は播但連絡道である…ガスの下には田園が広がっているのも確認できた。
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午前8時半ごろガスは完全に消えた…それまでに写真は充分撮ったので竹田駅へと向かう。
9:04分発の列車で和田山へと戻り、但馬の海を眺めるべく山陰本線に乗った。
なだらかな山陰の山々
、まだ収穫途上の田んぼ、畑、黒塗りの木造瓦屋根のこの地域独特の民家、そして日本海…
車窓からは、かつて寝台特急『出雲。
』で見た風景~あの時は冬で、寒々しい印象ではあったが~が懐かしく思い出されて嬉しかった。
今はもう、思い出となってしまった余部(アマルベ)鉄橋…風が強かったため、手前の香住(カスミ)駅で2時間待たされた事、鳥取の吹雪
、紳士であった初老の車掌、猛吹雪による米子駅での3時間。
もはや、コンクリート橋とステンレス車両へと変わってしまった余部の橋には行くつもりは無かった。
だがその手前には、嬉しい事にあの時と今も変わらぬ場所がある…餘部の1つ手前の駅、鎧(ヨロイ)である。
鎧駅のホームより…こちらのホームはもう使われていないが、朽ち果てかけた木製のベンチと錆びたレールと共に残されている。
トンビが空を舞いウミネコの鳴き声が聞こえてくる…それだけだ…
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雑草が生い茂る引き込み線の廃ホームには婆さんが座りこみ、爺さんはエンジンをかけた軽トラの前に飛び出そうとした飼い猫を叱りつけている。
材木を担いだおじさんが線路を横断しホームによじ登る…本当はダメなんだけど、列車はあまりこないんだよ。
駅でのまどろみを終えて、集落へと続く道を降る…潮の香り、草の匂い、そして時折臭突の臭い。
堆肥の匂いが漂う緩いカーブの道を進む、畑では爺さんと婆さんがちょうど休憩中であった…俺のカメラ
を見て婆さんが言う。
「何か良い写真でも撮りにきたのか?」
「ええ、ちょっと家と海を…この道を進めば海へと出られますかね?」
爺さん「何を言うとるんや、海へ行くにはそこの坂道を下へ降りるんや。」
「饅頭喰うか?、この饅頭は大阪から届いた饅頭や、旨いから持ってけ。」…婆さんは饅頭を2つ、俺に投げてよこした。
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漁港へと続く集落…山陰地方独特の黒塗りの木造建築、そして黒瓦。
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鎧漁港では漁の他に、アワビの養殖も行っていると書かれていた…静かな波の音
とウミネコの声、サギが海面をじっと眺めていた。
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灯台付近より、漁村を見る…山と山の間に山陰本線と道路が走っている。
ここで釣りをしていたおじさんが魚を次から次へと釣り上げる
…人は少なく魚は多い、ライバルはサギくらいかな。
堰堤に座って先程の婆さんから貰った饅頭を喰った、朝から何も食っていなかった事もあるけど、この饅頭は絶品でね。
中の白餡にはほとんど味がなくサクサクの甘い衣との相性が絶妙、こんな旨い菓子は久しぶりに食った…ばあさんに感謝したよ。
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鎧駅まで戻り、13:33分発の列車に乗る…カニで有名な香住駅にて特急をやり過ごす為、15分程度停車した。
ホームにあるカニの手の置物が懐かしい、そして列車の時刻の掲示板…電光掲示なんかじゃねえ、バタバタと音のするやつだよ。
昔はみんなこれだったんだろうね、俺が小さい頃までは東京駅にもあった事は覚えているんだけど。
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この近辺には有名な城崎(キノサキ)温泉という地があるが、俺は行きたいと思った事はないね…理由は、温泉に対する考え方の相違だ。
以前までの俺はこういった「温泉。」を完全否定していた…でも今は、この地域に「あくまでも、経済的に貢献。」しているのであれば、叩く必要もなかろうと思うようになった。
俺も少しは成長したというべきか、それとも退化したというべきなのか…でも、金まみれの場所だったら叩くだろうなあ。
いずれにせよ、山陰にはまた行きたいな。