新潟久紀ブログ版retrospective

【連載19】空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕(その19)」

●不思議なおばちゃん達と僕(その19) ※「連載初回」はこちら
~元旦の介護施設視察 (2/2)~

 我が家から目的の施設までの道のりは殆どが国道の一本道。平成26年元日の朝は殆ど車通りがなく、雲の合間にしばしば朝日が照らす下で道中は順調であり、施設の所在地が国道から住宅街に少し入り込んだ所だったので車を少し行き来させてまごつきはしたが、母との二人旅は予定より早めに到着を迎えた。約束から10分ほど時間前であったので恐縮しながら施設の玄関をくぐると、電話で応対してくれた施設責任者が穏やかな笑顔で招き入れてくれた。40歳代くらいの男性で想像していたより若いとは思ったが、無駄な慇懃さとか偉ぶった感じがないのが親しみやすい。最初からこれは良い施設だなあと僕の好感度があがる。やはり第一印象というのは大事だなあと思った。
 施設責任者は先ずは施設内をご覧くださいということで、各フロアを順次案内してくれた。開設してまだ数年らしく、施設設備がどこを見ても古びておらず清潔感が高く、壁や床が茶や灰といった配色であるなど全体に落ち着いた雰囲気を醸し出していて、僕が福祉ケースワーカーとして現場を回った古い特養などが病院のような雰囲気であったのとは大違いだ。フローリングの広いホールでは、入所者達が朝食後のお茶を片手に和やかに談笑している。見た目にとても品の良い高齢者達だ。車椅子の方も含めて身なりが整っている。基本的に個室となる居室が並ぶ空間も、特養と異なり、奇声が聞こえることもない。
 一通り内部を巡視してみて僕の目から見れば申し分の無い施設だと思えた頃合いで相談室へと案内された僕と母は、勧められた熱い緑茶を合間に啜りながら、改めてこれまでの経緯などを説明して、真ん中のおばちゃんの入所が可能かどうか施設責任者に打診してみた。入院中の真ん中のおばちゃんを退院と同時に入所させたいという僕と母の思惑と異なり、責任者は取り急ぎ入所ということであれば"年少のおばちゃん"の方が対象となりそうだと話し始めた。
 「現時点で認定されている介護度がネックとなります」。真ん中のおばちゃんは酷く衰弱して退院後の自立的生活が危ぶまれることは間違いないのだろうが、入院時点でこの施設の入所要件に該当できる介護度の水準にないので、即座に入所ということは叶えられそうにないという。一方で、年少おばちゃんであれば、知的障害に伴う介護度水準がクリアしているというのだ。
 そうなれば"おばちゃん違い"の入所にはなってしまうが、現実的に僕の母の負担が少しでも減ることに通じるならば、それもむげに捨象できない選択案かなと僕は思った。ただ、年少おばちゃんは四六時中独り言を発したり他人からは奇異に思われる行動癖もある。先ほどまで見てきたこの施設の品の良い老人達の中で馴染めるのであろうか、施設職員も適切に対応できるのであろうか。僕は歯に衣着せずに率直に責任者に聞いてみる。
 そこは当施設の趣旨や機能からして問題はありません。ただ、御本人の気持ちが何よりも重要ですから。いずれにしても面談調査をさせていただく必要があります。施設責任者は穏やかにもっともな説明をしてくれた。結局、当初の訪問目的とは別のおばちゃんを想定した話しに変わってしまったが、真ん中のおばちゃんが退院して在宅で面倒を看る対象が二人になってしまう前の施設入所が望ましい。おばちゃん達の家における施設職員による年少おばちゃんの面談調査の日を、施設が対応可能な最速日である1月5日に予約して、1時間半ほどにわたる施設現地視察を終えた僕と母は車で帰路についた。
 元日の昼前ともなると、初詣のためなのか朝来た道中よりは車通りも増えていて、減速や停車が心なしか増えた道すがら、施設を出てから黙って色々と思案していた助手席の母が口を開いた。おばちゃん達いずれか一人でも入所が適えば、母の負担が減ることは確実であることと、年少おばちゃんが温厚な施設職員との面談を通じて意外にも施設入所に前向きになるかもしれないこと、そんなことから施設への入所話しは取り敢えず進めていきたいという。僕と同じ考えだ。
 「ただ…」と母は続ける。あの施設が上品でお洒落すぎているし、入所している人達も皆どこか裕福そうで"毛並み"が違う感じだ。貧困家庭で爪に火を灯すような生活をしてきたおばちゃん達には、落ち着いて馴染んで暮らせる環境や雰囲気と言えるかというと、違う感じがする。本人にとっても他の入所者にとっても、ひいては施設職員にとってもあまり上手いことにはならないのではないか。
 僕は、母の手術入院騒ぎ以来、おばちゃん達の様子を垣間見ることが以前より増えていたことから、度を超して見える節約と倹約ぶりとそれがもたらした目や心の"すさみ"みたいなものが年々強まると感じていたので、母の思いが良く理解できた。よしんば円滑におばちゃんが入所できたとしても、何かトラブルや心身の不調があった時に対応するには母と僕の居所からこの施設はそもそも遠すぎるということもある。
 然りながら、他に打つ策もない僕と母は、得られる機会を捉えて対応していくしかない。本日の施設訪問で何か大きな好転を期待していたわけではないものの、混沌とする思いは車の足回りを心なしか重くさせる。先行きが全く見えないことを象徴するように、平成26年元日は陽が僅かに差したり雲に覆われて時雨れたりを繰り返しながら、昼下がりを迎えていた。

(空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕」の「その20」に続きます。)
※"空き家"の掃除日記はこちらをご覧ください。↓
 「ほのぼの空き家の掃除2020.11.14」
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