新潟久紀ブログ版retrospective

【連載25】空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕(その25)」

●不思議なおばちゃん達と僕(その25) ※「連載初回」はこちら
~特養での季節の行事に人の一生を想う~

 別々ではあるが特養に二人のおばちゃん達が入所して以降は、関係が疎遠になるかといえば逆で、僕は二人が在宅の頃よりもかえっておばちゃん達の様子を伺う機会が増えた。施設側が立案する入所者一人一人についての介護計画の説明を聴いて、身元責任者としてその内容を承諾したり必要により要望を申し入れたりする対応が2~3か月に一回程度あり、内容が細かく書類の確認なども要したため、母が僕の同席を都度求めたためだ。
 四半期に一回程度の施設訪問というと、丁度季節の節目に当たることが多く、春のお花見、夏の七夕、秋の紅葉、冬は正月というように施設内の催しに遭遇する機会がしばしばあった。介護度の高い老人達なので、大抵は外に出掛けてということではなく、施設の広間や狭い庭先を使ってという程度のことなのだが、手作りによる飾り付けや簡単な出し物などで雰囲気づくりや演出がされていて、物理的な介護の作業で大いに忙しいだろうに、施設の職員達の一生懸命さと思いやりが随所に感じられて頭が下がる思いであった。
 そうした季節の催事を見ると、保育園や幼稚園では重要行事であって、父兄として参加した僕自身の子育て時代などが思い浮かばれる。子供達が小学校に上がって以降は、教育の現場からそうした文化風習めいたものが消えゆき、中学生になって特に体育会系の部活動でも始まろうものなら風情のある催しなどには触れる暇も無しだった。それが、人生の最終盤を過ごす場において丁寧に展開されていることは非常に感慨深さを感じる。人は"四つん這い"で育ち始め、"杖を含めた三本足"に老いて終焉を迎えるとか、人生というのは"環"のように閉じてゆくものだとか…、そんなとりとめもない思いを浮かべながら、季節の行事を楽しんだりしている老人達を眺めていたものだ。
 それにしても、そうした施設の催しは二人のおばちゃんの個性の違いを際立たせた。知的障害のある年少おばちゃんは、心持ちは子供と同じようであり、最初の頃こそ人見知りが強く施設職員と馴染むまでに時間を要したのであるが、馴染み始めると職員に甘えたり楽しげな行事に進んで参加したりしていったようだ。僕が時折訪れて遠くからレクレーションを楽しんでいる様子など見ると実に屈託がない感じだ。ただ、心得た施設職員ならそうした交流になるのだが、同じ入所者で特に男性のやや強めに話しかけてくるような感じの老人には、悪気があるわけではないことがなかなか理解できないようで、「同じ場に居ないようにしてくれ」などと職員を困らせたりしていたようだ。
 それでも、"倹約節約の鬼"と化して終始スパルタンであった真ん中おばちゃんとの同居に比べれば天国のような暮らしであったのだろう。年少おばちゃんは施設入所以来、病気で緊急入院した時から会えないままとなっていた真ん中のおばちゃんのことを慮るような発言は一切聞かれなかった。そこは悪意などではなく知的障害ゆえということなのかもしれない。いずれにしても施設に順化してくれたことは僕と母には有難かった。
 一方で、「年少おばちゃんはどうしているか」とか「自宅はどうなっているか」「早く家に帰りたい」などと僕や母が面会に行く都度口にして問い質してきたのが、真ん中のおばちゃんだ。どれほど強く詰め寄ってくるわけではないのだが、施設での生活は在宅で暮らせるほどに体調が回復するまでの一時的なものという意識が根強いらしい。施設の職員さんへも時折訴えるようであるが、事情を心得ているのでなだめたりしながら対処してくれているという。それでも、僕の母から直接話を聞かないと信じられないということが度々あって、施設職員からの状況連絡の内容によっては、母は自転車や時にタクシーで面会に行き事態を落ち着けたりしていた。
 そんな状況だったので、真ん中のおばちゃんは施設での季節の行事には消極的であったようだ。仮住まいの意識であったことと、長く家の中の事を一人で切り盛りする極めて内向きな生活歴の中でぶっきらぼうで社交性に乏しい気性が頑固に出来上がっていたことによるものであると、僕と母は熟知していたので、施設職員が自分たちの力不足であるかのように恐縮するたびに、皆さんの責任ではないのですよと説明して励ましたものだ。

(空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕」の「その26」に続きます。)
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 「ほのぼの空き家の掃除2020.11.14」
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