葉巻体験

先日、友人Oからケータイに電話が入った。共通の友人であるHが久しぶりに関西に帰ってきているので3人で会わないかとのこと。Hと会うのはたぶん私の結婚披露パーティー以来だから5年ぶりではないか。

2000年の冬に神戸のイタリアン・レストランで開いた結婚披露パーティは、内輪の友人だけに集まってもらった本当に小さな会であった。我々夫婦も入れて10人足らず。妻も私も結婚式をするのが嫌だったのだ。友人たちに「自分の仕事服を着て出席して欲しい」とお願いしたら、Hは外科手術用の格好をして駆けつけてくれたのであった。Hは心臓外科のお医者さんなのである。

さて、Oから電話のあった翌日、仕事帰りに、午後9時半に梅田でHとOに合流。Hは学会の発表のために来阪したんだそうである。最近『白い巨塔』を読んだばかりの私は、なんか財前教授みたい、とか茶化してみる。H曰く「おれはそんなに悪い医者ちゃうで」。失礼しました。

さてどこに行こうか、となったとき間髪入れずHが「シガー・バーに行こう」ときた。シガー・バーって。えらいまた大人の提案である。そんなとこ行ったことない。なんでも学会に出席するためにフィラデルフィアに行ったとき、宿泊したリッツ・カールトンのシガー・バーをとても気に入ったんだそうだ。「大阪のリッツ・カールトンにもあるらしいからそこへ行こう」。なんかめちゃめちゃ金かかりそうな・・・。まあいいか。ちょっと面白そうだし。

リッツ・カールトンの重厚なドアを開けて、1Fのラウンジに入ると、たしかにシガーが木箱に入って並べられている。奥まったところにあるソファーに案内された。なかなか座り心地がよろしい。そこへウェイトレス（じゃないな、この場合なんていうのだ？女性店員？）が葉巻と酒のメニューを別々に持ってきてくれた。葉巻のメニューなんて初めて見た。さっぱりわからないので、「リッツ・カールトン・リジョス」とかいう名前のやつを選ぶ。ハウス・ワインみたいなノリか。1本1,800円（だったと思う）。相場を知らないのでこれが高いのか安いのかもわからない。しかし普通のタバコ6箱分なんだからこれはやはり贅沢である。他の2人はそれぞれ別の銘柄を選択。酒はやっぱりスコッチであろう。ちょっと悩んでラフロイグをストレートで。

程なくして店員が葉巻を持ってきてくれた。が、なぜか2本だ。「どちらになさいますか」。これまた意表を突く質問である。葉っぱの乾き具合などに好みがあるものらしい。もちろんわからないので、適当に1本を選んだ。「ストレートですか、パンチにされますか？」。なぜここで彼女がパーマの話をするのかと一瞬戸惑ったものの、実はこれは葉巻の吸い口の切り方のことらしい。これもなんだかわからないがストレートで。「火はこちらでお点けしましょうか？」。たしかにここがお好み焼き屋であれば「いや。自分で焼きます」と自信を持って言えるけれども、葉巻だと話は別だ。ここはプロにお任せするのが無難であろう。毅然とした態度で「ぜひ、お願いします」と頼む。

むー。しかしこれはワイン以上のハードルの高さ。こりゃもう間違いなくシガーって薀蓄の宝庫なんであろうなあ。などと心の中で呟きつつ、点けてもらったシガーを受け取って、深々と喫ったら、Hから「葉巻はタバコとちゃうからそんな深々と喫うもんとちゃうで。ふかすねん」と注意された。あ。そうだったのか。でも普段タバコを喫い慣れているので「ふかす」ことがなかなかできない。ついつい肺に煙が入ってしまい、これが非常にへヴィーで、内臓全体にズッシリと来る。コツをつかむのにけっこう時間がかかったが、しかしなかなか旨いではないか。そいでもってスコッチ・ウィスキーととてもよく合うんだなこれが。

結局この店で1時間ほど談笑。葉巻1本とラフロイグ2杯で6千円は、安くないけれども、たまにはやってもいい贅沢かもと思った。

ところでHは今秋からアメリカの病院で研究者として働くんだそうである。しっかり研究をして、さらにいいお医者さんになってね。