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南房総館山・なぎさの自然詩

南房総館山の自然や海での出来事を紹介しています。

身近な生物の観察 ハマボウフウ

2025-06-15 15:08:08 | 植物

海岸特有の植物の総称を海浜植物と言いますが、ハマボウフウはその中の一種です。
セリ科ハマボウフウ属で白い小さな花がいくつも集合して一つの花を形成しています。
低い草丈は強い海風が吹く海岸に適応した形状で、希に風の弱い場所では草丈はやや高くなっています。

花期は春から夏までと長く、花が終わると種子が出来始め、白い花が緑色の丸い種子へと変化します。


更に種子が熟し始めると緑色から赤色へ変わります。


徐々に赤みを増していく種子は真っ赤になり、緑色の砂丘には点々と種子の赤色が目立っています。
海岸の砂丘は多くの海浜植物から作られています。

その一つはハマゴウ。


テリハノイバラなどたくさんの海浜植物の根や茎が海岸の砂を留め長い時間をかけて砂丘を作り出すのです。


潮間帯から続く緩やかな砂丘を覆う海浜植物の緑色の絨毯が見渡す限り広がり、心安らかになる風景です。
そんな海岸で先日(2025年6月12日)、シャベルを持っている3人の方を見かけて、話を伺う機会がありました。
東京都の成蹊小学校の職員の方で、小学生の生物観察のためにハマボウフウの根を掘るとの事でした。


その成蹊小学校の生物観察後(2025年6月14日)にどうなっているかと思い海岸へ行くと、砂丘には広範囲に大きな穴が幾つも掘られていました。
海浜植物で覆われていたその場所は大きな穴が掘られ、そこにあった貴重な植物は無くなり目を覆いたくなるほど酷い風景です。
たくさんの人が砂丘を歩いた為、海浜植物は何度も何度も踏み締められ弱々しく見えます。


ケカモノハシは根っこごと掘り返されて、そのまま放置されています。


ハマグルマは掘り返された砂丘の穴の隅で力無く顔を出しています。


ハマボウフウの種子は砂に埋もれて、苦しそうに見えました。
教育や研究と言った活動の為に、海岸を形成する砂丘を破壊し、植物の命を奪い、育成地の減少を招く行為が世の中では受け入れられています。
長い年月をかけて作られた自然の中で、特に条件の厳しい海岸で根付いた海浜植物を、生物観察のたった一日のために壊してしまうのは、自然の回復力も追いつかないのではないかと懸念しています。
砂丘一面に広がる緑色の絨毯はあちこち穴が開き、植物達が苦しそうに見えて悲しい気持ちになりました。

ハマボウフウは千葉県レッドリストのカテゴリーDの一般保護生物に指定されています。
以下、千葉県ホームページより引用
個体数が少ない,生息・生育環境が限られている,生息・生育地の多くで環境改変の可能性がある,などの状況にある生物.放置すれば個体数の減少は避けられず,自然環境の構成要素としての役割が著しく衰退する可能性があり,将来カテゴリーCに移行することが予測されるもの.このカテゴリーに該当する種の個体数を減少させる影響は可能な限り生じないよう注意する.
引用終わり

保護されるべき植物を自分達だけであれば環境に負荷をかけないと言う考えで、それぞれ全国の小学校が別々の海岸で、このような生物観察をしていたらハマボウフウを始め、多くの海浜植物が失われてしまう可能性があります。
何よりもたくさんの海浜植物に覆われた砂丘にシャベルを突き刺す行為、植物達を傷付ける事を子供達がどう感じるのか気掛かりです。











海浜植物の紅葉

2024-12-04 19:12:24 | 植物
12月とは思えないくらい暖かな日射しの海岸では、少し歩いただけで体もポカポカしてきます。
ポカポカ陽気の海岸ですが、海浜植物を見ると冬支度を始めているようです。

赤く色づき始めていたハマボッス。
この時期のハマボッスは砂浜に張り付くような感じで放射状に葉を広げていました。
これをロゼットと呼ぶそうで、ネットで調べたところ、開花した花を上から見た形を図形化したもののことだそうでフランス語のバラが語源だと知りました。

そして砂丘の中で一際目立っていた赤色の葉はイワダレソウ。
その隣りにはハマヒルガオが黄色くなっていました。

更にハマボウフウは黄色い葉が緑色の葉に混じってちらほらと見られました。

赤くこんもりとしたのはケカモノハシです。

海浜植物の覆う砂丘ではハクセキレイが何か虫を捕まえたようでした。
よく見ると顔が黄色くて、まだ成鳥に成っていない幼いハクセキレイです。

少し離れた砂浜には親鳥と思われるハクセキレイがいたので、1羽だけまだ親離れ出来ていないのかもしれません。

ビーチコーミングではウニと微小貝を見つけました。
5cmくらいのヨツアナカシパンと5mm程のマメウニの仲間。
満潮時の打ち上げラインにはたくさんの微小貝が見られて、時間の許す限り探していました。


海岸で過ごす時間はあっという間に過ぎて、気付けば強い風が吹き始めていました。
ウインドサーフィンがその風に乗っているのが気持ち良さそうに見えました。










イソギクと微小貝

2024-11-24 18:48:31 | 植物

秋晴れの南房総の海岸は心地良い北風が吹いています。
暖かな日射しの下で、イソヒヨドリのメスがぼんやりして日光浴している様に見えます。
そんな穏やかな雰囲気の海岸を歩いていると、あちこちに花が咲いていました。


薄紫色の小さな花を咲かせていたクコ。


イソギクの群落も満開を向かえていました。
今年の南房総は今の時期、イソギクの花があちこちの海岸を色鮮やかにしています。
イソギクは海岸の岩場等に育成する海浜植物で、太平洋側では千葉県以南から分布しているそうです。
キク科の花にはよく見られる頭状花序と言われる多数の小さな花が集まって1つの花となっています。


黄色くて丸い小さな花が印象的で、近づくと花の良い香りが漂っています。
この花には解熱、解毒、鎮痛、消炎等の効用があるとネットで知りました。
花の満開時期に採取して日干しにしたものを煎じて服用するそうです。
また、漢方処方の釣藤散や杞菊地黄丸にも配合されていると知りました。
イソギクやハマゴウ等の海浜植物には薬効のあるものが多いのは、もしかしたら厳しい環境で育成する事に要因があるのかもしれません。



更にマルバグミが実をつけていて、赤色が晩秋の海岸を彩っていました。


砂浜に目を落とすと、たくさんの小さな貝殻が見えます。
私の好きな貝殻のひとつのシラタマガイがポツンとあって、目に飛び込んできました。
上げ潮に乗って次々打ち上げられてくるような感じで、ひとつひとつ拾い上げていきました。


紅白の微小貝。
白いシラタマガイと赤いサラサバイとチグサガイです。
小さな貝殻を無心に探していると、気持ちが軽くなってきて充実感いっぱいになるのが不思議です。


休日の海岸にはたくさんの人が訪れていました。
その中には大型犬を3匹連れた家族連れが歩いており、よく見るとリードを付けていないようでした。
海岸は開放的で自由な空間なので、その人の素が現れる場所なのかもしれません。
海岸や他の自然環境では特別なルールは無いように思えます。
しかも砂浜は一見すると生き物もいない不毛の地に見えます。
しかし海岸には目に見えない小さな生き物達から鳥、海浜植物等のたくさんの生き物達が暮らしています。
その生き物達の事を思うと、海岸に行く時には謙虚な気持ちを持っていた方が良いのではないかと、私は感じています。











ハマゴウ 蕾から種子になるまで

2024-09-08 16:35:12 | 植物
ハマゴウは潮間帯からずっと離れた砂浜の奥や砂丘に群生している海浜植物です。
牧野植物図鑑によると、古名はハマハイと呼ばれていたそうで、浜を這うその姿からの命名かもしれません。
長い茎を砂地の上に這わせ、砂の中にも地下茎を縦横無尽に巡らせ、海岸に砂を堆積させる役割があります。
砂地の広い範囲を覆うように見える落葉低木で、緑色の葉からはとても良い香りがします。
そんな繁殖力の強いハマゴウなので、厄介な雑草というイメージを持たれて排除されやすい海浜植物でもあります。
例えば、旧アクシオン前の平砂浦海岸の砂丘に広がっていたハマゴウの群落が消失してしまいました。
重機により完全に排除してしまった為、そこは以前と比べてすっかり様変わりし不毛の地となりました。
その結果は強い南寄りの風が吹くと、海岸からの飛砂で道路の通行止めが度々起こっています。
人的な海岸環境の改変は一瞬で出来ますが、元に戻すには大変時間がかかります。失った後に初めてその大切さに気づくのでは、余りにも悲しい事です。
人が生まれる前からの長い時間をかけて創り上げた海岸を、これ以上人の手を加えず見守っていくことも大切なのかもしれないと思います。


ハマゴウの蕾。

紫色の花。


朝露に濡れた花。
ハマグルマと競うように全体が海浜植物で覆われた砂丘です。


若い種子。


熟し始めた種子。


種子だらけ。

花期が長いようで9月にも花を咲かせていました。
海岸という特殊な環境に適応してきた海浜植物の花の美しさを、沢山の方に知って欲しいと思っています。
春夏秋冬の海岸には、それぞれ季節ごとに花を咲かせる海浜植物があります。
ハマゴウは夏の花。
砂浜を歩く時、足元を見ると健気に咲く花がとても美しいです。



ネコノシタ(ハマグルマ) 蕾から種子になるまで

2024-08-09 19:02:55 | 植物
海岸に適した植物はその特殊な生息環境のために、海浜植物と呼ばれています。
波飛沫、潮風等の塩害や極端に水分に少ない砂浜、台風の接近時には強風を遮ることの無い場所が海岸です。
他の植物が育つには厳しい環境でも海浜植物は春から秋にかけて花を咲かせます。
夏の暑い盛りに花を咲かせるのがネコノシタ、別名ハマグルマです。
小さな棘のような固い毛が葉にあるため、それを触ると猫の舌のようにザラザラするので、それが由来となったそうです。
キク科キク亜科の植物なのですが草丈は低く、砂丘の上を這うように蔓を伸ばしています。
砂浜ではハマヒルガオやハマエンドウなどと競い合っている感じで、場所によっては砂丘一面を覆う程の群落になります。

青々と茂る葉の中に見える小さな緑色の蕾。
大きさは5mmくらいです。

2cmくらいの黄色い花は海岸に咲く小さなヒマワリのようです。


花が終わると種子が出来始めます。


小さな種子一つ一つが熟してくると、全体が茶色っぽく色づいています。


同じ株には花が咲き始めたものから種子になったものまで揃っています。
花期をずらす事で種の散布時期も長期間になるので、台風等で海岸の条件が悪い時をかわして種子を残すことが可能になります。
艶のある緑色の葉は肉厚で、水分をたっぷり含んでいるように見えます。
海岸は海水はたっぷりあるけれど、植物の成長に必要な水は極端に少ないので、このような形態なのかもしれません。
また葉の固い毛は表面積を広げ、寒暖差で生じる朝露を葉の表面にたくさん留めるのにも良さそうです。
厳しい環境だからこそ、独自に進化して適応してきたのが海浜植物なのだと思いました。
小さな植物が生き残るために花を咲かせ、たくさんの種子を実らせる姿は美しくて力強さを感じます。