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南房総館山・なぎさの自然詩

南房総館山の自然や海での出来事を紹介しています。

根本海岸のシロチドリ観察

2025-06-19 21:36:01 | シロチドリ

今年も南房総の海岸で繁殖を始めたシロチドリ。
繁殖の様子を記録している海岸での今年初めてのヒナです。(2025年6月14日)


ここまで成長するには親鳥の大変な苦労があっての事です。
営巣中の役割分担は明確で、危険度の高い場面では必ずオスが最前線に出て来ます。
また、抱卵中に外敵が現れた時には偽傷行為と言う、弱った振りをして卵から遠くへ離れていき、自分を囮にして外敵を引き寄せる行動を取ります。


この偽傷行為はオスとメス共通の行動です。
砂浜に翼を叩きつける姿は痛々しく、その小さな体にどれ程の負担がかかっているかと心配になるくらい激しいです。


暑い日中には砂地の温度が高くなるので卵に日陰を作ります。
灼熱の暑さの中を口を大きく開けて、その小さな体で耐えているのです。
海岸に強風が吹き荒れる時も、豪雨の時もその場所を離れることなく卵を守り続けます。
オスとメスが交代で抱卵しますが、
約3週間で卵が孵化すると、メスは片時もヒナの側を離れず、常に周りを警戒して全力で守る行動をします。
全身全霊でヒナに尽くすシロチドリは、もしかしたら人よりも高い知性を持つ生き物かもしれないと思えてくるのです。
そして今年もまたシロチドリ達の暮らす海岸で、大型重機を使った海水浴場開設の為の海岸整備が始まります。
どうして一つの命の成長を見守る事が出来ないのかと思います。
人間の方が野生動物に合わせて行動を変えることは可能だと思うのです。
大型重機を使った海岸整備ですが、約2週間かけて行っている日程を例えば3日程度の短い期間に行うとか。
海岸の波打ち際ぎりぎりまで整地せず、駐車場までのエリアにするとか。
絶滅危惧種の生息地が海水浴場となることを、自治体である南房総市がなぜ認めているのでしょうか。
海水浴場が開設される前にシロチドリ等多くの海岸で暮らす生き物がどのような状況にあるかを知って欲しいのです。
親鳥が大切に守り育てている命を、ヒナが飛び立ち巣立つまで、どうか最後まで静か見守る事が出来るよう願っています。

シロチドリ物語

2024-09-15 20:43:56 | シロチドリ

シロチドリは3月頃になると、越冬地から繁殖地である千葉県南部の海岸に移動してきます。
頭から背中にかけて淡い灰色、首から腹にかけて白色なので正面から見ると真っ白く見えるのでシロチドリと呼ばれているのかもしれません。
こちらは今年の夏に海岸で子育て中だったメスです。


オスは11月頃から換羽が始まり、頭の色が変化し、おでこ近くが黒色、その後ろから茶色くなります。
オスの体色は個体差があり、今年見た中ではメスのように頭の色が淡い灰色だったオスもいました。


4月頃から産卵し、合計3個の卵をおそらく毎日一つずつ砂浜へ直に産みます。
卵は約3週間で孵化し、その後約半日位ですぐにヒナは歩き始めます。
親鳥は給餌せずヒナ自身で採餌し、約3週間で飛べるまで成長します。
飛べるようになると、越冬地ヘ旅立ちます。

ここから今年の春から夏にかけて、千葉県南房総市の海岸で子育てしていたシロチドリの物語です。
3月に海岸へやって来たシロチドリ達は夫婦になる相手を探しています。
中には繁殖地に番でやって来るシロチドリもいるような感じがしています。
そして、この海岸でも数組が夫婦となり、子育ての準備を始めました。
5月には卵を産み、夫婦交代で抱卵しています。
抱卵中でも周辺を警戒し、トビやカラスがやって来ると、卵が天敵に見つからないよう巣から離れます。



特にカラスは賢くて、毎年やって来るシロチドリの卵やヒナを捕食しています。
シロチドリもそれを分かっているので、カラスの事は特に警戒しています。
小さな体のシロチドリではカラスに太刀打ち出来ず、全ての卵を奪われるまでその攻撃に耐えているのです。
母性本能が強いメスはヒナを守る為に捨て身の攻撃をして、その命を落とす事もありました。


6月になると海水浴場とキャンプ場開設の為に海岸整備が始まります。
小さなシロチドリの卵は重機によって幾つの命を奪われたのでしょうか。
大切にしていた卵が無くなると、再びシロチドリは繁殖を始めます。
そんな姿に野生の強さを感じます。


海岸整備する重機が大きな音を立て作業する中で、何とか産卵する事が出来たシロチドリ。
今年は猛暑の影響で気温が高く、海岸はもの凄い暑さです。
そんな中で毎日毎日ずっと抱卵していますが、何故かオスがいません。
通常ならオスが抱卵を交代している間に、水を飲んだり餌を探したりします。
猛暑の中で卵が熱さで死んでしまわないように、自分の体で日陰を作って抱卵していました。
更にカラスの攻撃から守りぬいた卵。
遂にシロチドリが無事に孵化しました。
ヒナは母鳥のお腹の下に入って隠れようとしています。

3羽いた兄弟は2日後には1羽居なくなり、5日後には更に1羽居なくなっていました。
親鳥は大切に守って来たヒナ達が捕食されるをどのように思って見ているのでしょうか。


最後に残ったヒナはたった1羽です。
酷暑の中で海岸で過ごすヒナは、少しでも日影を見つけていました。
小さな体では高温の砂浜は命に関わります。
シロチドリ保護の為に作った看板の影で一旦休憩して、安全な場所へ移動していました。

ヒナが飛べるようになるまで後数日と言う21日目に、全てのヒナが居なくなりました。
勿論母鳥も居ません。
この流木の影でヒナ達がよく休んでいたのに、もう誰も居なくなりました。

流木の隙間に手を入れると、ヒンヤリと涼しくて、ここなら暑さを凌げそうです。
この海岸で暮らしたヒナ達にとって、この場所は自分達の家のようだったのかもしれません。

この広い海岸はシロチドリ達の庭だったのかもしれません。
3羽いたヒナ達が居なくなり、母鳥はたった1羽で越冬地ヘ旅立って行きました。

















野生動物が教えてくれること

2024-08-22 19:09:34 | シロチドリ
海岸でビーチコーミングしていると、たくさんの野生動物との出逢いがあります。
渚を走るシロチドリです。

磯で採餌しているコチドリです。


自分にとって、海岸で繁殖するシロチドリやコチドリは、観察する中でたくさんの事に気づくきっかけをくれます。
今年はシロチドリの繁殖期に海岸へ通い、様々な事例を見る機会がありました。
産卵の確認をして観察を続けていると、孵化する前に卵が無くなる事が頻繁に起こるのです。
他の動物に捕食されるのだと思っていましたが、ある日カラスがコチドリの卵を捕食する瞬間を目撃しました。
大切に守ってきた卵を奪われ無いように、親鳥はカラスの周りで鳴きながら走り回り抵抗していました。
しかしカラスには全く効果が無く、卵を一つ咥えて行ってしまいました。
更に近くにいたカラスの幼鳥に、卵の探し方を教えているようにも見えました。
海岸をテリトリーにしているカラスにとっては、春から夏にかけて繁殖にやって来るチドリ類の卵やヒナは貴重な餌として記憶され、代々受け継がれていくように感じました。
生き物同士の生き残りをかけた争いですが、チドリ類の方が圧倒的に不利な状況です。
天敵はカラスだけでは無く、ヘビ等にも捕食されたり、またヒトに踏み潰される可能性もあります。
抱卵中のシロチドリやコチドリは危険を感じると抱卵を中止して、その場から離れます。
観察している中で特にカラスとイヌは非常に警戒しているようでした。
カラスはヒトの生活に適応した結果数を増やした生き物ですし、イヌもヒトが海岸へ連れて来る為、いずれもヒト由来でのチドリ類への繁殖妨害のように思えてなりません。
カラスやイヌに罪はないけれど、シロチドリやコチドリにとって、それらの生き物が近くにいることは大きなストレスとなります。
イヌの場合はリードをつけヒトが制御出来ます。
しかし野生動物であるカラスの場合は行動を変える事は不可能です。
カラスなどの天敵から卵やヒナを守れるように海岸環境を整える事が必要だと感じました。
極端かもしれませんが、海岸にある高い構造物の撤去、砂丘の海浜植物群落の回復、漂着有機物を除去しない事が必要に思いました。
電柱の上から見下ろすと砂浜にいるチドリ類の動きは手に取るように分かります。
更に海浜植物の群落はヒナ達をカラスから守る避難場所になります。
流木も身を隠す為に必要ですし、海藻に集まる生き物はチドリ類の餌となります。
いつの日にかシロチドリやコチドリが安心して子育て出来る海岸になるように、現状が少しでも良くなって欲しいと願っています。


そしてビーチコーミング中には、ウミガメのストランディングに出逢う事もあります。
こういったウミガメを解剖し調査している方の話をネットで知る機会がありました。
その中で印象的だったのは一度も産卵経験の無い成熟したメスのアカウミガメがいた事です。
危険の多い子ガメの時代を運良く生き残り、長い年月をかけて無事に成長したウミガメが無残にも死んでしまったなんて本当に残念です。
あるアオウミガメのオスでは、食道から胃かけて海藻がびっしりで、死ぬ直前まで食べていた事が判明しているそうです。
ということは病気が死因とは考えられず、人的な要因だと思われます。
個人的には定置網による溺死だと想像しています。
せめて定置網の蓋が無ければ、この2件のウミガメの事故は起こらなかったかもしれません。
過去には引き上げた網の中にウミガメの卵があったという話を聞いたこともあります。
定置網に迷い込んだ母亀が死の直前に卵を産み落としたものかもしれません。
一度も産卵経験の無いメス、砂浜に卵を産みに行けなかったメスはいずれも絶滅危惧種のアカウミガメです。
定置網による人的な要因で死亡したという証拠はありませんが、定置網の構造を変える事は必要ではないかと思っています。

港や堤防、定置網等も無く、人が手を加えていない頃の海岸を見てみたいと思う時があります。
その頃の海岸をビーチコーミングしたら、どんな貝殻を拾えるでしょうか?
たくさんのウミガメが産卵しに来た足跡を見ることが出来るでしょうか?
波打ち際をたくさんのシロチドリのヒナが走り回る姿が見られるのでしょうか?
遠い未来の海岸もこんな風な世界になっている事を願っています。






ハマナデシコとシロチドリの卵

2024-07-29 20:45:37 | シロチドリ
ハマナデシコがようやく咲き始めました。
6月から毎朝、南房総市の海岸を生き物の調査の為に歩いているのですが、ハマナデシコの芽を見つけてから花の咲くのを心待ちにしていたのです。


ハマナデシコは岩場や崖の上に自生する海浜植物の一つです。
南房総では7月頃から明るい紫色の花を咲かせ、別名フジナデシコとも呼ばれています。
千葉県レッドリストではD要保護生物に指定されており、生息数が減少傾向にある海浜植物です。

草丈約50cm、一つの花の大きさは約1.5cm、葉は艶のある緑色をしています。
種子から育つ植物なので崖の上で花を咲かせているのは、どのようしてにその場所に定着する事が出来たのかと不思議に思います。
強い潮風で舞い上がり、崖の上に飛ばされたのでしょうか?
植物の移動は種子を遠くへ運ぶ事で可能になります。
それを種子散布と呼ぶそうで、その方法は大きく分けて重力散布、自動散布、風靡散布、風散布、水散布、動物散布の6種類だそうです。
海浜植物の場合は海流散布と潮風散布といった感じなのかもしれません。

そんなハマナデシコの咲く海岸を歩いていると、なんと卵が落ちていました。
よく見るとそれは卵の殻でウズラの卵ほどの大きさです。

実はその直前に毎日観察しているシロチドリの巣でヒナの孵化を確認していました。
抱卵していた場所に2羽のヒナが見えます。
棒の近くにある流木の影に隠れていて、望遠鏡で観察しているとヨロヨロと動いているのが見え、孵化直後の為まだ歩くことが出来ないようでした。
この巣は7/8に海岸の砂丘下で親鳥が抱卵しているのを見つけたものです。
その日から数えて21日目にヒナが孵化しました。
その巣から近い波打ち際で見つけた卵殻は、その親鳥が捨てに来たのだと思います。
卵の殻をそのまま巣の中に放置すると他の動物に狙われやすいのかもしれません。


同じ海岸にはもう一つシロチドリの巣があります。
この巣でもヒナが孵化したようで、メスの近くに2羽のヒナがいました。
それぞれ海浜植物の影に隠れるようにしてジッとしています。
この2羽のヒナは十分歩けるようで、親鳥から離れて自由に走り回り自分で餌を食べているようでした。

二つの巣で同時に孵化したのはとても嬉しい出来事です。
繁殖期に入ってから海岸の環境の変化等たくさんの困難がありました。
更に今年は猛暑の影響で海岸の砂浜は異常な熱さで、そんな中での抱卵を約3週間耐えてきたメス達の努力が報われたように思います。
ヒナが孵化しても他の動物に捕食される等の危険があります。
飛べるようになるには約3週間かかるので、それまでは何事も起こらず、無事に成長してほしいと願っています。






根本海岸のシロチドリ

2024-06-27 17:22:51 | シロチドリ

シロチドリが生活する海岸で今年も整備が始まりました。
千葉県南房総市根本海水浴場と根本マリンキャンプ場開設の為の公共工事です。
小さなシロチドリには大きな重機はどのように見えているのでしょうか。


6/25の根本海岸の様子です。
砂浜には重機の痕跡がありました。
適度に植物が生えていたので、シロチドリにとって隠れ処となっていた場所でした。
この場所は今年確認したシロチドリのヒナ5羽の内、無事に成長出来た1羽のヒナがよくいたところです。
前日の6/24にそのヒナがこの場所で昼寝している姿を見ていました。
重機の跡を見ると、ヒナの安否が気になります。


6/26には大規模な砂の移動をしていました。
以前の海岸とは比べものにならないほど砂浜が変化しています。
重機の通った跡の盛り土の上にはシロチドリのメスがぼんやりと立ち尽くしていました。


よく見るとそのメスのお尻の羽毛が垂れ下がっています。
このような姿を見るのは初めての事で、シロチドリに何があったのでしょうか。


6/27には更に砂浜の広範囲で砂を移動しています。


まるで畑の様な風景の中にシロチドリがいて、とても違和感のある海岸です。

海岸入り口から西側の砂浜がすっかり変わってしまいました。
オガミネから東側は原形が少し残されていますが、このイルカ岩が唯一、ここが根本海岸だと教えてくれます。


その東側の砂浜にメスのシロチドリがうずくまっているのが見えました。 
このメスは羽がとても汚れて、酷く疲れているような感じがします。
私が少し動いたら、メスは警戒してその場所から移動しました。
メスがいた場所に行って見ると、そこには何も無く、波打ち際まで戻ろうとした時に卵を見つけました。

殻が割れて中身が見えています。
何かに突かれた様な跡があり、別の鳥の嘴で割られたのかもしれません。
これは想像なのですが、卵はこのメスが産んだもので、外敵から卵を守る為に偽傷行為をしていたので羽が汚れたのかもしれません。
昨日(6/26)見たお尻の羽毛が垂れ下がっていたメスと同一なのかもしれません。
重機が移動する中、どこで卵を産んだらいいのか、メスはとても混乱していたのではないでしょうか。
その後卵を産んだものの、次は外敵に襲われ、必死に抵抗したけれど卵を奪われてしまったのかもしれません。
そんなシロチドリの事を想像したら、切なくて悲しい気持ちになりました。
約一ヶ月間の海水浴場とキャンプ場の為にどれだけのシロチドリが犠牲になっているのでしょうか。
このメスは海岸整備がされなければ、安心して卵を産む事が出来たはずです。
絶滅危惧種のシロチドリの繁殖地である根本海岸で、大規模な海岸改変する事に疑問を感じています。
海浜植物の茂る砂丘を分断し、車の通れる道を海岸に作る必要はあるのでしょうか。
シロチドリの住み家を奪う事をせず、自然のままの海岸ではどうして駄目なのでしょうか。
海岸整備事業が終わるのが7/10です。
それまではシロチドリが心安まる日がありません。
そして7/20からは海水浴場とキャンプ場開設となり、昼夜問わず人間がいる海岸となります。