ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

「秋風が心地いい」!!

2021-10-16 11:57:21 | 今 を
 ▼ 当地に居を構えてから、
次第に感じるようになったことがある。
 それは、「冬がつまらない!」。

 雪が降った朝は、雪かきをする。
それはそれで、ご近所総出の一斉作業で、
不思議と一体感があり、冬ならではのよさを感じる。

 新雪を照らす日の出の眩しさには、
時々、雪かきの手を休めて見とれてしまう。
 これも、北国の冬だからこその素晴らしさだ。

 しかし、明らかに行動が制限されるのが冬だ。
外出もままならない。
 寒さに負けず、雪上をランニングするのは、
年齢的に無茶。
 当然、ゴルフ場はクローズ。
長距離のドライブは、リスクが大きく、
旅行もためらわれる。

 それが分かれば分かるほど、
やっぱり「冬が、つま・・!」と心が沈む。

 さて、今は秋真っ盛り。
伊達を囲む山々も紅葉してきた。
 もうじき、市街地の街路樹も、
秋の草花と一緒に色彩豊かになる。

 そんな美しさを、
「過酷な冬を乗り越えるため、
大自然がくれたプレゼント!」と思ってきた。

 でも、そんな秋を綺麗に感じれば感じるほど、
「冬がつまらない」と思うこととのギャップが、
大きくなっていった。
 だから、年々秋はため息が増えた。

 当然のように、紅葉狩りに出かけても、
帰路には元気を失った。
 
 「そんなこと誰も感じない」と、
自分に問い直してみても、
紅葉する木々と山々に、
気分はうつむいたまま・・。

 しかし、今年はその想いを一掃した。
いや一掃しようと決めた。
 午後になると決まって強く吹く秋風も、
冬の前ぶれと思うのはやめた。
 それよりも「心地いい」と思うことに・・・。  

 「そう!」。
今日に立ち止まり、美しい秋を堪能するのだ。
 「それだけでいい!」。

 冬を想起して心沈むのは、
「あまりにもネガティブ!
 実に勿体ないこと!」。

 そのことに、やっと気づいた。

 ▼ 10月2日『室蘭民報』の「大手門」欄に載った私の随筆を転記する。   

  *     *     *     *     *

          秋の花便り

 秋口になるのを、楽しみにしている花畑が、近くにある。
色鮮やかなガーベラとコスモスが、広い角地一面に咲き乱れるのだ。

 伊達に暮らし始めて3年目の夏、
その花畑を造っている方とはじめて出会った。
 農作業へ行く途中だったが、
美しい花畑の感想とお礼を口にした。
 とっさのことでうまい言葉が出てこなかったが、
精一杯の気持ちを伝えた。

 すると、
「それはそれはどうも。・・もう歳だけど、でも来年もがんばるわ」。
 嬉しそうな表情だった。
私も笑顔で頭をさげ、そのまま別れた。
 その方は、農業用一輪車を押し畑へ向かい、
少し距離があいた。
 突然、後ろから大きな声が届いた。
「あのさ、来年まで生きていたら、やるから!」。
 「エッ!」、ふりかえって急いで言葉を探した。
その方は、すかさず「そう言うこと!」。
 手を挙げ、ゆっくりと遠ざかっていった。

 だが、それからも毎春、
畑には小さな苗が整然と植えられた。
 徐々に緑色が増し、やがて秋が訪れ、
色とりどりの花が私の足を止めた。

 ところが、一昨年の秋だ。
その方の急逝が伝わった。
 なのに、ガーベラもコスモスも、凜と華やかに咲いた。
「もう、この花畑も見納め」。
 何度もカメラを向けた。
シャッターを押す指が、いつもより私に力を求めた。

 そして、再び春が・・。
ビックリした。
 雪の解けたその畑は、いつの間にか整地され、
縦と横にまっすぐ小さなガーベラの苗が植えられた。
 夏が近づき、畑を囲むように無数の芽が出た。
コスモスだと気づいたのは、かなり日が過ぎてからだった。

 秋、前の年と同じようにガーベラもコスモスも花盛りを迎えた。
あの方は逝ってしまった。
 でも、その遺志を継いだ方がいた。
花畑の前で、胸がいっぱいになった。

 そして、今年も、
私の街にあの角地から秋の花便りが届く。

  *     *     *     *     *

 このブログにも、
何度か登場した近所にある花畑のエピソードだ。

 今秋から、秋への心構えを変えたその証として、
あの花畑を待ち望む心情を、書いてみた。

 新聞に掲載されると、数人から反響があった。
中には、久しぶりに涙が流れ、
「日頃のモヤモヤした気持ちまで晴れました」と、
メールが届いた。

 「いつも、人と人とのつながりを大切にしていて、
・・大事ですね」とも。

 そして、2か月ぶりに、
薬をもらうために通院した待合室で、こんなことも。

 右半身が不自由な女性が、座席を探していた。
ソーシャルディスタンスで、席が少ない。
 すかさず、立ち上がり私の席を譲った。

 それを見て、看護師さんが駆け寄ってきた。
「ツカハラさん、ありがとうございます!」。

 杖をたよりに、ゆっくりと椅子に座りかけたその女性が、
突然、顔を見上げた。
 そして、明るい声で小さく言った。
「ツカハラさんって・・!? 
 あのムロミン(室蘭民報)の?」。

 表情は、私の一文を読んだことを伝えていた。
小さくうなずいた私に、
女性は杖に力を込めながら、ゆっくりと頭を下げてくれた。
 
 処方箋を受け取り、病院を出ると、
透明な青空と心地いい秋風だった。
 その空を見上げたままでいたかった。

 誰にだろうか、何へだろうか、
無性に「ありがとう!」と言いたくなった。

 


  今日 近所の花畑・満開のガーベラ  

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