小指ほどの鉛筆

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⑧ お泊り 1

2008年02月27日 19時24分47秒 | ☆小説倉庫(↓達)
ドキドキするのは初めての場所だから?
自分の家じゃないから?
それとも、お前の家だから?
お前の傍だから?

暗闇で二人
朝も二人

一緒に居る時間が長いってこと
お前の隣にいるってこと
しっかりと感じている。

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初対面の息子の友人に、いきなり泊まっていけというのはどうかと思う。
クルルは先ほどまで微笑んで話を聞いていたドロロの父を思い出し、眉間にしわを寄せた。
そもそもアレが本当に笑っているのかどうかさえ怪しい。
「クルル君?次、クルル君の番だよ。」
「あ、あぁ。」
母親から学校での話をせがまれてからというもの、2時間ほどは喋らされた。
普段あまり話さないクルルにとっては厳しいものがある。
そうしてようやく解放してもらえたのがついさっき。
ドロロが部屋でトランプをしようと言い出さなかったら、今頃クルルは顎が筋肉痛にでもなっていたことだろう。
「お母様がゴメンね。疲れたでしょ。」
カードを並べながらドロロが言う。
クルルは手持ちのカードをパラパラと操りながら、頷いた。
「そんなにお前、母親と喋ってないのか?」
「そんなことは無いんだけど・・・お父様も居たからじゃないかな?」
要するに、俺は巻き込まれたわけだ。
クルルはどうとも取れない笑みを浮かべ、横に倒れこんだ。
「あ゛~~~~マジで疲れた・・・」
「お疲れさま。」
にっこり微笑むドロロを見ていれば疲れなど吹き飛んでしまうのだが、そんなこと今は言うつもりも無い。
ドロロはカードを丁寧にそろえてケースにしまうと、クルルの隣に寝転んだ。
いきなりのことに驚き、同時に予想外の距離の近さにクルルは心臓が高鳴った。
普段そんなことをしないドロロだからこそ、驚いた。
けれどもよく考えればここはドロロの部屋なのだ。おかしいことなど、何も無い。
「・・・どうしたんだよ。」
「ちょっと疲れただけ。」
「ふーん。」
「クルル君も疲れたんでしょ?」
「・・・まぁな。」
細かい息遣いまでもが聞こえる。
ドキドキしてしまうのは当たり前なのだと自分に言い聞かせるが、やはり少しだけ悔しい。
そうしてしばらくクルルが自分の心と葛藤しているうちに、扉を叩くコンコンという音が響いてきた。
『お夕飯の用意が出来ました。』
「はーい。」
ドロロがスッと立ち上がって制服の乱れを整える。
「行こう。」
ドロロは何とも思っていなかっただろうか。
クルルも立ち上がると、眼鏡のずれだけを調整して階段を下りた。
タイミングが悪かった。
もう少し時間があったら・・・などと考えてみる。
が、それもむなしく、またしてもあの大きな扉の前に立っている自分がいる。
「どうぞ。」
律儀にもドロロが扉を開いてくれた。
この扉は重いのだろうか、それとも意外に軽いのだろうか。
「クルルさん、どんどん食べてくださいね。」
中に入ると、あの笑顔で母親が迎えてくれた。
父親はやはり口元だけで微笑んで、手を振っている。
「今日はシェフに頼んでオススメ料理を作ってもらったの。お口に合えばいいのだけど・・・」
期待に輝く目を真正面から覗くことが出来ず、クルルは曖昧な笑みを浮かべて父の近くに座った。
うっかり母の勢いに押されてしまい、間をとって真ん中に座ればよかったと思ったが、もう遅い。
何ともいえない表情で、父はクルルのことを見つめていた。
実際は包帯で目など見えないのだが、何故だか見つめられていると感じた。
「あー・・・失礼します。」
一礼をしてから席に着く。
ドロロは母親寄りに座り、丸テーブルには妙な間が空いた。
「さて、頂こうかな。」
「えぇ。」
クルルもある程度のテーブルマナーくらいは知っていた。
けれどもそれが必要ないのではないかと思うくらい、この空間はアットホームだった。
「クルルさん、先に食べてみてくださらない?」
ワクワクした表情でクルルを見つめる母は、身を乗り出しそうなくらいの勢いでそう問いかけた。
クルルがどんな反応を示すのか、興味があって仕方が無いという様子だ。
「あ、はい。」
少々居心地の悪さを感じつつも、クルルは近くにあった海鮮料理を口に運んだ。
味わったことの無い味と食感が広がる。
料理は正直、食べれればいいと思っていたが、そうではないようだ。
「どう?」
「・・・おいしいです。」
自分が今どんな表情をしているのか、分からなかった。
けれどもドロロが微笑んでいることからして、きっと驚いているのだろうと思った。
「よかった!!もしかしたらお口に合わないんじゃないかと思って。」
「そんなことありませんよ。本当においしいです。」
こんなときにしか使うことの無いだろう敬語をフル使用して、笑顔まで見せた。
「明日は私が作ろうと思うんだけど・・・どうかしら?」
隣で止まる事のなかった手と口が止まり、父はぽかんとして母を見ている。
ドロロはとても嬉しいとでも言いたげに明るい笑顔を向けた。
「お母様の手料理なんてどれくらいぶりだろう!!」
「本当に作るのか?このすばらしい日に帰ってこれた私はなんてラッキーなんだ!!」
普通ありえないくらいに喜ぶ二人を見て、クルルは状況が飲み込めずに戸惑っていた。
当の母はにっこりとして二人を見ているだけだ。
「小学校以来かな・・・」
「私もあまり覚えていないよ・・・最後は確か、肉じゃがだったかな?」
意外に家庭的だ。
もしかしたら母は案外普通の食が好みなのかもしれない。
だったらカレーがいい・・・と考えながら、クルルは頭を振った。
何を考えているんだ、俺は。
すっかりこの家族のペースに呑まれてしまっている。
「クルルさんは何が食べたいかしら?お夕飯に作ろうと思ってるんだけど。」
「・・・」
さっきまで考えていたスパイシーなスタミナ食が、実体化しそうなくらいに迫ってきていた。
あの香りからは逃れることが出来ない。
「カ、カレー・・・ですかね。」
「あら、良いわね。」
「皆で食べるにはもってこいだな。」
「本当にクルル君はカレーが好きだね。」
口々に感想を述べる。
自分が家族と暮らしていたらこんな感じだったのだろうかと思うと、クルルは少しだけ胸が痛んだ。
「さ、それは明日。今はシェフのおいしい料理を食べましょう。」
「あぁ。こっちはこっちで絶品だからな。」
さっきから父の前の皿はことごとく空になってゆく。
見ているだけでおなかがいっぱいになりそうなほどだった。
割と細いこの身体の何所にそんな量が入るのだろうか。
「う~ん、おいしいv」
幸せそうに微笑む彼の顔は、相変わらず無表情に見えた。


「お風呂にはいつでも入れるから、好きなときにね。パジャマは黄色が良いかしら。」
楽しそうに世話を焼いてくれる母は、1時間ほど前にようやく部屋から出て行った。
気を使っているようには見えないものの、ここまでされるのは流石に窮屈なように思える。
「そろそろお風呂入りにいこっか。」
ドロロがそう言い出したのは9:00ごろだった。
クルルにしてみれば早い時間だが、それがこの家の普通なのかもしれない。
ドロロの意見に従い、再び階段を下りる。
よく見ると手すりには綺麗な装飾がなされていた。
今までどたばたしていて全く気がつかなかった、とクルルは思った。
そして先ほど夕食をとった扉は、やはり周りの扉に比べると比較的大きいように感じられた。
重そうに見えるのは、金や銀で飾られているためだろうか。
「クルル君、こっち。」
しばらくボーっとしていたクルルを、少し先でドロロが手招きする。
先ほどまでの豪華な装飾のある空間とは違い、お風呂への道のりはやけに落ち着いた雰囲気だった。
「遠いな。」
「3つくらいあるんだけど、今日はその二つ目の方に入ろうと思うんだ。和風の浴室なんだけど、どうかな?」
和風、というのは悪い響きではない。
事実クルルは和風の家具や小物を好意的に見ていたし、あの独特の落ち着く感じは、何にも変えがたい時間を与えてくれるように思えた。
「嫌いじゃねぇ。」
「ならよかった。」
嬉しそうに歩いていくドロロの様子を見ると、もしかしたらドロロも「和」がすきなのかもしれない。
そう思った。
廊下をずっと真っ直ぐに進むと、いくつかの扉を通り越した。
「今の部屋は何なんだ?」
「衣裳部屋とか、倉庫とか、かな。」
「倉庫?」
「うん。普段は使わないようなものが入ってる。」
この屋敷で普段は使わないものがしまわれている倉庫。
クルルは好奇心をかきたてられた。
「例えば?」
「う~~ん・・・扇風機とか・・・石油ストーブとか・・・季節ものが多いかな?」
「扇風機、石油ストーブ??」
普通の家庭でも、シーズンが終わってしまえばしまわれるものだ。
けれどもこの家庭でそれが普通だとは思えない。
何しろココは豪邸なのだ。
エアコンを使えば扇風機は要らない。床暖房があれば石油ストーブは要らない。
もしかしたら空調で全てがコントロールさえ出来るかもしれないのだ。
「ついたよ。」
そんなことにクルルが思考をめぐらせているうちに目的地へと着く。
控えめな引き戸が、今までの部屋とは違うことを物語っていた。
ガラガラ、と、心地の良い音が響いてくる。
「ココで服を脱いで、中に入るの。服はその中に。」
ドロロが示した場所には木で編まれた籠。
こだわりなのではないか、と思う。

「広!?」
湯気が立ち上る浴槽。
3人家族にしては広すぎる。
「う~ん、僕もそう思う。お父様が「銭湯をイメージしたんだ!!」って、大喜びで企画書を設計社の方に渡してたけど・・・」
あの父親、やはり只者ではないようだ・・・いろんな意味で。
身体を洗い、浴槽へと沈む。
銭湯、と言われれば、確かに少しは納得がいくかもしれない。
クルルはプールのように泳いでみようかと思ったが、他人の家でそんな子供のようなことをするのもなんだと感じ、思いとどまった。
「はふ~~~、やっぱりココが一番良いや。」
ゆったりと温まるドロロ。
「他んとこはどんな感じなんだ??」
「なんだかゴチャゴチャしてて落ち着けない所と、開放感がありすぎて落ち着けない所。どっちも微妙でしょ?」
苦笑したドロロが言う。
「・・・かもな。」
スーッとドロロの隣へと移動する。
「なぁ、あの倉庫に入ってるっつー扇風機とストーブ、使ったことあんのか?」
クルルはずっと疑問に思っていた。
必要ないではないか、と。
「毎年使ってるよ?」
けれどもそれは予想外の返答。
クルルも口をぽかんと開けてしまう。
「縁側でうちわを仰ぐだけじゃ夏は暑いし、冬のお餅はストーブで焼くべきでしょ?」
活き活きとしたドロロの表情が、まぶしい。
「ま、まぁそうかも知れねぇけど・・・この屋敷ににあわねぇな。」
「部屋はたくさんあるんだよ。扉を挟んだ向こうは、違う国かもしれない。」
悪戯っぽく笑ったドロロだが、クルルにはあまり冗談には聞こえなかった。
「ありえねぇ話じゃねぇな・・・」
「え?」
「いや、何でもねぇ。」
クルルが、水を含んで張り付いてくる金髪を邪魔そうに束ねる。
ゴムなどでとめるわけではないが、水分のおかげで綺麗にまとまった。
その様子を見て、ドロロが微笑む。
「クルル君の髪、すごく綺麗だよね。」
「は?」
「いつも思うんだ。」
「・・・それはアンタだろ。」
正直クルルには、自分の髪を自慢に思ったことが無い。
むしろ艶やかな黒い地毛を持った人を綺麗だと思っていた。
髪について褒められたのは初めてかもしれない。
「僕?」
だから、ドロロの髪が好きだった。
光に当たると青く見える、サラサラなその髪が。
「そうかな?クルル君の髪はサラサラで、時々キラキラ光って綺麗だけど・・・僕は普通の髪だと思うよ?」
「それが良いんじゃねぇか。」
「そうなの?・・・ありがと。」
「いーえ。」
クルルとしては、むしろ自分がお礼を言いたいところだった。
けれどもそんなのが自分のキャラじゃないことくらい分かっている。
素直じゃない自分に、嫌気がさした。
「・・・」
自分の髪を少しだけすくってみる。
ドロロに「綺麗」と言われて初めて、クルルは自分の髪を少しだけ綺麗だと感じた。
「はぁ~~~、眠くなってきちゃった。」
「何時くらいになるんだろうな。」
「そろそろでよっか。」
眠そうなドロロがそう言う。
それにしても湯上り浴衣効果というのは恐ろしい。
浴衣ではないもの、パジャマだってクルルにとっては十分な殺傷能力がある。
クルルはドロロの前で危うく鼻血を出すところだった。
「にしても、いちいち風呂にはいんのにここまでくんのかよ。めんどくせぇ。」
部屋までの道を進みながら、クルルは溜息をついた。
あまりにも広すぎて、正直なところ疲れる。
「慣れ、かな。」
「慣れねぇ・・・。」
一人暮らしをして、環境の違いに戸惑うことは無いのだろうか。
このままココで暮らしていた方がいいのではないか?
そう思いさえした。

部屋に着くと、ドロロが押入れをごそごそと探り始めた。
「どうしたんだ?」
「えっと、クルル君の布団。」
枕やシーツを見つけて取り出そうとしたドロロの手が、クルルの手によって止められた。
「へ?」
「いらねぇ。アンタと寝る。」
「ちょっと、それって・・・」
「ベッドは十分広いし。問題はねぇだろ?」
ドロロが顔を赤くする。
そんな様子を気にもせずに、クルルはベッドへと倒れこんだ。
引っ張られたことにより、ドロロも倒れこむ。
「わっ!」
倒れこんだドロロを抱え込むようにして抱きとめたクルルは、そのまま布団を被ってしまった。
片手をドロロの背に回し、もう一方の手で眼鏡をはずす。
どうやら本気で一緒に寝るつもりらしい。
ドロロは抵抗もむなしく、クルルの腕の中に収められてしまった。
「・・・クルル君、本気?」
「もちろん。」
「体勢が悪いと、目覚めも悪いんだよ?」
「上等。」
「・・・」
「嫌かよ。」
「嫌じゃないけど・・・」
「なんだ?」
「恥ずかしい///」
顔を隠してしまったドロロに微笑み、クルルはわざとドロロに顔を近づけた。
「クックック~~、もう寝ちまうのか?」
「・・・うん。」
「じゃあ電気消した方がいいなあ?」
そういうと、クルルは手元のスタンドのスイッチを切った。
一気に室内が真っ暗になる。
ドロロは自分の鼓動が早くなっていくのを感じていた。
顔が火照ってゆく。
「なぁ、明日は何時に起きるんだ?」
素朴な疑問を口にしたクルルの息が、耳をくすぐった。
「特に・・・決めてないかな。」
「いつまでもこうしてはいられねぇからな。アンタも身内に知られたらヤバイだろ?」
「うん。」
もちろんだ。
そんなことをドロロの母が知ったら、もしかしたら気絶してしまうかもしれない。
「じゃあ・・・6:30。」
「早いな。」
「クルル君は寝ててもいいよ?僕は日課だから。」
ドロロの日課、ということに心引かれた。
「あと明日は習い事があるから・・・ほとんどクルル君といられないと思うんだけど・・・良い?」
「その習い事とやらを見てるぜ。」
「そう、ならいいけど。」
たわいない話をしてはみるが、やはり二人でいるという事実が頭から離れない。
緊張や動揺といった言葉が、ドロロの隠した顔から読み取れた。


翌日、クルルはドロロの声で目を覚ました。
「おはよ。クルル君はまだ寝てる?」
「いや・・・今起きるぜ・・・。」
大きく伸びをしてから立ち上がる。
少し頭が痛いが、きっと寝不足の所為だろう。
「本当なら僕もまだねむってたいんだけどね・・・」
そう言うドロロまた、少し眠そうに見えた。
お互い緊張していたのだろう。
少しおかしく感じて、二人は微笑を浮かべた。