1000円の価値

心斎橋駅改札を出た所、
階段しかない、ノンバリアフリー。

おばあちゃんが大きなスーツケースを
引っ張っていたので、階段は無理だろ、
と思って、手伝いましょうかと声を掛ける。

手伝われることに馴れているのか、
「お願いします」とおばあちゃん。

持ち上げると、スーツケースは重かった。
10kg近くあるんじゃないかな。

50mぐらい、階段を上ったり通路を歩いたり、
道すがら、こんな荷物を持ってどこに行くの、
と尋ねる。

「大丸に行くのよ」と、微笑みながら、
地上に出て感謝をされる。

何でもわざわざ和歌山から来たらしい。
行動力のあるおばあちゃん。

「これ、御礼よ」
そう言って、1000円を渡してきた。

いやいや、さすがに貰えない。

貰ってちょうだい、ダメですそんなの、
やり取りの末、おばあちゃんは諦めてくれた。

「あなたの行為にはこれでも足りないぐらい
素敵な価値があるのに」

そんな風に言われただけでも、
逆に感謝したいぐらい。

当たり前のことをしたまでですよ、
なんて気の利いた台詞は言えなかった。
かなりオドオドしてたんじゃないかな。

代わりに見たことのない飴を貰った。
食べたけど、何味か分からなかった。

関西のおばあちゃんは飴を常備している。
何味か分からない飴を。

スーツケースを運びながら、
これ何が入っているの？と聞いたけど、
答えてくれなかった。あれは多分、飴だ。