勇者様の雑記帳

ゲーム暦40ウン年の勇者様の足跡が書き散らす日記。ゲームや映画、読んだ本などについて、好き勝手に書いています。

『戸村飯店青春100連発』(瀬尾まいこ著 理論社 2008年初版)

2024-03-24 06:20:40 | 小説
最近読み終わった本のことを書こう。

小説『戸村飯店青春100連発』は、映画化もされた2019年の本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』を書いた、
大阪出身の小説家・瀬尾まいこ氏が、2008年に世に送り出した、二人の兄弟を主人公とした小説だ。


大阪は住之江にある、昔ながらの中華料理店『戸村飯店』、
ここには長男ヘイスケ、次男コウスケの2人の兄弟がいる。
ヘイスケは昔から要領がいい子どもと言われ、頭の回転も速いイケメンだが、
実は大阪の下町の空気が苦手で父親とはソリが合わず、高校を卒業したら家から出ていきたいと思っている。

一方で1歳下のコウスケは勉強は苦手だが、真っすぐな性格で、店の手伝いも積極的にこなし、常連さんのウケもいい。
阪神タイガースの大ファンで、高校では自分自身も弱小野球部で活躍している。
コウスケからすると、店を継ごういう素振りも見せず、とっとと東京へ出て行ってしまおうとしている兄ヘイスケが理解できず、
『戸村飯店』は高校を卒業したら自分が継いでいくしかないか、
それにしてもヘイスケはなんて身勝手な奴だ、と常々苦々しく思っている、
どちらかというと仲の悪い兄弟関係だ。

高校を卒業したヘイスケは、かねてからの計画通り東京で独り暮らしを始めるが、
将来は小説で身を立てようか、と思い入学した専門学校はひと月で辞めてしまい、近所のカフェ『RAKU』でのアルバイトで生計を立てていく。
実のところ、コウスケからはヘラヘラした奴と思われていたヘイスケは、彼は彼なりに屈折した人生を送っていた。
陽気で誰とでも打ち解けられる弟コウスケと比べ、
理解力の速さから周りを達観的に観てしまうヘイスケは、
自分の思いをなかなか周囲に伝えられないまま、大阪での日々を過ごしてきた。
本当は父親の中華料理店にも興味があったし、阪神タイガースも好きだったヘイスケだったが、
周りから『あいつは店を継ぐ気がない』『あいつは野球に興味が無いからな』と思われてしまうと、
自分自身をそういった枠に嵌めてしまう人間だった。

『戸村飯店青春100連発』は、章ごとにヘイスケとコウスケの2人による1人称視点を切り替えながら話が進む。
2人が何を考えながら日々を送り、成長していくのか、
読み手は彼らの内心の吐露を読み取ることで、兄弟の内面を理解していくのである。
後半、高校卒業を迎え、卒業後は『戸村飯店』を継ぐ気でいたコウスケに一大転機が生まれる。
ここから、東京と大阪で離れて暮らしている兄弟の関係が大きく変わってくる。
果たしてヘイスケとコウスケは自分たちの生き方を見つけていけるのか、
著者・瀬尾まいこの、終始一貫して優しく、登場人物一人一人に寄り添った描写は、
内面の描写の多いこの小説も、一気にエンディングまで読み進ませてしまう。
『そして、バトンは渡された』は、暗くなりがちな設定を、幸福感一杯で終わらせてくれた傑作だが、
この『戸村飯店青春100連発』も、ハッピーエンドに向けて突っ走る素晴らしい作品だ。

子ども時代、兄弟姉妹との関係に何か複雑な気持ちを抱く人は多いと思う。
俺様自身は、読んでいるうちに兄ヘイスケに感情移入してしまったが、
弟コウスケに共感する読み手もきっと多いはずだ。
あの頃、窮屈な気持ちを抱えて日々を過ごしていた思い出のある人に、是非ともお勧めしたい。




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『火狩りの王』(日向理恵子 著 ほるぷ出版 2018年初版)

2024-03-08 00:22:04 | 小説
本日取り上げるのは、『火狩りの王』(日向理恵子 著)である。

先日の『ジュリーの世界』と一緒に、図書館から借りてきた本の1冊だ。
表紙や挿絵を山田章博氏が描いており、それに惹かれて借りてきた。

実は既にアニメ化されており、
WOWOWオリジナルアニメとして、現在第2期が放送中、
というのを、1冊目の『春ノ火』を読み終わってから知った。

現代文明崩壊後の世界を描いた作品は、
ファンタジー、SFを問わず、沢山世に出回っていて、
なんというかアイディア勝負、みたいになっているような気がするんだけど、
そういう意味では、この『火狩りの王』の世界観は、なかなかにとんがっている。

近未来の地球、、、
あ、第1巻終了時点では、今のところ我々の地球とは明記されていないが、
 それに近いような表現が散見される。2巻以降でまだ変わっていくかもしれないけど。
・・・でまぁ、その地球的な星は、最終戦争の結果、
人体に恐ろしい異変が生じた世界になっているのである。

「人体発火病原体」
それは、「火」に近寄ってしまった人間が、
何故か体内から炎を発して焼け死んでしまうという、
恐ろしい病気である。
うーん、なんじゃそりゃ。

なんとも恐ろしい設定だが、そういう風に作者が決めた以上、
読み手はそういう世界だと理解して読み進むのみだ。
火が使えなくなったお陰で、一気に退化した人類だが、
従来とは全く概念の異なる「火」を体内に蓄えた、
「炎魔」と呼ばれる生物の出現により、文明の再興に成功する。
主人公の灯の子はある日、「炎魔」を狩ることを生業とする「火狩り」に命を救われたことをきっかけに、
都を目指す旅に出ることになる。。。というのが第1巻の粗筋の半分ぐらい。

もう1人、都に住む煌四という少年の視点による話も進んでいくんだけど、
それはまぁ、置いておこう。
とにかく、第1巻は伏線を張りまくって次への期待大である。
続きを借りてこなくては。

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『ジュリーの世界』(増山実 著 ポプラ社 2021年初版)

2024-03-04 00:09:37 | 小説
今日は図書館で借りてきた本について。
『ジュリーの世界』という小説だ。

著者の増山実氏のことは存じ上げなかったが、
放送作家として著名な方で、この本では第10回「京都本大賞」を受賞している。

話の舞台となるのは1970年代後半の京都だ。
三条京極交番に着任した新人警察官・木戸らの日常を描きながら、
彼らの日常に時折姿を見せる、謎のホームレス「河原町のジュリー」。
本のタイトルにも名前を覗かせる、この人物は、一体何者なのか??
・・・というのが、作品全体を貫く「謎」である。

話の後半になってから、急激にこの謎の答え探しへと入っていくのだけれども、
中盤までは、70年代のなんだかのんびりとした時代における、
河原町周辺の人々の暮らしを、季節の移ろいに合わせて寧ろ淡々と描写している。

「河原町のジュリー」は住民らの視点として、時折登場するのだけども、
彼自身は最初から最後まで、ほとんどセリフを吐かないため、
読者にとっては、登場人物らが語る想像から、彼の人物像を推測することになる。
どうして河原町から離れることなく、延々とホームレスをやっているのか?
京都にやってくる前は何をしていた人物だったのか?
一応、終盤で答え合わせらしいものはしてくれるんだけど、
それを含めて、読み手の想像に委ねられるエンディングは、ちょっと切ない感じだ。

物語は、70年代の京都を舞台としたフィクションだが、
実際の地名や店舗、出来事がふんだんに登場してくる。
例えば1979年8月7日に、今はもう閉園された「伏見桃山城キャッスルランド」という遊園地で、
サザンオールスターズらが野外音楽フェスを開催した、という記述がある。
登場人物の1人である小学生はサザンの大ファンで、
生の歌声が聴きたいあまりに遊園地に忍び込み、
姿は見えないまでも歌声が聴こえる場所まで辿り着いて、
憧れのサザンの歌を聴くことに成功する。
ついでにその後予定されていたビーチボーイズのライブも聴こうと思っていたら、
急な大雨でフェスが中止となり、結局聴けずに終わる・・・という展開なのだが、
こんなエピソードも実際にあった出来事らしく、
流石は放送作家までやっていた人は、フィクションでも事実確認に手を抜かないなぁ、、、と思っていたら、
読後に読んだ「あとがき」でビックリ。
実は「河原町のジュリー」というのは実在の人物で、
70年代の学生時代を京都河原町で過ごした著者が、
実体験を元に想像を膨らまして書いたのが、この「ジュリーの世界」らしい。
当時は小学生だったからなぁ、これは知らなかった。

最後は1984年に路上生活のまま亡くなられており、
当時その事が、地元の新聞記事にまで取り上げられていたことから、
河原町周辺で暮らしていた方々には、非常によく知られた人物であったことが想像できる。

この「河原町のジュリー」という人物に興味を持って、ネットで検索をかけてみると、
これがまた沢山の方がエッセイやイラスト等の形で取り上げており、
例えばこちらのBlogなんかは、イラスト付きで当時のことを紹介されていて興味深かった。
ネーミングの由来は? 河原町のジュリーと、萩原研二 - Saoの猫日和

本、というものは、どんな作品であっても、何か新しい発見があって楽しいものだ。
できることなら子ども時代の様に、もっともっと沢山の本を読むことのできる時間が欲しいなぁ。







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久々に「D-妖殺行」を読み返す

2023-12-13 21:47:24 | 小説
吸血鬼ハンターDシリーズ③ 「D-妖殺行」(菊地秀行著・朝日ソノラマ)


最近、近所の古本屋で、
吸血鬼ハンターDの②~⑤巻を買う機会があり、
まとめて読み返し中だ。
いずれも中学生時代に、貪るように読んだ記憶がある。
俺様、途中で買わなくなってしまったため、
今は一体何巻まで出ているのか分からないのだが、
この「妖殺行」や、4冊目の「死街譚」は本当に面白かった。
後には上下巻やら4分冊やら、話がどんどん長くなっていき、
それにつれてなんとなく面白みが削がれてしまったような気がするのだが、
「妖殺行」はSFホラーとしての面白さがギュッと凝縮されており、
今回もアッという間に読み終わってしまった。

何といっても登場キャラクターのバランスがいい。
主人公である最強のダンピール、吸血鬼ハンターDと、
兄弟5人の凄腕吸血鬼ハンターであるマーカス一家、
追われる立場の吸血鬼であるマイエルリンク男爵と、彼を恋い慕う人間の少女、
更には途中からマイエルリンクに雇われる、バルバロイの里の面々と、
三つ巴、四つ巴の戦いが、実にテンポよく描かれている。

Dのシリーズに登場する貴族は、
大抵は悪者だったり、よく分からなかったりするのだが、
本作のマイエルリンクはちょっと毛色が変わっていて、
読んでいる側も色々なキャラに感情移入してしまう。
まぁ、バルバロイの面々はアレとして。

そういえば、この第3巻って、
映画にもなったんだっけ。
さもありなんなのである。


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山田風太郎記念館というものが

2022-05-06 23:03:08 | 小説
連休を利用して、家族で兵庫県の湯村温泉に行ってきた。
ほぼ温泉しかないような場所だったのだけれども、それがまたいい。
源泉でゆで卵を作ったり、足湯につかったり、
のんびりした休日を過ごさせていただいた。

で、帰り道。
大阪へ向かう途中に養父市を通るのだけれども、
途中で「山田風太郎記念館」なるものを発見。
山田風太郎というとあの人ですよ、
エロエムエッサイムの沢田研二が主演の映画「魔界転生」を書いた人。
父親の本棚に、この方の本が何冊も入っていて、
中高生の頃に何冊か読んだ記憶が。

折角なので、家族が車で爆睡している間に立ち寄ってきた。
中には管理人のおじさんが1人いて、
最初5分ほどの動画を見せてくれる。
動画の内容は、風太郎の生い立ちを追ったもので、
なかなか興味深いものがあった。

記念館の展示内容は、思った以上に盛りだくさんで、
幼少期から青年時代、作家として成功してから最後に至るまで、
手紙や写真を中心に、とにかく色んな資料が残っていて、
展示されている手紙を読むだけで結構な時間がたってしまった。

見ていてよく分かったのが、
風太郎がとにかく何かを調べることが大好きな人だったということ。
興味を持ったことを調べまくっては、テーマ毎にノートを作って、
事細かにまとめ資料を作り上げていて、
彼の「人間臨終図鑑」なんていうのは、
まさにこういう人柄が生み出した作品なんだなぁ、、、。

今はなんとなく風太郎の忍法帖が読みたい気分だ。
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吸血鬼ハンターD

2021-02-07 21:12:41 | 小説
仕事帰りに本屋に立ち寄ったら、
『吸血鬼ハンターD』の最新刊が平積みになっていた。
タイトルは『暗殺者の要塞』
うーん、、、懐かしい
思わず買って帰ってしまった。。。


第38冊目の『D』だそうで、
いやぁ、いつのまにか一杯出てるなぁ。
wikiとか見てみると俺様、11~14冊目の『蒼白き堕天使』までは読んだ記憶があるんだけど、
そのあとはどうかなぁ、、、っていうことは最後に読んだのは25年前か。
学生の頃は新刊が出るたびに読みふけっていたのに、
いつから読まなくなったんだろう。

登場人物の紹介とか読んでみると、
昔と変わらない『D』でちょっと安心、
とりあえずこれから読みます。
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