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はんなりと株価ジョウショウ↑

くだらない馬鹿話といつかの夢の続きを深夜のファミレスで

ノベラゴンは終了しました

2009年09月01日 | ノベラゴン
あーーーーーー終わったあああああ!

終わったのです。
俺のノベラゴンは終わりました。

あと一本足りない?
はっはっは、初日をサボりということで、全六本で終わりなのです。
というかもう限界。
もう小説はこりごりだぜw

ステッパーズ・ストップの一日一小説大会『ノベラゴン』
二回目ということもあって、今回は一応、全部違う話にしてみた。

個人的には結構よくできたと思う。
というか自分で自分の好きなもの書いてるんだから、そりゃ面白いよ。
自給自足だな。

さて後書きでも書こうかなと、その前に
clown-crownさんが感想を書いてくれたのでリンクを張らせてもらおう。

『配列カリキュラム』 ノベラゴンの感想

うおお、嬉しい! ありがとう!
昨日cさんにノベラゴン完成したよ、って言いたくて、チャット徘徊してたからね。
言う前に見てくれてたなんて、嬉しい。

そして、俺もそれぞれの後書き的なものを書いてみる。

『配列カリキュラム』
格ゲーの強い女の子ってのは、格ゲーマーの憧れだと思う。
ゲームが上手いんじゃなくて、対戦ゲームが強い子が好きです。
あと、服装がパンクやロックでも、ミネラルウォーターを飲んだりするところに女の子を感じる。
色々と格ゲーネタ入れちゃったけど、格ゲー知らなくてもスルーして読めるようにしてみた。
けど、どうなんだろ。

『紅色ライフタイム』
よくあるパターンの殺人鬼もの。ちょっとそういうのやってみたかった。
実は最後の「……」辺りに、主人公の回想や、グロ描写を書いたりしてたんだけど、
グロいし、上手く書けないし、微妙だったんでやめた。
でも、いいと思う。これはこれで良かった。結構好き。
もっと語彙力があったら耽美グロな表現を書いてたと思う。

『WWW』
何視点っていうの、こういうの。
神視点?
俺が考えるステストっぽい感じ。そんな感じを勝手に意識して書いてみた。
なんか面白かった。
書きながら考えたので、最後の女性の部分は後から足されたもの。
その割にはすごい好き。
よく女を登場させた。俺えらいよw

『マジカルステッキホワイトスペル。』
魔法ショタいえーい。
脳内で考えてすごく楽しかった。
でも文章にしたら、纏まりがなくなった感じ。
先輩の馬鹿さ、少年の可愛さ、赤音モーテルの不思議な感じ
上手く書けない。
好きすぎるものを表現しようとしたとき微妙になる、ってのはまあまああるよね。
魔法はそのときチャットで流行ってたから、思いついた。
タイトルはシモネタ。

『暗転0F発生のクジラさん』
これは、かなり、ぼくのすきだったひとがモデルだわ。
馬鹿な行為を必死にやるってのは、すごいかっこいい。
しかしネタを入れすぎた。
全部分かる人いるのかこれ。

『普通の普通の毎日』
毎日何かが起こっていて、毎日誰もが主人公になっている。
まとめ的なお話。
オチ書いてるとき、昔ジャンプでやってたアウターゾーンで、不幸を回避し続けた少年の話を思い出した。
災いを転じて福となす。

以上、後書きっぽいもの。
読んでくれた人、ありがとうございました。

ノベラゴン 六日目

2009年08月31日 | ノベラゴン
『普通の普通の毎日』

「みんながワイズさんのことをずっとずっとわすれないでいてほしいから。おしまい……と」

 本を閉じる。本はテーブルの上の二冊積まれた本の上に置かれた。
 すると、本は三冊になったのだ。
 ……とても普通だと思った。

 本の世界から戻ってきた私は、顔を上げ周りを見渡す。
 暇そうにしている店員と数人の客がいた。

 快適なファミレスとは、ファミリーが居ない時間帯である。
 平日の昼前のファミレスはとても快適だった。

 昼前なのでまだファミリーや昼食のサラリーマンもいない。
 平日なので学生もいない。まあ私も学生だが、別に気にしない。
 私はよくこの時間帯に来てカニドリアを食べる。
 そして、コーヒーを飲み、人が多くなるまでゆっくり本を読んで過ごすのだ。

 私は小説が好きだ。
 小説の登場人物はみんな魅力的で、そして必ず何かが起きている。
 それはとても素敵なことだと思う。
 当たり前だけど私には何も起きない。私は毎日が退屈で仕方ない。

 ライバルと彼氏を取り合う三角関係に……なんてこともない。
 神が出てくる事もないし、殺人事件に遭遇することもない。
 魔法も呪いも手のひらからビームが出るなんてことも、もちろんない。

「ああ、暇だわ」

 読む本も無くなってしまった私はコーヒーを飲みながら呟いた。
 暇そうな友達数人にメールを入れてみたが返信も来ていなかった。

 昼が近づくにつれて人も多くなってきたので、
 私は会計を済ませ、ファミレスの隣のゲーセンに入ることにした。
 
 普段はゲーセンに行ったりすることもない。
 しかし今日は暇だったのだ。
 今日のこの暇さ加減はなんだ。油断したら死んでしまいそうだ。
 もし今ここに神が居たとしても、この退屈さには神ですら死にそうになるだろう。
 私は何かイベントが起きる事を願ってゲーセンをウロウロしてみた。

「神さまー、ポップンしようー!」

 なんだと、神さまだと?
 見ると、パンクの好きそうな女の子がポップンでハイスコアをたたき出していた。

 ゲームが上手いから神か……神も安くなったものだ。
 しかし、美人な子だ。格好はあまり理解出来ないけど。
 あんな子なら、きっと毎日いろいろなイベントに出くわしたりするのだろうか。
 羨ましい。比べると惨めな気分になってしまう。

 私はこの惨めな気分を吹き飛ばすため図書館に行こうと思った。
 私の癒しの空間、その名は図書館。
 期待してゲーセンに入ったのに、テンションダウン、この仕打ち。
 確かに神を見るというイベントは発生したが全然すごくない。
 いや、ポップンの手の動きはすごかったけど、そういうことじゃない。
 私はクイズゲームをワンプレイし、ゲーセンを後にした。

「陽子は優さんとイチャイチャしながら放尿しましたとさ。めでたしめでたし」

 ……なんだこの小説は。
 図書館に着いた私は、返却台に置かれていた本を片っ端から読んでいた。
 なぜ図書館には図書館に相応しくない本がときどき置かれているのだろうか。
 BL本も何気に充実している。

 私はぶつぶつと文句も言いつつも、恋愛ものやBLものをモリモリと読んでいた。
 気が付くと、図書館の閉館の時間だった。

 外に出ると西の空の茜色が、藍色の空とぶつかり合い
 私の真上で不思議なグラデーションを作り出していた。
 ああ、もう、こんな時間か。

 家に帰る前に、カフェに立ち寄っていた。
 このまま帰るのが気に入らなかった。
 何も起きていない、つまらない一日。それを認めたくなかったから。

 何も起きない。
 誰からもメールも来ない。
 素敵なイベントに遭遇する事もない。
 私は気だるくコーヒーを飲んでいた。

 隣の席には二人の女性がいた。
 二人は雑談しながらテーブルの上でお互いの手を触りあっていた。
 レズか、きもい。
 そう思うも、本当は少し羨ましく見ていた。イチャイチャ出来る相手が居ることに。
 たまえと呼ばれる女性はとても嬉しそうに喋っていた。
 相手の女性に名前を呼ばれるたびに、たまえの体は喜びに震え、顔を赤らめ、微笑んでいた。
 そして手を握るたびに「かなえ」と呟いていた。

 私にはそんな気持ちになるような、相手なんていない。
 悲しい、とてもやるせない気持ちになった。
 悲しいので楽しいビデオでも見て今日は寝よう。

 私はカフェを出て、向かいのレンタル屋に入った。
 するとグルグルと回転しながら、彼氏であろう人物をバシバシと叩いている女性が目に入った。
 カップルだ。またカップルがじゃれ合っている。
 私も彼氏にパンチなどを繰り出し「こら止めなさい」と優しく叱られ、強く抱きしめられたい。
 そんな彼氏はどこにいるのか。
 はあ……どこに行っても憂鬱だ。

 この街の人達は温かい透明なカプセルに包まれているようだ。
 そのカプセルはあらゆる悲しみを避けるだろう。
 そして私だけがカプセルに包まれていない。
 そんな世界からの疎外感を感じて、レンタル屋を出た。
 もう、今日は終わりそうになっていた。

 帰り道、繁華街から少し離れ、人通りも少なくなった交差点の角に、怪しい人が居た。
 ロングヘアーでとんがり帽子をかぶっている女性。まるで魔女のようだ。
 とても怪しい。
 魔女はこっちをじっと見て、そして喋りだした。

「気付いていないのかしら」

 ……何のことだろうか、私に言っているのか。

「私の名前は赤音モーテルです。あなたの名前は?」

 赤音モーテル? なにその名前?
 ……こんな怪しい人に名前なんて名乗りたくない。

「ふぅ……名前も名乗らず主人公になりたいだなんて」
「え……?」
「身長153センチの可愛らしいおでこちゃんは何を望むのかしら」
「なに? ……どういう」

 私は思わず声を出していた。
 魔女は構わず話し続けた。

「今日はあなたの周りで色々なことが起きていたのよ。いわば、あなたは主人公だった。
 それなのに何が起きてもあなたは気だるそうに、悲しいと呟くばかり。
 あなたはこの先、何が起きても楽しさに気付かないのかしら」

 ……よく分からない、けど、怖い。
 きっと関わったらダメな人に違いない。
 ……逃げよう。

「逃げるのかしら。主人公のくせに?
 あなたは本当につまらない主人公なのね。
 ……これから最後のイベントが起こるわ。
 あなたは帰り道、自転車にひかれて、怪我をして、とても痛くて、そして泣いてしまう。
 こういう分かりやすいイベントを望んでいたのよね。
 良かったわね。」

 私は魔女の話しが終わる前に、家に向って走り出していた。
 怖い、気持ち悪い。
 こんな奇妙なイベントなんて望んでいない。
 どうして私がそんな不幸な目に遭わないといけないの。
 もうさっさと家に帰ってお風呂に入ってビデオを見て、そして寝てしまおう。
 本当に今日は気だるい一日だったわ。

 家が見えてきた。
 その角を曲がれば我が家に辿り着く。私は「ふぅ」と安堵のため息をもらす。
 角を曲がった私は、ギギギとうるさいブレーキ音と共に眩しい光を当てられた。
 私は反射的に光から逃げるように体を背ける、次の瞬間
 激しい衝撃と鈍い音がお尻から全身に伝わり、地面に吹き飛ばされた。

 私は自転車にひかれたようだ。
 顔とヒザを地面に付け、お尻を上げた、うつぶせの状態になっていた。
 痛い……痛くて指一本も動かせない。
 ううヒドイ、さっきの魔女のせいだ。

「だ、大丈夫ですか!」

 自転車で私をひいた人物が駆け寄って声をかけてきた。
 見たことのある顔だった。

「あ、のぞみさ……いや、語部さん」

 見ると同じクラスの地味なイケメン、山田だった。
 整った顔立ちだが、どことなくオーラが無く、地味で存在感が薄い。
 クラスのイケメンに相手されない女子にからかわれる程度の存在だ。

「怪我してない? えと、お尻を打ったみたいだけど、動けるかな?」

 山田は私の顔とパンツ丸出しであろうお尻に、交互に目をやっていた。

「うう……全身痛い、腰もすごく痛い」
「お尻からは血は出てないみたい……です」
「…………うん、恥ずかしいからスカートかぶせて下さい」
「ご、ごめん! スカートは前輪に巻き込まれてビリビリに」
「あそ……もう、大丈夫だから。家そこだし」

 すると山田は私を横に押し倒し、私に抱きついてきた。
 そのまま、ふとももや首筋を触ってきた。

 な、なんだこいつは。
 何、なんなの? まさか、こんな状態の私を犯す気なのか。
 くそ、最悪だ。本当に最悪の一日だ。世界終われ。
 ああ、痛くて動けん。

「ごめん、家まで運ぶから!」

 気が付くと、山田は私を抱きかかえていた。いわゆる、お姫様抱っこの状態だ。
 突然のことにビックリした私は硬直してしまう。
 同い年の男にこんなにも密着して触られたのは初めてだった。
 私は恥ずかしくて黙ってしまった。
 何か喋らないと。

「さっき、なんで名前で呼んだの?」

 混乱した私は、気まずくなりそうなことを聞いてしまった。
 別に今聞かなくていいのに。

「それは……ご、ごめん……家、こっちかな」

 山田は照れながら顔をそらした。やめろ、妙な色気を出すんじゃない。
 だがその妙な色気に、私は完全に沈黙してしまった。

 お姫様抱っこのまま、私は今日一日を振り返っていた。
 今日は何も良い事が起きない日じゃなかった。
 不幸だけど不幸じゃないイベントだと思った。
 そのことが私は嬉しかった。
 山田に抱えられながら、私はお尻の痛さと嬉しさでちょっとだけ泣いていた。

ノベラゴン 五日目

2009年08月29日 | ノベラゴン
『暗転0F発生のクジラさん』

 バインバインと俺のベッドで尻がバウンドしていた。
 その尻の持ち主は俺の彼女、名前は田代まさ子。
 
「ウオッウオッ! バリバリバリ!」

 事の起こりは10分前
 レンタル屋で借りたビデオの期限が今日までと気づいたのが始まりだった。

 俺は「めんどくさいけど、一緒に返しに行こうか」と彼女に言うと
 彼女は「はわわー、めんどいからPS3の三國無双で諸葛使って待ってる」と言い出した。

 そう彼女に言われたので仕方なく一人で返しに行こうかと用意を始めた
 実際、借りていたビデオはほとんど俺のだったから、まあ仕方ないかと思った。
 すると彼女は、俺のそんな寂しそうな姿を可哀想と思ったのか
「でも、私のモノマネに答えれたら一緒に行ってあげるよ」と言った。

 そう、そんなわけで俺は今、彼女のモノマネを当てるゲームをさせられているのだ。
 彼女は叫びながらベッドの上で丸まり激しく暴れていた。
 セクシーなキャミソールの下着は悲しいかな、
 彼女の奇怪な行為によって、性的興奮を一切感じないアイテムに早変わりしてしまった。

「野生の力を思い知ったかー!」

 お姉さん系、コンサバ系とでも言うのだろうか。
 彼女はとても美しくカッコイイ。
 整った顔立ち、長い手足、セクシーなくびれボディ。
 街を歩けば男性はもちろん、女性ですら声をかけたくなるレベルだろう。
 実際、しょっちゅう声をかけられていた。

 ああ、信じられない。
 そんなモデルのような彼女は今、
 俺のベッドでブランカらしきモノマネを必死に汗をかきながら行っているなんて。

「早く! 早く答えてね! 早くしないとゲージ貯まってしまうぞ!」

 なんのゲージだよ。
 テンションゲージか、こっちはテンションだだ滑りだよ。
 その激しい回転のあまり、食い込んでTバックのようになったパンツも
 もはや笑いの為にしか機能を成していない。

 しかし、さっさと答えて終わらせた方が安全だ。
 このままだと、本当に新しい必殺技を出してもっとヒドイ事になるかもしれない。
 俺は彼女の動きを止めるべく声をかけた。

「はいはい! 分かった! ブランカだ!」
「え、なにー?」
「ブランカ!」
「け、がにー?」
「聞けー、ブランカだって言ってるでしょ!」
「ブブー、正解はジミーでしたー!」
「誰だそれ!」
「ふざけるな、ブランカの本名を忘れたとは言わせないぞ!
 ブランカは幼き頃、ジャングルで遭難して野生化したんだ!
 しかしその実態は心優しき少年だった。
 そう、彼はジミーなんだ! メーキシコメーキシコー!
 違う! メキシコ違う! ブラジルや! ブランカはブラジルなんやー!
 わいがガンダムやー! ガンダムマイスター刹那や!
 あかんわー、ほんまマー君あかんわー」

 くそ、全く話しが通じない。カンベンしてくれ。
 なぜ関西弁になった?
 ちなみにマー君とは俺のことだ。マサシだから。

「バーバーまさ子バーバーまさ子」

 いつの間にか違うモノマネになっていたらしい。
 彼女は布団をかぶり、バーバパパのモノマネをしていた。
 というか、もう答えを言ってるじゃないか。
 なんだこの馬鹿は!

「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ……レバーを前に入れて波動拳レバーを前に入れて波動拳」

 時計は22時を回っていた。
 今日中に返さないと延滞料金が発生してしまう。

「悲しいときー悲しいときー生センマイと間違えて雑巾を食べてしまったときー!」

 間違えねえよ!
 俺の好物を汚すなー!
 ……ああダメだ、ツッコミ入れてる場合じゃない。
 もう、彼女は無視して一人で返しに行こう。

 俺はビデオをカバンに入れ、布団の団子になった彼女を背に、玄関へ向った。
 すると彼女は俺に向って叫んだ。

「動くなー! 動くんじゃない! 私を置いてけぼりにしたら大変なことになるぞ!」
「もう、なんだよ。どうなるんだよ」
「ミクシーにマー君とのエッチ日記をアップするぞ!」

 なんだと……なんて恐ろしいマネを

「○月×日 マー君は今日は三回もイった。
 最初、私がマー君のにゴムを口でつけてあげると
 興奮しすぎたのか、ゴムを付け終わった瞬間にイってしまった。
 マー君はとても恥ずかしそうに、ごめん、ごめんとレイプ目で繰り返し呟いていた。
 その姿があまりに可愛かったので、私はマー君の後ろに指を突っ込んで
 激しくかき回すとマー君は『ふぁふわわ~』と声を出しまたすぐイきました。
 しかし何かに目覚めたのか、マー君のはおっきくなったままだったので
 そのまま挿入されてしまいました。
 マー君は腰を激しく振り『何を入れられて気持ち良いか言ってみろよ!』
 と、調子に乗って言って来たので私は『ペニス! ペニス! ほうほうけいけいペニス!』
 と喘ぎ、下半身がクジラのようになり、二人仲良くイきましたとさ。めでたしめでたし」

 …………。

「ふふ、どうだ。参ったか」
「参りました。本当にカンベンしてください」
「なら私を連れて行くか?」
「いや、さっき行かないって言ってたじゃないか」
「だまれ、モノマネは命令に変わっているんだ! 柚木ティナはRioに変わっているんだ!」
「何を言っている」
「とにかく、べ、別にあんたのことが心配だから付いて行くわけじゃないんだからねっ!」

 そう言うと、出かける準備をし始める彼女。
 なんだかんだ言いつつも、結局付いて来てくれる彼女に俺は嬉しくなった。

 鏡の前で髪をとかしている彼女は、さっきまでのブランカとは打って変わって、とても落ち着いていた。
 夜の短時間の外出のためか、服装はとてもシンプルカジュアルだった。
 デートのときの着飾った彼女とは、また違った美しさがあった。
 その姿に清楚を感じた俺は、自然と彼女を抱きしめ、そしてキスをしていた。

「あ……ちょっと、いきなりはズルイ」

 不意に抱きしめられた彼女は、少しビックリして言った。
 そのまま抱きしめて見つめる、すると彼女は俺を見上げ、目を閉じたので
 俺は再び彼女をぎゅっと抱きしめそっと口づけをした。

 時間が止まっているように感じた、だが彼女は目を開けるとゆっくりと両手で俺を押し返し

「もう、ダメだよ。ほらビデオ返しに行くんでしょ。……続きは帰ってからね」

 そうはにかみながら言った彼女は本当に可愛くて可愛くて
 全世界の幸福を独り占めしているのではないかと感じるほどに
 俺はこの幸せをかみしめていた。

 だがこの数十分後

「うおおお! 寒いよマー君! 寒いですう!
 ここは南極か北極かけっきょくどこだ! 南極大冒険か!
 実はロシアか! ここはロシアの凍える大地だ!
 半径2メートル50センチの赤きサイクロンとは私のことだ!
 今から暴れるので側で全ヒットしてください!」

 ケースだけをレンタル屋に持ってきてしまい
 返却も、レンタル上限のため借りる事も出来なくなった俺に
 発狂した彼女が、ザンギエフのモノマネをしながらダブルラリアットで
 延々と回り続けることになろうとは、知る由も無かった。

ノベラゴン 四日目

2009年08月28日 | ノベラゴン
『マジカルステッキホワイトスペル。』

「魔法の発動条件は知らないことである」

 夕方のPCルーム、先輩のオシャレな理系眼鏡が怪しく光り
 本を片手にいつもの調子で語りだした。

 先輩は魔法研究クラブの部長だ。そして俺は新人部員。
 俺は別に魔法に興味は無かったが、先輩に薦められたので入部したのだ。

 先輩は俺に向って、語り続けている。

 ああ……マジカッコイイです先輩。
 だけど相変わらず言っていることが意味不明っす。

「科学が発達してしまった現在、魔法はもう存在しない
 小さい頃、紙飛行機が空を飛ぶのは魔法だと思わなかったか?
 水に浮くものと浮かないものがあったとき、浮く方に魔力を感じなかったか?
 しかし、我々は知っている。
 飛行機が飛ぶのはそこに揚力があり
 水に浮くのはそこに浮力が働いているからだと。
 ああ、なんて悲しい世の中だよ」

 そう言うと先輩は頭を抱え、椅子に腰掛けた。
 そして「まあ、座りたまえ」と俺に言ってきたので、いつものように先輩の膝に座る。
 先輩は俺を抱えるように手を回すと、ゆっさゆっさと左右に揺れ、再び語りだした。

「魔法は存在しない、だがな、魔法使いは存在するんだ
 この資料によるとだな、この街には魔法の猫が居るらしい
 その猫は見つけた者の願いを一つだけ叶えてくれる。
 もしくは、魔法使いにしてくれるらしい。」

 先輩が言うには、願いはどんな願いでも叶えてくれるらしい。
 そして、魔法使いになれば魔法は使い放題だが、
 強い魔法を使うには何年も修行しないといけないらしい
 一人で修行したり猫がときどき持ってくる仕事をこなし
 一人前の魔法使いになる、ということだ。

「俺は魔法少女ならぬ魔法ショタが大好きなんだ。なあ、分かるだろう、少年」
「少年って、俺もう19ですけど」

 先輩は無言で俺の頭にあごを当て、ゴリゴリと攻撃していた。

―――

 橙と藍の混ざり合った夕闇が交差点に流れ込んでいた。
 先輩と例の資料に書かれている猫が居るという場所にきた。
 しかし胡散臭い、その資料は地域に密着しすぎている気がする。

「ところで先輩、その資料ってどうやって見つけてきたんですか?」
「赤音モーテルがメールで昨日送ってきたんだ」

 赤音モーテルとは、もう一人の部員の名前だ。
 もちろん本名ではない。コードネームらしい。
 本人曰く、この名前が私に精気と魔力を与えてくれる名前、とのこと。
 ときどき魔女みたいな格好でクラブに顔を出すのが、ちょっと怖い。
 あとガチっぽいのも怖い。

 そして俺達は交差点周辺の花壇で猫がいないか探し始めた。
 時間はどんどんと過ぎていった。

 ああ……さすがに帰りたい。
 その資料が本当か嘘か分からないが、もう疲れた。
 そうだ、今日は先輩のうちに泊まらせてもらおう、そうしよう。

 そんな事を考えていると先輩が「あ、それらしき猫を発見!」
 え、と先輩の方に振り返ると大きな車のブレーキ音と共に先輩の体が空高く宙を舞っていた。

―――

「魔法っ子、ショタっ子、魔法少年、魔法ショタ、びくんびくん、うーんうーん」
 先輩は病室のベッドの上で意味不明のうわごとを言っている。
「今夜が峠です」
 ドラマでしか聞いた事の無い台詞を医者が言う。

 先輩、俺、どうしたらいいんですか。
 俺は自然に先輩の指に触れていた。
 すると先輩は俺の手を握り返して言った。
「たのむ、死ぬ前に、魔法ショタを見せてくれ」
「せ、先輩」

 俺は病院を飛び出していた。
 走って、走って、気がつくとさっきの交差点に辿り着いていた。
 誰かが俺を見ていた。
 交差点の角、日も落ち、暗くなったその場所に、はっきりと分かる二つの光る目があった。
 そこに猫が居た。

 俺は近づいて抱きかかえてみた。
 全く抵抗をする事も無く、抱えられる猫。とても大人しい。
「君が魔法の猫っすか?」
 猫は「にゃぁー」と返事なのかあくびなのか分からない声を出した。

 全身は柔らかい黒、というより濃い目の灰色のようだ。
 目は青く光り、そして尻尾は二つに分かれていた。
 確かに、その猫は普通の猫ではない不思議な雰囲気を感じさせた。

 さっそく俺は猫に願いを言った。
 すると猫はキラキラと淡い光を纏い、蛍のように点滅し出した。
 チカチカと何度か点滅を繰り返し、そして最後には夜の闇に溶けていなくなった。

―――

 数日後、先輩は病室のベッドでモリモリバクバクと
 まるで大食いチャンピオンかのようにカツ丼を食べていた。

「ふむ、カツ丼の美味しさには魔力が込められているのかもしれないなあ」

 医者によれば、あの後、無事峠を越えると、みるみるうちに回復に向ったらしい。
 普通は半年以上も入院するらしいが、この様子だとあと二ヶ月以内に退院出来るそうだ。
 良かった。本当に良かった。

「ところで、魔法の猫は見つけられなかったのかしら?」

 珍しく来ていた赤音モーテルが俺に向って言う。
 今日はトンガリ帽子までかぶっているのでいつも以上に魔女っぽい。

「ええ、まあ、残念ながら居なかったっす」
「……本当に?」
「う……うん」

 赤音モーテルの顔が近い。
「おい、こら、顔が近いだろう」先輩が赤音モーテルを注意する。

「ところで聞いてくれないか。どうやら俺の今の状態は
 医者に言わせれば、奇跡的な回復らしいんだ」
「そうね、まるで魔法ね」
「そう、魔法なんだ」

 うう、するどいっす先輩達。

「そこで俺は考えた、この病院は魔力が集まる場所なんじゃないかと
 すなわち、この病院内には魔法使いが居る可能性が高い
 いや、絶対居るに違いない
 そんなわけで、俺が退院したら、この病院を調査しようと思う
 みんな用意しておいてくれよ」

 先輩はキラリと歯を光らせて、俺達にスマイルした。

 ああ……マジカッコイイです先輩。
 これからもずっとついていきます。
 俺は先輩の手をぎゅっと握り締め、
 この変わらない毎日がずっと続けばいいのにと、そう願った。

 赤音モーテルは窓の外の遠くを見つめ、
 アンニュイな雰囲気で「まあ……いいけどね」と呟き、ハーブティーを飲んでいた。

ノベラゴン 三日目

2009年08月27日 | ノベラゴン
『WWW』

 世界に存在する『知』を全て集めれば、
 人類は一つ上のステージへ進化するのでは無いだろうか。

 その世界には『美』が溢れていた。
 大地には力強い緑が生い茂り、
 木々には赤や黄、いろとりどりの果実が実っていた。

 彼はその中の赤い果実を一つ取って味わった。
 みずみずしさが口の中に広がるのを感じた。
 そのまま彼は寝転がって空を眺めるた。
 美しい白と青が彼を見下ろしていた。

 全てが美しかった。
 彼の瞳に写る全てを彼は美しいと思った。

 しかし、そのことに気付いた彼は大層悲しんでいた。
 世界に溢れている『美』が彼の目を通してでしか感じられない事に。
 もっと『美』を感じたい、彼はそう思った。

 次の日、彼は研究を始めた。
 世界中の『美』を集める研究を。

 人々は彼を馬鹿にした。
 そんな事をして、一体なんの役に立つのかと
 しかし彼は知っていた。
 『美』には全てを肯定する、そして自らも肯定されるような
 そんな力がある事を。

 『美』とは何か?
 『美』とは感じるものであると彼は考えた。
 感じるとは何か?
 感じるとはそのものを知ることだと彼は考えた。

 『美』は集める事が出来ない。
 素数を美しいと感じるように、
 その並び、その場所に『美』が宿るなら
 そこでしか美しさを感じられない『美』も存在するだろう。

 その美しさは『知』によって感じられる。
 『美』は知らなければならない。
 その並びの美しさの意味を
 『美』は探さなければならない。
 その美しさが宿る場所を

 手のひらを太陽にかざせば、指の隙間から、柔らかな光が通り、
 美しい色合いを浮かび上がらせるのなら
 その事を知っていなければならない。
 手をかざすと美しいという事を知っていなければならない。

 故に彼は『知』を集める研究に没頭する。
 『美』を知るために。

 数年の月日が流れた。

 彼の研究室の小さな窓から見える外の景色は相変わらず美しかった。
 彼はそこから出ることは無かったが、研究の合間、窓をいつも眺めた。
 くじけそうになったときも、疲労で倒れそうになったときも
 どんなときも『美』を見ていた。

 もうすぐ全ての『美』が手に入る。
 彼は小さな窓に写る、小さな『美』を見つめてそう呟いていた。

 そして更に数年の月日が流れた。

 彼の研究は完成した。
 それは小さなバッチのようなものを頭に接続し、
 一つの大きな脳の役割をするサーバーのようなもので接続者全員の『知』を共有するというシステムだった。

 最初、人々はそのシステムを恐れバッチをつけようとはしなかったが
 人類の進化である、と彼は言い、人々を少しずつ説得していった。
 バッチをつけた者がとても快適そうにしていたのも、彼の説得力を高めていた。

 人々はバッチをつけた。
 彼の中に『知』が流れ込む。
 彼は泣いていた。
 世界の広さに
 世界の美しさに
 こんなにも、彼のまだ知らなかった『美』が世界に溢れていることに。
 そして、その全ての『美』を感じられることに。

 毎日が輝いていた。
 彼はもう、動く必要すら無かった。
 彼の望む世界の『美』が世界の『知』を通して彼に流れ込んでくるからだ。

 数年の月日が流れた。
 彼はあることに気がついた。
 『知』の絶対量が著しく減っていたのだ。
 なぜ?
 調べると答えはすぐに出てきた。
 人口が減っていたのだ。

 人々は世界の『知』を知り、そして自らの『知』を理解した。
 高い『知』を持った人物が『美』を作るのなら
 それに劣る『知』を持った自分はそれを越える『美』を作り出せないだろう。
 そして『美』が共有されるなら、劣った『美』を作る必要もないだろうと。

 その考えはあらゆる生産性のある行為の全てに適応されていた。
 子を作る美しい行為ですら。

 人々は減り、それと同時に共有されている『知』も減っていた。
 彼は打開策を考えたが、既に遅く
 共有している『知』がここまで減ってしまっては、新たなシステムも作りようがなかった。

 彼は泣いた。
 自らの不甲斐なさに
 大切な『美』を感じれなくなってしまうことに
 どうする事も出来ず、ただ泣き続けた。

 そして月日が流れ
 彼はベッドの上で最後のときを待っていた。
 穏やかな絶望を感じていた。

 最後の瞬間、彼は限りある大切なものが失われる美しさを感じ、息を引き取った。

 彼の作り出したシステムは接続者全員の死により
 その機能を停止した。

―――

 システム開発者の彼の世話をしていた
 一人の美しい白痴の女性がいた。

 彼女は『知』も『美』もあまりよく分からなかった。
 ただ彼との生活に幸福を感じ、その毎日毎日をとても尊く思っていた。
 それ以上なにも望むものは無かった。

 彼の死を彼女はとても悲しんだ。
 しかし彼女は彼の大事にしていた『知』が失われてしまうことは
 彼の悲しみなのではと、そう考えた。

 彼女は残りの生涯を彼の事を書に記すために使った。
 何を残せばいいのか、彼女には分からなかったので
 彼の研究から、彼の好きだったものや、彼の好きな体位など
 ありとあらゆるものを書き記した。

 そして彼女は最後に彼の自ら滅んでしまったシステムに名前をつけた。
 それは彼に、名前が無いけど、大切なものには君が名付けてあげるといい。
 そう彼女は言われていたからだ。
 彼女はその名前を彼の好きだった言葉と彼の名を合わせたものにした。

 奇しくもその名は数百年前に失われたシステムと同じ略名をしていた。

 わたしのだいすきなワイズさんのシステムのなまえをワールドワイドワイズとなづけます。
 みんながワイズさんのことをずっとずっとわすれないでいてほしいから。

ノベラゴン 二日目

2009年08月26日 | ノベラゴン
『紅色ライフタイム』

 本当にびっくりしたのです。
 彼女に出会ったとき、私は今だかつてない衝撃を感じました。
 心臓がバクバクと音をたて、全身に血液を熱く流し、大きく息を吸い込みました。
 今まで生きてこれたことを、
 今まで彼女が生きていたことを、
 そして、今この瞬間、彼女と出会えた喜びを、全身で感じていたのです。

 恋に落ちたのだと思います。
 ドラマや漫画では、溢れるほどみんなが恋をしています。
 そんなものは現実にはあるはずも無いと、
 いえ、私にはそんな瞬間が訪れるはずも無いと、そう思っていました。
 でもこの感情は、そうです、恋以外の何物でもないでしょう。

 そして、驚くべきことに、彼女も私に好意を持っていたのです。
 ああ、素敵ですね。
 これはもう運命です。

 早く、彼女を、私のものに

 早く
 彼女を
 抱きしめて
 キスをして
 そして

―――

 夕方の慌しい繁華街、ギラギラと眩しい照明は、行き交う女性を怪しく彩る。
 会社帰りにこの場所を通るたびにげんなりしてしまいます。
 私は人の顔を見ないよう、伏せ目がちにそそくさと通り過ぎるのです。
 するとフンワリとしたボブカットの女性が不思議な声のかけ方をしてきたのです。

「こんばんはお姉さん。
 お姉さんはいつも早足で帰るんだね。
 ところでいきなりなんだけど、お姉さんは運命って信じるかな?
 私のこと、どう思う?」

 今思えばおかしな人ですね。
 だけど私には見えました。
 彼女と私の運命の赤い糸が。

 その赤い糸は、この世界のあらゆる人工物の光りよりも眩しく、
 キラキラと私と彼女を包み込みました。
 そしてその糸は段々と短くなり、より強い光を放ちました。
 私達はその光に引き寄せられ、ぎゅっと二人の手が繋がりあったのです。

 彼女は「かなえ」と名乗りました。

―――

 私のことをお話しします。

 私は殺す人間です。
 ただ殺すのです。
 私が生きる、というシステムの中に当たり前のように組み込まれているのです。

 そうですね、お腹が空く、といった方がいいかもしれません。
 街をぼーっと眺めていると、回るお寿司屋さんのようです。
 だけど手を伸ばすと怒られる理不尽な世界です。

 私はルールを大事にする人間です。

「人は殺してはいけない。」

 そう決められているので私は人を殺しません。
 いつも庭で捕まえたネズミやよく分からない小動物を殺していました。

 ハサミで胴体を真っ二つに切ってみました。
 ネズミ捕りに入ったまま水の入ったバケツに浸けてみました。
 ゆっくりと手で上から押して平らにしてみました。

 あ、ちなみに今晩は鳥を絞めて明日のご飯にしようと考えていました。
 そんな事はどうでもいいですね。

 かなえに会ったとき私はかなえを殺そうと思いました。
 私は人を殺したいと思ったとき、人は殺してはいけません、
 というルールを思い出し、それを守ってきました。

 でも、こんな気持ちは初めてなのです。
 私は誰か知らない人を殺したいと、もう思うことはないでしょう、
 私はかなえを殺したい。本当に本当に殺したい。

―――

 ラブホテルに入るのは初めてで少し緊張しましたが
 そんな緊張もどこかに飛んでいってしまいそうなくらい
 かなえに手を繋がれてドキドキしていました。

 ここに入る前にかなえと食事していました。
 かなえは少しお喋りなようです。
 私がかなえの事を尋ねると、かなえはその何倍もの言葉で私に話しかけてくれました。
 かなえの口から私の名前が出る、
 そのたびに、私はかなえに恋をして、
 いつの間にか、テーブルの上のかなえの手を握ったりしていました。
 恥ずかしいです。

 今からする行為の方がもっと恥ずかしいですね。

 私はかなえのバスローブに手をかけました。
 シャワーを済ませ、潤いのある柔らかな肌を、手のひらで楽しむように
 かなえの肌に触れた私の手は、まるで肌に溶け合っていくようでした。
 服を脱いだかなえは、まるで別の世界から来た天使のようです。
 同じ人間とは思えない美しさです。

 私はかなえにネックレスをかけました。
 これは私が作ったもので、先端にモーターがあり、それを動かすと段々と首が絞まり死に至る、といった単純な構造です。
 私は確信していましたが、もしかなえはそんなつもりでは無かったら大変なことをしてしまいます。
 ネックレスをかなえの首にかけるとき「本当にいいの?」
 と聞くと「うん」かなえは恥ずかしそうに頬を赤らめて答えました。

 私はかなえの体を楽しむように愛撫をしました。
 全身をあまがみして、実際に食べたときの味を想像したりもしました。
 抱き合い、かなえの体と私の体が熱くなり、もうたまらなくなります。
 私はかなえの名前を何度も呼び、唇を味わいました。
 そして私はかなえに「スイッチ入れるね」といい
 かなえのネックレスに手を伸ばしました。

 …………?

 どうしたのでしょうか?
 私はかなえのネックレスに手を伸ばしているはずなのですが
 どうにも手に力が入らないのです。
 それどころか、声も出ず、目の前がぼやけてきたではありませんか。
 よく見ると、かなえの手から赤い糸が伸びて私の首に巻かれていました。

「お姉さん……可愛い。もう殺しちゃうね」

 く……苦しい!
 かなえ、何をしてるの!
 違うよ。そうじゃない。かなえは私に殺されないとダメなのに。
 …………。
 嫌だよぉ。
 殺させてよ。
 かなえ、殺されてよぉ。
 あとで殺されてもいいから。
 うぇええーーーん。
 ヒドイよ、かなえ。
 私はかなえを殺したかったのに
 かなえは誰でも良かったの?
 名前を呼んでよ、さっきまで呼んでくれたのに。
 私はこんなにかなえを愛しているのに。
 愛しているのよ、だから殺されて、かなえ。
 かなえ、かなえ、かなえかなえ、か……な……え……

ノベラゴン 一日目

2009年08月25日 | ノベラゴン
『配列カリキュラム』

「ゲームは素晴らしい。
 ゲームは負けても死なない。
 負けがはっきりしている。
 本当にゲームは素晴らしいよ。
 私はゲームが大好きだよ」

 俺がゲーセンの格ゲーで連敗中のとき、神がいきなり話しかけてきやがった。
 ほんと神はいつもいきなりでビックリする。
 俺の名前は真田屋流海(まだやるかい)そして、この話しかけてきた少女は神。
 なぜ神なのか。
「ふふ、私の名前? 私は全てのゲームを司る神だ! 私を呼ぶときは神と呼んでくれたまえ」
 とのことだ。
 出来る!
 小足に反応して昇竜は打てないくせに。……まあいいや。

 しかし相変わらず美しい神だな。

 歳は18くらいか。
 唇に刺さるトゲの様なピアス。へそにも刺さってる。
 セミロングの黒髪は硬そう、まるで松の葉だ。チクチクしそう。
 胸は柔らかそうだけどな。ムネムネするね。
 そして服装は一言であらわすなら『黒い』
 よく知らないが、ゴスとかいうやつなのだろう。

 それら全てをふまえて、神は美しいのである。

「流海は負けたのよ。
 数十メートルも吹っ飛ぶタックルを食らって、
 全身にクナイが刺さって、
 中国娘に蹴られまくって、
 そして負けたの」

 神うぜえー! ついでに呼び捨てにされてるし。
 なにこれ、俺弱いって言われてるの?

 まあ確かに、神はゲームが強い。
 ゲーセンのゲームだけじゃない、トランプ、麻雀、将棋、チェスなど一般的なボードゲーム類も強い。
 だけど絶対に勝てないってわけじゃない。
 神はやりこみはしないから、なので神に勝てるゲームは俺がかなりやりこんだゲームなのだ。

 そんな神は周りから中級者の壁になっていて、よく対戦を申し込まれるらしい。
 ときどき教えてもらってる初心者を見かけることも。
 神は人気者だな。

 神は全てのゲームとプレイヤーを愛している。多分そういうことなんだろう。

「ねえ、対戦しようよ。二つ選んでよ」 

 暇を持て余した神は俺と遊んでくれるらしい。
 ちなみに神は俺と対戦するときは三本勝負になる。
 俺の得意なのを二つ選ばせ、そして残りの一つはゲーセンの一番新しいゲームで戦う。
 この対戦方法はもちろん神が決めたルールだ。
 神が言うには『神々の三遊戯』という名前らしい。
 相手が勝てるフィールドで相手を負かす。それが神である、だそうだ。
 つーか神々ってなんだよ、お前しか神いねえじゃん。

 俺は『神々の三遊戯』で神に勝ったことが無い
 一本は取れたりもするのだが、まあそのための三本勝負なんだろう。
 またいつものように俺が負ける。悲しい話だ。
 だが神と対戦するのは楽しい。
 神はゲームを楽しんでいるような、そんな感じでプレイしている。
 コミュニケーションの道具でもあるのだろうか。
 ともかくそんな空気が伝わってくるので神とは何度も対戦したくなる。
 勝負もけっこういいところまで行くし。勝ちそうなときもある。いやマジで。

 しかしやっぱり勝ちたいな。
 神が出来ないゲームを選ぶ……そんなゲームは無いか。
 あったとしても俺も出来ねえし。
 そうだな、何かゲーム外から仕掛けるしかない。

 そんなわけで俺は神に賭けの提案をしてみた。
 昼飯でも賭けようと、しょぼい賭けだが、まあ……神とは言っても少女だ、これでいいだろう。
 何かを賭けてる、そう思うだけでミスも発生するかもしれないな。無いよりはマシだ。
 心理的プレッシャーだ、俺いますげー難しいこと言った。
 しかし神は動揺していないどころかこんな事を言ってきた。

「あのさ……負けた方が、一個だけ言う事を聞くことにしようよ」

 ぶはっ、鼻から炭酸出た、痛い。
 目ものども痛い。
 今飲んでたジュースは『すっぱめろん炭酸』どうでもいい。
 
 まさかの神のカウンターパンチ、神やべえ!
 俺が動揺させられてどうするんだよ。

「い、いいけど……俺は別に昼飯でいいし」

 動揺を悟られないように言うも、神はもう筐体に座っていた。
 はい独り言になったね。

 …………。

 そして対戦が始まるが、いつも以上にボロ負けだった、三本とも完敗。
 動揺しっぱなしで失敗して「ぐんっ!」などと恥ずかしい声も出てしまった。
 ぐんってなんだよ。
 神に歯向かった愚かな敗北軍か。
 そうだよ、神に分からされたよ。

 神が俺のとなりの椅子に座る。
 言う事を聞く……か。
 これはもしかして、昼飯とか比べ物にならない、そんなくそ高いモノとか買わされるんじゃね。
 ゲームの神だからPS3とか。

「流海は……好きな、ゲームとかある?」

 おーっと、これはPS3の可能性が高くなってきたぞー!
 つーか俺の好きなゲーム、神知ってるだろ。
 この今やった格ゲー、ギルティじゃん。

「流海はユニクロ好きなの?」
「ああ、うんまあ安いし」
「さっき昼飯って言ってたけど勝ったら何を食べたの?」
「パスタ、あーやっぱ焼肉定食かな、向かいの飯屋の」
「流海は焼肉好きなの?」
「肉スゲー好きだよ」
「流海は今日は昼にここに来たけど何してたの?」
「今日はなんも無かったからずっと寝てたよ、んで起きてパン食って来た」
「ジャムパン?」
「うんそれ、知ってるし。さすが神」
「流海はジャムパンが好きなんだよね」
「まあ、アマパンの中ではジャムパンが一番かな」

 俺の軽い答えにどんどん質問してくる神
 今日の神はいつもと一味違うようだ。
 そう神に聞いてみると、神は黙ってしまった。
 あれ、俺悪い事言ったのか。なんかモジモジしてるし。
 まさかオシッコを漏らしてしまい、それを隠そうと喋り続けていたのか
 いや、それならもう手遅れだ、トイレに神隠れしてくるといい。

 少しの沈黙の後、神が口を開く。

「流海はさ……流海は……わ……か、神の事をどう」
「神さまー、ポップンしようー!」

 神が何か言おうとしたとき、常連の学生たちに声をかけられる。
 なかなかのタイミング。すげえな。
「あ、うん、行くよ」神はそう言い席を立つ。
 結局なんも要らなかった? 欲しいものとか好きなものとか?
 そう聞くと神は俺の『すっぱめろん炭酸』を奪いとり一気飲み。

「うぇー、これはない。
 流海……神は甘酸っぱい飲み物が苦手なのだよ。
 私が好きなのは……そう、ミネラルウォーターだ!
 神の供え物として次は用意しておくといい!」

 そう言ってポップン勢ときゃっきゃうふふしに行った神。
 相変わらず神はかっこよく、そして美しい。

 ああ……神。
 マジほんと大好きだよ神。
 今度は絶対に俺が勝つ。
 勝って飯誘ってやるぜ。