その①の続き ペルシア人のオマル・ハイヤームはイスラム以前の古代ペルシア王朝に思いを馳せている。サーサーン朝(226-642年)の首都だったクテシフォン(現イラク)の廃墟に立って詠んだ詩は胸を打つものがある。 ―天にそびえて宮殿は立っていた。ああ、その昔帝王が出御の玉座、名残の天蓋で数珠かけ鳩が、何処(クークー)、何処(クークー)とばかり鳴いていた。 ―バハラームが酒盃を手にした宮居は狐の巣、鹿の . . . 本文を読む
イスラムに関心のない方でも、酒が禁忌とされているのは知られている。コーラン5章90節にもこう記されている。「あなたがた信仰する者よ、誠に酒と賭矢,偶像と占い矢は,忌み嫌われる悪魔の業である。これを避けなさい。恐らくあなたがたは成功するであろう」 しかし建前は禁酒でも、実際は酒場も公然とあって大いに飲酒した者がいるのは詩や物語からも知れる。特に11世紀に活躍したペルシア(イラン)の詩人オマル・ハイ . . . 本文を読む
西欧人の海賊に比べれば日本で馴染みは薄いが、イスラム圏にも有名な海賊がいる。海賊や海戦史に疎い私でもオスマン・トルコの海賊ウルグ・アリの名を知ったのは塩野七生氏の本を読んだからだ。ただ、彼はトルコ人でもアラブ人でもなく、元はキリスト教徒のイタリア人だった。 ウルグ・アリの元の名はジョヴァン・ディオジニ・ガレーニ、1520年、南イタリアのカラーブリア地方の小さな漁村カステッラに漁師の子として生まれ . . . 本文を読む
今日はクリスマスだ。エルサレムはユダヤ、キリスト、イスラム教の聖地とされる。ユダヤはもちろんイエスが布教し、処刑された地なので、キリスト教徒にも聖地なのは書くまでもない。しかし、イスラムも聖地なのは異教徒には解せない。ムハンマドはエルサレムに縁もゆかりもなく、この地を訪れたことは生涯ただの一度もないのだ。 イスラム側の伝承では、聖遷〔ヒジュラ〕前年の621年7月27日の夜、床についていたムハンマ . . . 本文を読む
松本清張の小説に『火の路』
というものがある。昭和48(1973)年6月から翌年10月まで朝日新聞朝刊に連載された作品で(連載時の原題は「火の回路」)、飛鳥、奈良時代の日本
に古代ペルシア文明がかなり影響を与えたと見る歴史研究家の女主人公が、イランを訪ねる物語だった。奈良県飛鳥地方には酒船石(さかふねいし)はじめ猿石、益田岩船(ますだのいわふね)といった謎の石造物がある。清張は飛鳥時代に渡来 . . . 本文を読む
1492年1月、イベリア半島での最後のイスラム教徒の拠点であるグラナダが陥落。711年にウマイヤ朝がイベリア半島に侵攻してからおよそ800年後、ついにレコンキスタは完了する。グラナダにはキリスト教徒に追われた多くのムスリムやユダヤ人が移り住んでいたが、彼らの大半はスペインを追われる。北アフリカやオスマン・トルコに移住したユダヤ人はスファラディームと呼ばれることになる。 オスマン・トルコはスペイン . . . 本文を読む
その①の続き モーセが登場したのは現地エジプト人との関係が極度に悪化した時代。旧約聖書にはいかにエジプト人がユダヤ人を苛酷に扱ったか強調して書かれているが、これはユダヤ側の“文献”なので鵜呑みには出来ない。人権も「法の下の平等」思想もない時代だが、エジプトで大量虐殺された形跡もなさそうだ。 その後のモーセの様々な奇跡は現代の異教徒からは到底信じられないだろう。川の水が変色したり、アブ、ぶよ、イナゴ . . . 本文を読む
レンタル・ビデオ店に行くと、結構ホロコーストものの作品が目に付く。ハリウッドを牛耳るのがユダヤ系なので、未だ事情を知らない他民族からの同情を引き付けるには、ナチスは欠かせない悪役なのだろう。だが、歴史書ばかりでなく聖書にも彼らが加害者でもあったことや、忌み嫌われる背景が浮かび上がってくる。 旧約聖書では奴隷は全く問題視されてない。中東に限らず古代はどこも異民族、他部族は奴隷対象であり、ユダヤ人も . . . 本文を読む
男ならハレムを夢見ない者はいないだろう。女との付き合いに不足しないモテ男でも、さらに女を獲得したがるものだ。そんな男の夢を叶えられたのは中国やトルコの皇帝くらいだが、現代の庶民が想像したがる後宮の実態はどうだったのだろう? コンスタンティノープル(現イスタンブール)征服で有名な15世紀後半のメフメト2世や、全盛期のスレイマン大帝の時代でも後宮の女たちの数はおよそ3百人ほ
どだったとされる。その . . . 本文を読む
オスマン・トルコの17代皇帝ムラト4世(在位1623-1640年)は、煙草が大嫌いだった。この皇帝はオスマン・トルコ歴代皇帝の三分の二と同じく酒は大好きなくせに(アル中の皇帝さえいた)、煙草を目の敵にし、喫煙の風習が帝国全土に広まるのを苦々しく思っていた。同じく神学者たちも、煙草は酔わせる作用があるから酒と並び禁忌にすべきものとの見解を示していた。そこへ首都イスタンブールに大火事が起こり、原因は . . . 本文を読む