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トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

動物裁判-中世欧州の動物虐待 その①

2009-11-18 21:17:49 | 読書/欧米史
 現代こそ欧米諸国は動物保護の先進国を自負しているが、中世欧州では人間に危害を加えた動物は人間の場合と同様、裁判にかけられ、処刑された。当時でも動物裁判など行われていたのは欧州くらいだろうが、記録からは中世欧州社会の興味深い世相と精神が浮彫りとなってくる。 1456年の暮、フランス、ブルゴーニュ地方のサヴィニー村で、村人達はクリスマスの準備に追われていた。子供たちも大人に混ざり手伝いをしたり、遊ん . . . 本文を読む

いらいらした愛国心

2009-11-03 20:20:48 | 読書/欧米史
 トクヴィルは19世紀のフランスを代表する思想家・知識人であり、渡米体験に基づきアメリカの民主主義を高く評価した人物でもあった。しかし、単にアメリカ礼賛をしていただけではなく、著書『アメリカの民主政治』で描かれたアメリカ人の外国人に対する対応は興味深いので、それを紹介したい。 -アメリカ人のこのいらいらした愛国心ほどに、平常生活に邪魔になるものはない。外国人は彼らの国を大変褒めることには賛成するで . . . 本文を読む

獣刑-動物を使った処刑

2009-10-26 21:19:50 | 読書/欧米史
 前回の記事では実験台にされる現代の哀れな動物のことを書いたが、かつて世界では獣刑と呼ばれる動物を使った処刑方が広く行われていた。これは死刑囚を除き、人間、動物共に満足させられるものであり、処刑に動物を使役したということも人間と動物の関わりが分り興味深い。 獣刑でよく知られているのは古代ローマである。身分が高い者には流刑や斬首が規定されていたが、そうでない者は見世物を兼ね円形競技場で猛獣に食い殺さ . . . 本文を読む

聖遺物の話

2009-09-14 21:21:13 | 読書/欧米史
 大乗、小乗とわず仏教世界では仏舎利は信者の崇拝対象となっている。釈迦入滅後、荼毘にされた遺骨及び遺灰は8等分され、それがインドのみならず仏教圏に拡散されるに至る。これと似たような現象が西欧のキリスト教世界、殊にカトリックでも広く行われていた。崇拝対象となるのはもちろんイエスの遺骨ではないが、教祖にまつわる物全てであり、これらは聖遺物と呼ばれた。 聖遺物の一例を挙げると、最後の晩餐のテーブルやイエ . . . 本文を読む

あるルネサンス高級官僚の覚え書き

2009-09-04 21:21:18 | 読書/欧米史
 マキアヴェッリの晩年の親友にフランチェスコ・グイッチャルディーニという人物がいる。前者より16歳年下だが、官僚であり外交官、政治家で歴史家等の経歴は同じだった。しかし、世渡りに長けたマキアヴェリストどころか公的には振るわなかったマキアヴェッリに対し、16歳も若い友人はフィレンツェ共和国の出世株、今風に言えばキャリア官僚のトップという点が大きく異なる。そのグイッチャルディーニが公表を目的とせず書い . . . 本文を読む

アグリコラ その②

2009-07-28 21:25:16 | 読書/欧米史
その①の続き これらを踏まえ、塩野七生氏が下した結論は何やら流行りの環境保護活動家とも重なるものがある。-これを奴隷化と断ずるタキトゥスは、私には先進国の左派知識人を思い出させる。自分では全てを持っていながら開発途上国の人々には、冷蔵庫や電気洗濯機や自動車を欲しがるから四六時中働くことになるのだと言い、本来の彼らの生活様式に戻るよう説く、恵まれた人の言葉でも聴くような想いにさせるのである。冷蔵庫や . . . 本文を読む

アグリコラ その①

2009-07-27 21:50:35 | 読書/欧米史
 古代ローマを代表する歴史家タキトゥスは、岳父についての伝記を遺している。『アグリコラ』と題する著で、題名どおり属州ブリタンニア(現イギリス)総督だった岳父アグリコラの業績について記しており、舅の統治を述べた箇所は近代から現代にも通じる帝国・覇権主義、南北問題を思わせ、興味深いものがある。その部分を紹介したい。 -休戦期である冬の間を、アグリコラは有効な政策の実施に当てた。それは個々に別れた集落で . . . 本文を読む

白人の友人の最後

2009-06-12 21:28:40 | 読書/欧米史
『ソルジャー・ブルー』というアメリカ映画がある。映画のあらすじを紹介したサイトもあり、1864年11月29日、コロラド地方で起きたサンドクリークの虐殺事件を、西部劇には珍しく先住民の立場で描いた異色作。この映画が制作された1970年は折りしもベトナム戦争中、ソンミ村虐殺事件(1968年)とも重なる。しかし、サンドクリークの虐殺で生き残ったシャイアン族の長にも係らず、生涯白人との友好を訴えた人物がい . . . 本文を読む

サーミ人-北欧の少数民族

2009-03-31 21:26:10 | 読書/欧米史
 北欧にラップランド(Lapland)と呼ばれるところがある。スカンジナビア半島北部からコラ半島に渡る地域で、文字通りラップ人の土地の意味。しかし、古代からこの地域に住んでいるラップ人が現代に至るまで国を建国したことはない。ラップランドという呼称自体、辺境を意味する異民族からの蔑称で、原住民は自分達をサーミ人、またはサーメ人を自称する。かつて日本でも北欧式にラップ人と表記していたが、近年はサーミ人 . . . 本文を読む

ゾロアスター教の聖典を初訳したフランス人 その⑤

2009-02-28 20:28:27 | 読書/欧米史
その①、その②、その③、その④の続き 身を切られるような批判にもデュペロンは挫けることがなかった。続けて『オリエントの法則』(1778)『インドの歴史・地理研究』(1786-89)『インドとヨーロッパの交流』(1790)を出版する。インドとペルシア、オスマン帝国の社会・政治的システムの合理性を裏付けようとした『オリエントの法則』は21世紀、再び光を浴びようとしている。それはモンテスキューが『法の精 . . . 本文を読む