ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

国立劇場バレエ団『シルヴィア』2012年10月31日(水)、11月2日(金)

2012年11月18日 | Weblog

東京のNさんから新国立劇場バレエ団の
シルヴィアのもう1組分の観劇記が届きました。
本場バーミンガムの香りが初台まで届いた舞台、

中でもエロスの福田さんが出色だったとのことです。

(写真は英国舞台芸術フェスティバル限定のスコーンセットです)

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新国立劇場バレエ団『シルヴィア』2012年10月31日(水)、11月2日(金)

バーミンガムロイヤルバレエからのゲスト主演日に足を運んだ。
エロス役の福田さんはローザンヌでの入賞後留学、
オライオン役の厚地さんは新国立劇場入団前に在籍し
バーミンガムの香りがそのまま届いたかのような
ユーモアに溢れた舞台が繰り広げられた。
シルヴィアは佐久間奈緒さん、
流石踊り込んでいるだけあって
ぐいぐいと舞台を引っ張っていた。
恐るべきテクニシャンで目の回るような高速ステップも余裕綽々、
しかしながら決して仰々しく見せようとせず
くっきりとした輪郭を描く軽やかで実に音楽性豊かな踊りに
すっかり魅了された。
情感の豊かさ、表現の細やかさも印象深く、
是非ともまた客演していただきたいダンサーである。

佐久間さんの舞台はこれまでに何度か鑑賞しており、
2006年スターダンサーズバレエ団での
ピーター・ライト版ジゼル、
バーミンガムロイヤルバレエ団来日公演では
2008年美女と野獣のベル、2011年眠れる森の美女のオーロラ姫である。
先述の通り素晴らしいテクニックの持ち主だが
執拗に見せびらかすこと無く
どのヒロインからも優しい温もりが伝わった。
今年の7月、バレエアステラスでの
バランシン振付チャイコフスキー・パ・ド・ドゥでは
物語の無いバレエでありながらも あたたかみを感じさせ、
バランシン作品でこんなに心穏やかな気分になったのは
初めてであった。

ツァオ・チーさんは品格のあるダンサーで
滲み出る自然な美しさが作品全体に漂い
舞台の格を一層高く引き上げていた。
英国バレエの真髄を伝える魅力あるダンサーである。

佐久間さんとチーさんの確固たるパートナーシップも
挙げておきたい。
全てにおいてスムーズで息はぴったり、
パとパの間でふと顔を合わせるときも絶妙なタイミングで
長年組み、ビントレー監督からの信頼も厚く
バレエ団の看板ペアとしての活躍に納得である。

そして本日もう1人の主役は
福田圭吾さんによるエロスであろう。
現代世界では老庭師で、
髪は白く白地スーツを着こなす
見た目はケンタッキー・フライドチキンの
カーネル・サンダースさんそっくりな姿に最初は戸惑った。
3人のエロスを鑑賞したが
福田さんからは味わい深さや渋味を感じさせ、
若手ながらどこか落ち着きのある雰囲気が
役柄にそのまま表れて、
エロス最年少ながらもっとも似合っていたように思う。
海賊の首領に扮して片足は義足を付けて踊る場面では
両足を使っているときと変わらぬ軽妙さがあり、大喝采だった。

最後幕切れでは再び庭師の姿に戻る。
上着を肩に掛け、帽子を手にして客席に合図をしながら
舞台中央奥へ歩き出す姿が
フーテンの寅さんに似ているとのある方の一言で、
もう寅さんにしか見えず。
渋い味わいに加えて漂う哀愁、 確かに似ている。

家族や人との繋がりを重視している点、
そして妹の名が「さくら」であることも パゴダの王子と共通し、
ビントレーがバレエ化したら面白いかもしれない。
もし上演が実現すれば、
全国の寅さんファンが、葛飾区柴又地域及び
倍賞千恵子さんはじめ映画関係者ら大勢が初台に駆けつけるであろう。

ダイアナは本島美和さん、
神々しいほどきらきらに輝き、戦う女神そのものであった。
金色の頭飾りや胴衣もよく似合い
特にバッカスのファンファーレでの登場は堂々たるもの、
ニンフ達憧れの女神様である。
大きな弓矢を手にしながらの踊りも貫禄十分だった。

オライオンは厚地康雄さん、
細身なダンサーであるため迫力に欠けてしまうのではと
想像していたが、全くの逆、
濃密で妖しく、渾身の大熱演だった。
ビントレーの教えが身体にしっかりと入っていることを窺わせる。
これまでは王子やアンナ・カレーニナでのヴロンスキーといった
華やかな役の印象が強くあったが
実は色々な引き出しを持っている未知数のダンサーなのではと
今後が益々楽しみになった。
星の神々達はキャストが入れ替わったが、
今回も見応えある舞台であった。
ネプチューンの加藤さんは流れるような踊り、
まだアーティスト階級ながらソロの役への抜擢が続いている
ダンサーである。

マーズの竹田さんは今シーズンより入団、
ヒューストンバレエからの移籍である。
脚が絡まりそうな複雑な振付を実に巧みにこなし、
シンデレラの配役が楽しみである。

アポロの井倉さんは可愛らしくも色っぽさがあり、
澄ました表情と柔らかな踊りに惚れ惚れした。
研修所出身で2007年にコール・ドとして入団、
今シーズンよりファーストアーティストに昇格した
生え抜きの要注目ダンサーである。

ジュピターの大和さんは
次々と達者に決めてきびきびとした踊りが気持ち良い。
4人の締めに相応しいメリハリのある動きで盛り上げていた。

さて無事千秋楽を迎え、次公演は
2年に1度の年末恒例・アシュトン版のシンデレラである。
銀色に輝くかぼちゃの馬車をはじめ、
目も眩むような煌びやかな装置、衣装、
そして流麗且つどこか摩訶不思議な雰囲気のある
プロコフィエフの音楽が心を響かせる、
傑作バレエである。
あらすじは童話と同じで、バレエ初心者にも是非おすすめの作品だ。

今回の注目は、これまでシンデレラでもずっと王子役を務めてきた
山本隆之さんが、お義姉さん役に初挑戦することである。
まだ正式な発表はされていないが、
先にジュピター役で触れた大和雅美さんのファンクラブブログに掲載された
稽古の合間写真で判明した。

http://blog.livedoor.jp/masamifc/
(右側が山本さん)

8月に外部の公演でコッペリアのコッペリウスを拝見したが、
爆発しかけた白髪頭でご本人とも判別がつかない特殊メイク、
百面相で怪しい村の頑固者老人そのもの、
オスカー俳優もたじろぐほどの名演に驚倒した。
現役でまだまだ踊り続けながらも名優の域にも達していて、
きっと、これまでに出会ったことのない
魅力あるお義姉さんになると大いに期待、必見である。



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2 コメント

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Unknown (aruyaranaiyara)
2012-11-25 10:59:05
私も観ましたが、本島さんの神々しさは、
抜きん出ていましたね、美しかった!

山本さんの、逞しさと美しさなら、、、。
シンデレラのお姉さんより、
「眠れる森の美女」のリラの精がお似合いのような気がします。
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あり (管理人)
2012-11-28 03:06:12
Aruyaranaiyaraさん
そうですか。ご覧になったのですね。
コメントありがとうございました。
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