MOONの似顔絵エッセイ

似顔絵師MOONです。
似顔絵よもやま話をぼちぼちと書いていきます。

「蝉しぐれ」

2005年10月02日 | 映画
10月1日映画の日、「蝉しぐれ」を見た。
キャスティング、美しい映像、テンポ、申し分なし。音楽も良かった。
数ある藤沢作品のなかでも特に傑作と名高い『蝉しぐれ』の映画化だ。

下級武士の子、牧文四郎。 だが、父は藩の派閥抗争に巻き込まれ、切腹。 
その後、幼なじみたちの助けと、剣の鍛錬によって日々を質素に、
そして懸命に母とともに生きる文四郎に、ある日、
筆頭家老から牧家の名誉回復を言い渡されるのだが、
これには深い陰謀が隠されていた…。

監督は黒土三男。作品に対する熱い思いで、藤沢先生との映画化交渉開始から
足掛け13年余の月日をかけて完成させたという。その熱い思いが伝わってきた。
日本の映画界においても市川崑、山田洋次らの巨匠たちがこぞって「時代劇」の新作を次々と世に送り出し、日本のみならず、海外でも高い評価を得ている。それはなぜか
「時代劇」こそ日本人が世界に向けて発信することができる日本独自の文化だからだ。
この映画は特に若い人に見てもらいたい、と思った。

二人の息子とかみさんを連れて家族4人でこの映画を見てきた。
劇場から帰る車の中で、この映画を見ての感想を一言で言ってもらった。
かみさんと中学生の息子 遥は「美しかった!」
高校生の息子 泰は「悲しかった!」であった。
泰は、アメリカ映画のヒーローものや、SFアクション映画ばかり見てきた。
親の目からみると、いささかアメリカ映画に毒されている、という傾向がある。
潤沢な予算をふんだんに使って作るアメリカ映画は確かに、凄い迫力のある
映像を見せてくれる。それに対してその手の日本映画の映像は「ショボイ」と
泰はよく言っていた。そんな息子 泰は時代劇「蝉しぐれ」を見て
かなりカルチャーショックを受けたようだ。

この映画にはヒーローはいないし、CGを使った派手なアクションはないが
真剣勝負の研ぎ澄まされたアクションには迫力があった。
泰がこれまで見てきた映画にはなかった、日本の風景の美しさがある。
武士社会の中にあって、慎ましく生きる下級武士の暮らしぶりがある。
家族同士の絆がある。男の友情がある。
権力闘争に巻き込まれた末に、尊敬する父親を失う文四郎であったが
母親を守り、自分の生き方を一途に貫こうとする男の生き様がある。
そこには、見る人すべての人に共感させずにはおかない何かがある。

もう一つの要素として、プラトニックな恋愛がある。
この映画の主人公である文四郎と、幼馴染のおふくとの
熱い恋愛が描かれている。
泰には、愛し合っている主人公の二人が結ばれなかったことが、
よほど悲しかったとみえ、しきりとそこにこだわっていた。
若い泰にとって、当時の男女の恋愛行動には、理解の外らしい。
それは無理もないと思う。日本はあまりにも変わってしまったのだ。
男女の恋愛の自由度において、江戸時代と現代では隔世の感がある。
私の青春時代と比べても、現代の恋愛行動は非常にオープンになっている。
携帯電話やチャットで簡単に好きな相手に「コクる」ことができ、
出合った男女が簡単にSEXをし、分かれ、また新しい相手を探す。
羞恥心、貞操観念というものを、どこかに置き忘れてしまったようだ。

映画では結局二人は結ばれることなく映画は終わる。
川べりに浮かぶ舟に文四郎が寝そべっているラストシーンが印象的だった。
映画を見終わって、忘れていたものを思い出させてくれたような余韻が残った。
そうだ、良い映画というのは、見終わった後に心地よい余韻が残る映画なんだ。
家についてから、息子の泰が私に「感動を有り難う」と言ってくれた。
同じ映画を家族で見て、感動を共有できた一日だった。