MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1965 なぜ立憲民主党は(いまひとつ)振るわないのか?

2021年09月14日 | 国際・政治


 菅義偉首相が9月3日の自民党の臨時役員会で(まさに意表をついた形で)党総裁選への立候補辞退を表明したことで、世間の興味・関心は(あっという間に)次の自民党総裁選びに持って行かれた観があります。

 メディアは連日、やれ「岸田文雄前政調会長だ」「河野太郎行政改革相が支持を伸ばしている」「石破茂元幹事長はどうするのか」などとあれこれ報じていますが、こうした中で危機感を募らせているのが、自民党に代わって政権を狙う野党陣営ではないでしょうか。

 特に、枝野幸男代表率いる立憲民主党への影響は大きそうです。菅義偉政権のコロナ対策などにおける失政批判により次の衆院選で議席を伸ばそうと狙っていたのに、そうした挽回のシナリオが無残に崩壊したといっても過言ではないでしょう。

 菅首相退任表明前の朝日新聞の世論調査(8月7、8日実施)では、菅政権の支持率は発足以来最低の28%まで落ちていたにもかかわらず、政党支持率では自民党が32%でトップをキープ。野党第一党であるはずの立憲民主党の支持率はわずか6%に過ぎませんでした。

 NHKが首相退陣表明後の9月13日に行った世論調査における政党支持率では、与党自民党が37.6%、公明党が3.6%と合わせて4割程度を保っている一方で、立憲民主党は5.5%とさらに振るいません。悲しいかな(少なくとも)現状では、大多数の国民が立憲民主党に対し、「政権の受け皿」として期待の目を向けていないのは事実と言えるでしょう。

 立憲民主党は、なぜこんなにも人気がないのか。
 9月12日のPRESIDENT Online に、ジャーリストの赤石晋一郎氏が『「自民党は苦手だけど"民主党政権"は絶対イヤ」野党の支持率が一向に上がらない3つの原因』と題する論考を寄せているので、参考までにその概要を紹介しておきたいと思います。

 次期衆院選において立憲民主党が期待されない理由の一つとして、赤石氏は同党の候補者不足、人材不足を挙げています。小選挙区制で政権交代を目指すには、全選挙区への候補者擁立が望ましい。ところが衆議院の289選挙区のうち、立憲民主党の9月初め時点の立候補予定者数は約210人にとどまっているということです。

 新しい候補者を擁立すればそれだけで話題になり、党の存在感をPRできる。なにより候補者の数が増えれば、比例票の積み上げになると氏は言います。

 二大政党制のもとでの選挙区制度では、「風次第」でオセロゲームのような地滑り的な大勝が起こるのは彼らが一番よく知っているはず。それなのに、衆議院議席の過半数に満たないような候補者しか擁立できないようでは、「はなから自民党と闘うつもりがない」と言われても仕方がないというのが氏の見解です。

 そんな立憲民主党の二つ目の問題として、赤石氏は「旧・民主党との違いが見えない」ことを指摘しています。

 立憲民主党の最大の支援団体となっているのは、日本最大の労働組合の中央組織「連合」です。旧・民主党の支持母体としても知られ、民主党が政権交代を果たした12年前の2009年選挙では、約700万人の組織票が大きな力になりました。

 しかし、自民党安倍政権の下でその影響力は大きく低下し、特に若い人たちの間では、労働組合は既に「オワコン」扱いされている。組織力も低落傾向にあり、思うような組織票を出せなくなっていると氏は言います。また、こうして年々弱まっていく支持母体によりかかった体質自体が、なんだかアグレッシブさに欠けて「貧乏くさい」ということもあるでしょう。

 一方、かつて郵便局や農協などの組織票を基盤としてきたライバルの自民党は、社会の変化意識し、発信力のある政治家を着々と生み出している。例えばSNSに強い河野太郎氏などはその典型で、動画やツイッターなどを使って自由に政策を発信することで若い層の支持を集めていると氏は言います。

 それに対し、立憲民主党の情報発信はいまだ旧態然としたものが多い。枝野代表が重視するのはいまだに記者クラブ向けの発信ばかり。自民党と立憲民主党の公式サイトを見比べてみても、わかりやすさが断然違うということです。

 自民党が国民に直接PRすることを考えているのに対し、立憲民主党はマスコミの記者にさえ理解してもらえばいいと考えているのではないか。SNSの活用にも歴然とした差があり、これらも「組織票頼み」の体質から抜け出せていないことの表れではないかということです。

 さらに言えば、執行部の布陣も旧・民主党とあまり代わり映えがしないというのが立憲民主党の現状に対する赤石氏の認識です。

 自民党が幅広い裾野から次々と「新しい顔」を生み出しているのに対し、枝野代表、福山哲郎幹事長、蓮舫代表代行という顔ぶれを見て、「新しさ」を感じるのは難しい。立憲民主党の党勢回復は、まず民主党政権のマイナスイメージをどう払拭するかにかかっているのに、12年たってもいまだに新しいイメージを打ち出せていないということです。

 さて、立憲民主党が万年野党のイメージを払しょくできない3つ目の問題点として、赤石氏は「ブーメラン批判」を挙げています。

 立憲民主党はこれまでも、勢いよく与党批判をしたのに、それと同時に身内の不祥事が明らかになり謝罪するという状況を繰り返している。これは旧・民主党からの悪しき伝統で、例えば昨年4月、大学生への支援をめぐり、立憲民主党の蓮舫副代表(当時)は参院予算委員会で「生活も成り立たない。学校を辞めたら高卒になる」などと発言したことで、SNS上で「学歴差別」などの批判が噴出。蓮舫氏は「言葉がすぎました」と謝罪に追い込まれた。

 最近では、成人と中学生の性行為を肯定するような衆院議員の本多平直氏の発言なども問題視されたが、こうした状況が、まさに「他人に厳しく、身内に甘い」という「お友達体質」を露わにしてしまっているというのが氏の指摘するところです。

 「言うだけ番長」で追及の弁舌は鮮やかだが、やっていることがなんだか子供っぽい。彼らの言動の軽さや組織としての在り方自体に、クラブ活動のような甘さを感じるということでしょう。

 さて、こうした様々な問題を抱える立憲民主党ですが、支持率が伸びない最大の理由は(何といっても)その「暗さ」にあるのではないかというのが、赤石氏がこの論考の最後に指摘するところです。

 与党批判だけを原動力にしてきた後ろ向きの姿勢が、党の暗い雰囲気を醸成する要因になっている。立憲民主党が常に「野党第一党という現状に満足しているように見える」(政治部記者)と評されるのも、その姿勢があまりに「内向き」だからだというのが赤石氏の見解です。

 確かに、対する今の自民党は、既に以前のようなわけのわからない暗い存在ではないような気がします。小泉改革以来、党内の様々な情報や議論が表に出てくるようになり、(党内の人間関係も含めて)情報発信も進んでいる。彼らの人間臭さが何やら身近に感じるようになったのは、奇しくも政権交代によって野党を経験したことの成果のひとつなのかもしれません。

 いずれにしても、(赤石氏も言うように)健全な民主主義には、存在感のある野党が欠かせないことは(いまさら)言うまでもありません。政権をかけた解散総選挙が間近に控える中、立憲民主党には改めて野党第一党としての奮起を期待したいとこの論考を結ぶ赤石氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。


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