走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

息が止まるまで

2015年10月12日 | 仕事
最近ネガティブな私。風邪と喘息を引きずっているせいで体調が優れないのもその一因かと。

患者の行動に腹を立ててしまう。

月曜日の午前中に会ったホームレスのヘレンの主訴は1ヶ月続く咳。慢性閉塞性肺疾患があり、吸入器が効かないと。他にこれと言った所見がないので、感染による慢性閉塞性疾患の悪化と診断し、吸入器の指導(使い方がメチャメチャ)と5日間のステロイドの内服と1週間の抗生物質を処方した。すぐ処方が手に入るように、処方箋は薬局に直接ファックスで送った。

水曜日にヘレンから電話が入る。息ができないと。一言一言息を継ぎ足さないと喋れない。重篤だ。処方した薬を服用しているのか尋ねると、していないと言う。薬局に行ったけれどなかったからと言う。

しまった間違ったファックス先に送信したのか?!

薬局に確認を取るとファックスを受け取ったし薬の準備はできていると。しかし患者が取りにこないとの事。

ああああ、あんなに説明したのに、事の重大さが伝わらない。翌日ならともかく2日もたっている。何故だ、何故なんだー

救急車を呼んで救急室へ行くように伝えると、行きたくないと言う。救急室は大嫌いと。

死 に ま す よ!

ストレートに言った。

私の患者層、特にホームレスの人たちはギリギリの所で生きている。目の前の事に気を取られてその先を考えない、もしくは考える事ができない人が多い。

人間の身体には治癒力がある。必ずしも薬に頼れと言っているのではない。しかし 病状が悪化していて個人の治癒力を超えている時には薬は大切だ。特に呼吸器系で対応が遅れれば手遅れになる時もあるのだ。

ヘレンは麻薬系の薬物依存者でもあるのだ。最近何度かOD(薬物の摂取が致死量を越す)で運ばれている。生命ギリギリの所まで自分をプッシュする。死ぬちょっと前の最大限の薬の効果を狙うのだ。

シーソーの真ん中でバランスを取っている。少しでも体重を死ぬ側へかけ過ぎるとガッターンと傾く。そんな姿が目に浮かぶ。

処方された薬を飲まない。これも患者の選択だ。無責任な行動とは言えない。ヘレンはそれを選んだのだ。自分で息ができなくなるまで、自分は生きていけるのだと。


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