走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

タスクシェアリング

2017年05月28日 | 仕事
カナダのBC州でNP誕生の構想が練られていた時、医師とのタスクシェア(業務分業)をして医師の負担を減らし、医師不足をスローダウンさせる事が主の目的でした。

シンプルで複雑でない患者をNPが診療し、難しい患者は医師のままで。大学院の教育課程もそれに合わせて作られました。プライマリーケアの基本を2年でぎゅーっと圧縮して学ぶ。複雑な患者を診ないので医師のように卒後の研修期間2年もなく社会に出ます(実習は学生時に500時間以上ありました)。

12年が経ち現状はどうなんでしょうか?

NPが難しい患者を診るのが主流になってきています。理由は2つ。

1) 地域でプライマリーケア(PCP)をしている医師は患者を診た数に対して診療報酬が州から支払われるのに対し、NPはこのシステムがないので NPは個人経営の診療所では働けない (働くことが難)。他の就職先はHAと呼ばれる州の保険機構でサラリーマンとして働く道。HAでは医師が嫌がってやらないポジションがあり、そういう分野にNPを配置するようになった。分野は老人、メンタルヘルス、複数の慢性疾患を持ち合わせた患者などだ。
2) 医師の診療報酬制は患者に5分かけようと20分かけようと料金は変わらないので、質より量を追求することに専念する医師が増えた。それとは対照的にNPはサラリー制なので難しい患者に時間をかけて診療するが出来る。その上難しいと言われる患者と関わるのがNPは得意だと言うことにHA側は気づき出した。

NPの中には学生時代に学んだ事よりも、もっと高度な事をしている現状にストレスを感じ現場を去る人もいれば教育課程を変更するべきだと活動する人、医師のような卒後の研修期間を設けるべきだと主張する人も。もちろん1番の希望はNPも診療報酬制度が出来、就職先が広がること。アソシエーションは政府と交渉を続けています。

私は今の仕事の前に個人経営のクリニックで半年ほど働いていました。最後に行った実習先で気に入られていたので、ここでどうにかNPのポジションを確立したいと奮闘していました。1人の医師が診ていい患者数 (全額診療報酬が支払われる数)は1日50人まで。51-60人は診療報酬が半額になり、61人以上は何人診ても無料になる仕組みがあります。50人を医師と私で分割して、医師が全てを請求する。私は私が診たぶん報酬をもらう。しかし収入はHAのNPに比べ半分以下でした。これをなんとか変えようと政府と交渉したり、ファンディングがどこかにないか模索しましたが答えは出てきませんでした。

それに仕事内容がパターン化されて偏った知識しか使わないようになったことも気になりました。このクリニックでしていたのは妊婦さんのケア、新生児から生後18ヶ月までの検診と予防接種そして婦人科検診が大半の仕事になりました。一般診療も少しはしましたが比にならないほどの量でした。

せっかく広い分野の知識を学んだのに、同じことの繰り返し。複雑な診断課程の難しさに惹かれてNPになったのにと本末転倒な思いに駆られ辞めてHAに戻る事を決意しました。

大学に併設のクリニックに就職した人の話。簡単な患者をNPに診てもらうようにしてから、医師は重い仕事ばかりしている気になり (そりゃそうだ検診や妊婦のケアは殆どの場合異常がないのが常なのでリラックス出来る瞬間でもあるのだ)、NPと医師の間でタスクシェアをするときには軽症、重症だけで分けるべきではない。両方のバランスをが大切だ、と仕事内容が変わって行った。

これらは全て、やってみないとわからない事。バランス、、、大切です。新しい職業、ポジション、内容は刻々と変わる可能性が高い。それに対応できる柔軟性、システムやポリシーをどう駆使するかなどの技量も大切になります。


港にいたゴマアザラシちゃん。自然がいっぱいなカナダ。





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