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ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

浜田市世界こども美術館での9月の月例鑑賞会のレポート②をお届けします(2018,9,8開催)

2018-10-07 22:55:23 | 対話型鑑賞
浜田市世界こども美術館 コレクション展示 「海と日本」
鑑賞作品 「魚」 山本佐香恵(制作年不詳)油彩
ナビゲーター 房野伸枝

 月に一回の「みるみるの会」の定例会は、発足当時から「浜田市世界こども美術館」のコレクション室を会場としてお借りしています。会を重ねるにつれて、鑑賞をしたことのある作品が増えてきました。同じ作品を鑑賞しても、ナビゲーターや鑑賞者が異なれば違う鑑賞になるのが、対話型鑑賞の醍醐味です。今回展示されていた作品は、みるみるメンバーでは鑑賞済みの作品ばかりでしたので、あえてナビゲーターが作品を選ぶことをせず、参加者の方から鑑賞作品を選んでいただき、鑑賞会を行うことにしました。
 今回の作品は鑑賞者に選んでいただきましたが、もしも私が選んだらこの作品は取り上げなかったかもしれません。「魚」と題された油絵は、魚、カニ、エビが緑色のテーブルの上にある静物画です。ぱっと見はテーブルに置かれたモチーフに何らかの物語性やメタファーがあるようには見えません。画家が描きたいモチーフを並べて、ラフな筆致で描いたこの作品で、対話が弾むのかなぁ…と一抹の不安を抱えながらスタートしたのですが、ナビの意に反して対話は途切れることなく続いたのでした!

 鑑賞者はご自身が絵を描かれる男性3名、数回目の女性1名、みるみる会員2名でした。
 今回の鑑賞者の第一声が「静物画は作者の意図がよく反映される。」というものでした。その後もこの言葉の通り、構図、色、などに話題が集中し、挙手が止むことなく対話が続きました。下記は鑑賞者の意見です。

・下の床の線に見える連続した線は、実際よりもかなり歪んでいるが、これは右上に視線を集めさせるためのものではないか。
・遠近法に沿っていない形で描かれていて、テーブルからモチーフがずり落ちそう。それを左に大きく描かれた魚でバランスをとっている。
・テーブルの緑色はその上に置かれているエビなどのモチーフの補色であり、引き立て合っている。
・魚にはピンクや緑など、固有色ではない様々な色が使われているが、それはリアルさというより、他とのバランスをとり、周りの緑色が映り込んでいる様子を表そうとしたのではないか。
・バックを黒くしているが、テーブルや床とのコントラストが強く、その境にv字の形を生じさせ、絶妙にバランスをとっている。
・テーブルの脚が少しだけ描かれているが、この画面で垂直な線はここだけ。ゆがんだモチーフとのバランスをとるために重要なものとなっている。

 この作品がリアルさを追求するよりも、画面のどこに視線を集めたいのか、バランスをとるためにどのような色面や線を意図的に入れているのか、ということが語られました。

<ふりかえりより>
・静物画でこれほど話が弾むということがおもしろかった。
・構成→色彩→モチーフと視点が移り変わり、スムーズに流れた。
・構成が話題になることで「見えるもの」を中心に語っていたが、「生きているものと死んでいるもの」という、読み取りも生まれていた。
・構図や色彩について論理的に構築的な対話を好む人が多かったが、中にはそうではなく、物語性を見出したい人もいる。そのような鑑賞者には「批評よりも鑑賞、ということで、絵そのものの話をもう少しできたらうれしいです」という感想があった。今回は鑑賞者が少人数だったことと、鑑賞の傾向に偏りがあったことが要因であったと思われる。しかし、今回のように異なる価値観が出会うことで、普段の自分の鑑賞のスタイルとは違う見方があることを知るよい機会となったのではないか。

 後から調べてみたら、この魚は「マトウダイ(バトウ)」という山陰でよく採れて食される島根ではおなじみのものだということがわかりました。そこから「この地域の海の幸」という話題になる可能性もあったのですが、今回は構成上の話題で盛り上がり、時間切れとなりました。鑑賞会終了後もさらにこの作品の前で対話が続いていたことからも、小作品であっても話の尽きない作品であり、今回鑑賞することができて本当に良かったと思いました。静物画に込められた作者の視点や仕掛けを読み解くという、私にとっても普段とは違う刺激的な鑑賞となりました。
 鑑賞会に集まってくださった皆様、本当にありがとうございました!

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