ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

ご無沙汰しました

2013-07-22 19:21:02 | 対話型鑑賞
学期末で慌ただしい毎日を送っていたため、ブログの更新がすっかりお留守になっていますした。
やっと、夏休みです。

学期末に校区内の小学校で対話型鑑賞の実践をしましたので、その報告をさせていただきます。
なお、今週末には、京都大学博物館長の大野先生に再び来県いただき、研修会を行うことにしています。そのレポートもまた、お伝えできればと思っていますので、お楽しみに!!

では、報告です。

校区内の小学校で「対話型鑑賞」の実践を行いました。1年生と3年生です。
児童の実践後のアンケート結果は以下のようでした。
【1年生】回答者27名
ア)しっかりえをみましたか                 はい)27名    いいえ)0名
イ)えについてかんがえましたか               はい)26名    いいえ)1名
ウ)はっぴょうできましたか                 はい)20名    いいえ)7名
エ)おともだちのはなしをちゃんとききましたか        はい)26名    いいえ)1名
オ)おともだちのはなしをきいて、また、かんがえましたか   はい)24名    いいえ)3名
カ)このようなかいをまたやりたいですか           はい)24名    いいえ)3名
【3年生】回答者25名
ア)しっかり絵を見ましたか                 はい)25名    いいえ)0名
イ)絵について考えることができましたか           はい)24名    いいえ)1名
ウ)発表できましたか                    はい)20名    いいえ)5名
エ)お友だちの話をちゃんと聞きましたか           はい)25名    いいえ)0名
オ)お友だちの話を聞いて、また、考えることができましたか  はい)24名    いいえ)1名
カ)このような会をまたやりたいですか            はい)25名    いいえ)0名

それぞれ担任の先生から感想が届いているので紹介したいと思います。
【1年生】
 ☆対話型鑑賞を初めてご覧になっての感想をお知らせください。
初め「絵を見て」の発表で子どもたちはいったい何をどう言ったらいいのかわからず、戸惑っていましたが、切り口はどこからでも良いのかということがわかって言えるようになったようでした。対話をしていくうちにどう言ったらよいのかを知って、絵を楽しんで見るようになったと思いました。教室では「友だちの絵(作品)を見て、感じたことを発表しよう」ということはよくしています。その時は課題があって、自分もそれを描き、同一のテーマの中での違いに気づいていきますが、今回のように間口の広い鑑賞法は対話をしていく中で深まっていくものだと感じました。
 ☆児童の様子で気づかれたことを教えてください。
 この時期(入学して3ヶ月)、1年生の子どもたちは、未体験、未経験のことが多く、今日のような授業も新鮮に受けとめられていたようでした。思いはあっても、どう伝えたらよいか、ボキャブラリーの少ない子どもたちにとっては表現がうまくできません。でも、うまくは言えないけれど、このような授業体験ができること、それが楽しいようでした。友だちの発表を聞きながら、自分の思いと比べている子も中にはいましたが、発達段階からみても、まだ自分の思いを言うだけが精一杯という子が多かったのではないかと思います。しかし、ふりかえりのワークシートでは、友だちの思いに触れている子もいて「みて」「ふりかえって」の流れで、今日の授業を体感できたのではないかと思いました。

【3年生】
 ☆対話型鑑賞を初めてご覧になっての感想をお知らせください。
○最初に注意事項を児童に分かりやすく、きちんと挙げていて「ここが肝かな」と思いました。
○目的(めあて)とゴールが分からなかったため、余計なことをしました。
○以前、京都造形大の鑑賞の研修を受け、似たようなものかな?という勝手なイメージを抱いていました。また、どのような目的で、どこに(ゴール)に向かって、どんな力をつけていく鑑賞法なのか教えてもらえたらと思います。(準備、打合せが不十分でご迷惑をおかけしました。ありがとうございました。)
 ☆児童の様子で気づかれたことを教えてください。
 本学級には1名場面緘黙の児童がおり、全員発表や発表をしない子に発表を求めることは避けてきました。しかし、今日の様子を見て、じっくり考える児童や、考えはあるけど発表のタイミングを逃している児童がたくさんいるのだと分かりました。新しい発見でした。
 どうしても小学校には小学生向けの絵(主に友だちの絵)を鑑賞に用いていたが、名画を題材にしても、やり方次第で十分に学習になることが分かりました。
 朝のところで、3年生の子どもに「鑑賞って何ですか?」ときかれました。先生ならどのように答えられますか?もしよろしければお聞かせください。)

 上記の3年生の担任の先生の問いに以下のように答えてみました。
先生もお書きになっていましたが、この鑑賞活動は、京都造形芸術大学の福のり子先生が広めておられる「対話型鑑賞」の実践です。私は、この鑑賞スタイルの提唱を行ったMOMA(ニューヨーク近代美術館)の教育普及部長のフィリップ・ヤノウィン氏のレクチャーを1年間にわたって受講し、「対話型鑑賞」については、一応、普及のライセンスをもらいました。ただ、ライセンスがあっても実践しないと意味がないので、さまざまなカテゴリーでの実践を目ざしています。現在は、神門幼稚園、神門川小学校、神西小学校、河南中学校で園児・児童・生徒を対象に実践させて頂いている状況です。以前には島根大学医学部学生を対象にも行いました。そして、「対話型鑑賞」を教育現場で実践しようと志を同じくする県内の美術教員で「みるみるの会」というのを立ち上げ、月1回、浜田市世界子ども美術館で研修会を行っています。
 では、先生の質問答えたいと思います。

「めあて(目的)とゴール」
○「めあて」は「ゴール」?
 対話型鑑賞のめあては「みる」「考える」「話す」「聞く」です。「よくみて」「考えて」自分の意見を「話し」、仲間の意見を「聞く」活動ができればOKです。仲間の意見を聞くことで、自分の考えが変わる、広がる、深まると、この活動は概ね成功したと言えます。みている作品の美術史的な背景や価値に気づく必要はありません。そこがゴールではありません。また、ゴールはなく、オープン・エンドで終わります。答えは参加者各自の中にあり、その答えも永遠のものではなく、みる仲間、みる年齢が変われば、変化します。答えを考え続けることが求められます。
 しかし、不思議なことに、何も教えなくても、子どもたちは自分の生活経験や知識を駆使して、作品を読み解こうと必死に考えていくと、作品の一般的な価値に近づくような発言が出てきます。そこが、名作と言われるゆえんなのだと感じます。だから、歴史的に淘汰され、現在も作品が世に残っている、いわゆる名作と言われるものをこの活動に使用するのだと思います。

「児童の発言」
○担任の先生と違って、私はクラスの児童の様子を知らないので、緘黙の児童がいたことも分かりませんでしたし、もし、その子が、話せなくても、特に気にしません。発言は、なるべく偏りのないように配慮します。そうしないと、話すのが得意な一部の子の独壇場になってしまうからです。中学生になるとなかなか女子は発言しないので、男子が挙手していても、それを制して、女子を指名して発言させたりします。なぜ、そのようなことを行うのかと言えば、多くの生徒の見方を仲間が共有することで、新たな発見があるからです。
 また、言えなくても、それを良くないことのようにはとらえず、「後で聞くからね。」などと言って、次に回します。また、質問の内容とかみ合わない発言であっても、それまでの対話と結びつけて発言を受容します。ここで、「聞いていることと違う」と発言を否定すると、その子は二度と発言しなくなるかも知れません。それは避けなければならない最大の注意点です。「何を言っても受け入れられる」ことが参加者に一番の安心を与えることになるからです。ここに「正解はない」という対話型鑑賞の理念があります。

「名作の鑑賞」
○作品を選べば、小学生でも名作の鑑賞は可能だと思います。現に、幼稚園でも実践していますが、十分に話しますし、みえているものについて考え、語ることができますから、小学生でも実践して欲しいと思います。ただ、注意するのは作品で、どんな作品で実践するのかは重要です。興味があれば、聞いてください。どんな作品がこの鑑賞活動で有効なものなのかを紹介できます。

「鑑賞」とは?
○小学生の「鑑賞って何ですか?」の問いかけに答えるのはなかなか難しいですが、強いて言えば「美術作品を味わうことを鑑賞と言います。でも、食べる訳じゃないから、味わうってどういうことかと思うよね。それは、みて、どんなことを思うか、それをみんなで話し合う中で、その作品について考える。そういう活動のことを鑑賞って言うんだよ。」くらいの答えで、3年生ならわかりますかね?

○大事なことは「好きにみて良い」と言うことです。「このようにみなくてはいけない。」などという美術評論家や美術史家の評価や論評を鵜呑みにするのではなく、自分の目でみて、考える、自由に発想を巡らすことが大事だと思います。そのような態度を養えば、将来にわたって美術を愛好し、美術館に足を向ける日本人を育てることができると思います。それが、肝心だと思います。だからこそ「対話型鑑賞」が有効だと思います。

最後に
○「対話型鑑賞」の実践のために学級を提供してくださいましてありがとうございました。事前の打ち合わせもなく突入しましたが、児童はしっかり考えていたと思います。普段の授業形態とは異なっていましたし、指導者も知らない中学校の先生と言うことで緊張もしたと思います。また、「何を、どう答えたらいいのか?」にも不安があったと思います。しかし、時間を経るにつれ、様子が分かると発言が活発になっていったと思います。「何をいっても良い」という風土を早く感じさせることができれば、発言は活発になります。授業者が無の状態で受容する姿勢を持てれば、会話はうまく進んでいくと思います。
○今回の作品はメアリー・カサットというアメリカ人の女性の画家の作品で、中央で本を読んでいたのが画家自身です。周りにいたのはカサット夫人の孫たちです。カサットは印象派の影響を強く受けています。当時、女性が画家を志すことは容易ではありませんでしたが、裕福な家に生まれたカサットはフランスに留学し、当時はまだ世に認められていなかった印象派の画家たちと交流し、自身もそのような作品を多く残しています。この絵も窓際で孫たちに囲まれて本を読んで聞かせている所を優しい色使いで、光に溢れた印象派らしい作品になっていると思います。そして、なぜだか、日本人の子どもは、あの大きな窓を汽車の窓と思うようです。日本の家屋にあのような大きな窓がないからではないかと私は考えています。

 以上、質問の答えになっているでしょうか。

 これが、6月28日に小学校で実践し、その後、児童へのアンケートの結果と担任の先生からの感想です。児童がこの鑑賞を楽しいと感じ、またやりたいと思っていることをうれしく思います。正解を求める他教科の授業の中にあって、自由な発想で発言でき、友だちの意見にも刺激を受けることのできるこの鑑賞活動が、授業スタイルをも変えうる可能性を秘めていることに教師の皆さんが気づいてくださり、「教える」から「学ぶ」へ学習スタイルがシフトされていけば、新しい学習指導要領の目ざすものが実現されるのではないでしょうか?
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1 コメント

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誰でも楽しめますね (fusap)
2013-07-23 21:07:48
あらゆる年代で、対話型鑑賞を実践しておられるのがスゴイです。特に幼稚園生~小学校低学年の幼い子供との実践が、とても刺激的です。ほんの数年の経験をフル活用して、作品を精一杯解釈、というか、楽しみながら味わっている様子は感動的です。その内容が、何十年分もの経験のある大人と遜色なかったりします。そこが、対話型鑑賞ならではですよね~。

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