自民党にはタカ派の清和会とハト派の宏池会という二つの派閥がある。2000年までハト派の宏池会(現岸田派)と経世会(旧竹下派)が主流派だった。両派は経済成長を追求しその果実を国民に広く分配する政治を重視してきた。その結果、日本は「一億総中流」と呼ばれる貧富の格差が小さい社会になった。
ところが、2001年、タカ派の清和会に属する小泉純一郎氏が大きく方向転換を行った。規制緩和を推進し「強い者がより豊かになる」競争主義を加速させた。その結果、貧富の格差が急拡大した。2009年行き過ぎた新自由主義政策への反発から政権交代が起きた。しかし、民主党の政治は国民を失望させる結果に終わった。
小泉氏の政策は安倍氏に引き継がれた。「アベノミクス」の下で株価は上昇し、大企業や富裕層が潤う一方、労働者の実質賃金は上がらず、貧富の格差はさらに拡大した。
下のグラフを見ればトリクルダウンは起きておらず、アベノミクスなるものが庶民目線で見れば完全に失敗であったことがわかる。
岸田氏は宏池会会長である。公約で「小泉政権以来の新自由主義的な政策を転換する」と述べ首相に選ばれた。野党に多くを期待できない中、自民党内における疑似政権交代ともいえる。岸田首相には宏池会の精神を生かし、行き過ぎた競争政策の是正と格差是正に取り組んでもらいたい。今朝の新聞を見ていたら「分配なくして成長なし」の見出しが目についた。
また、「1億円の壁」という金融所得課税について考えてみる必要があるとも述べている。富裕層は株の売却益や配当による所得が多い。しかし、こうした金融所得には累進課税(最高税率45%)は適用されず、一律20%どまりである。だから、所得が1億円を境に所得税の負担率が下がっていく。
多くの国民はこの事実を知らない。都合の悪い情報は隠される傾向がある。20年間続いた「強い者がより豊かになる」政策を転換し、日本社会に「分厚い中間層」を再び呼び戻してほしい。岸田内閣の手腕に期待したい。