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南英世の 「くろねこ日記」

法曹一元化

 
 司法試験に合格すると、弁護士、検察官、裁判官のいずれかになることができる。一般に、裁判官は司法試験及び司法研修所の卒業試験の成績優秀者の中からしか採用されないといわれる。

裁判官に採用されると、最初の10年間は「判事補」と呼ばれ、単独の裁判を行うことはできない。いわば裁判官の見習い期間である。3人の合議制において、左陪席(裁判官になって5年以内)や右陪席(裁判官になって10年以内)を務める。任官から10年が経過すると判事補から判事に昇格し、ようやく一人前の判事と認められ、年収も1000万円を超える。

ちなみに「左」「右」というのはひな壇に座っている裁判長から見て「左」「右」である。お見合い相手が右陪席だと聞いたある女性が、その人の顔を見たくて密かに法廷に行き、傍聴席から見て右側にいる人を右陪席だと勘違いして、「こんな老けた人いやだー」と言ったという笑い話がある。

3人の合議制の場合、判決文を最初に起案するのは若手の左陪席である。それを右陪席が修正し、最後に裁判長が手を入れる。左陪席に最初に起案させるのは若手を一人前の裁判官に育てるためである。いい右陪席がとれるかどうかで、裁判長の負担はずいぶん違ってくるという。

裁判官の出世レースは厳しい。中には59歳になってようやく右陪席から裁判長に昇格した人もいる。最高裁は人事権をてこに裁判官(=判決内容)をコントロールしており、自衛隊や原発など、国策をめぐる裁判で国の意向と異なる判決を書くと出世コースから外される。だから、原発停止を認める判決を書くのは「定年直前」の地裁の裁判官が多い。

ところで、アメリカの裁判官システムは日本とは異なる。最初から裁判官として採用するのではなく、弁護士として実務経験を積んだ者が裁判官、検察官となる。こうした制度は法曹一元化と呼ばれる。

もし日本にも法曹一元化を実現できれば、閉鎖されたピラミッド組織の裁判官社会に風穴を開けることができる。また「最高裁の顔色をうかがいながら判決文を書く」という現状を改めることも期待できる。法曹一元化は弁護士会が強く希望しており、2000年には日弁連が法曹一元化に向けての提言も行っている。

しかし、今も法曹一元制度は実現していない。最高裁が「子飼い」の裁判官を育成することにこだわり、強く抵抗したからである。また、司法試験の合格者を年間500人から3000人に増やしたことも法曹一元化を難しいものにした。弁護士の質が問題とされたからである。法曹一元化をめぐる最高裁と弁護士会の対立は当分続きそうである。
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