荻上直子監督の「かもめ食堂」と「めがね」は、小林聡美やもたいまさこ等の俳優あってこその脚本で
俳優のリアリティーとロケ地の融合というか、ストーリーよりも個々の感覚を感じることができる映画だったように思う。
小学生のトモは母親と二人で暮らしていたが、母親の育児放棄のため叔父マキオの家に一時的に住むことになる。
そこで叔父の同居人であるトランスジェンダーのリンコさんと出会い、リンコさんの優しさで、今までいえなかった自分の気持ちを少しづつ出すことができるようになる。
トモの学校でのいじめや、同級生の男子の母親の心無い言葉、その男子の自殺未遂などを乗り越え、三人の暮らしが穏やかに過ぎていくかに見えた時、トモの母親が突然帰ってくる。
トモを引き取り育てたいというリンコとマキオの気持ちは、本当に家族の愛情に満ちたものからだったが、トモにとって母親はやはり一人。どんなにつらくあたっても、かけがえのないものなのは母親にとっても同じだった。最後はそれぞれの暮らしに戻っていく。
リンコ役の生田斗真はやはり女性には見えないけれど、それもリアリティーがあるし、最初にトモがリンコに抱く違和感も、同級生の母親の感情も、あってはならないけれどよくある反応である。
マキオ役の桐谷健太はいつも熱い役や怖い役をするけれど、今回は穏やかでおおらかにみんなを包み込む優しい役をしていて、とてもよかった。
この映画には芯からの悪い人間は出てこない。みんな少しづつ違っているけれど、それを受け入れようと努力している人たち。
トモの母親さえ自分の気持ちをどうしていいかわからずに悩んでいただけなのだから・・・
その真ん中にリンコさんという存在がある。女性というよりも人間として包容力があるのは、自分が苦しんだ時間がたくさんある分人にやさしくなろうとしているからだとわかる。
この映画の中で、トモが母親を見つけて後を追って、結局見つからずにアパートで一人泣くシーンが、一番つらかった。哀しい時、人はひとりであんな風に泣くのを知っている。
取り留めなく書いてしまったが、この作品は絶対見る価値がある。
それは脚本も、キャストもすべてが素晴らしいということ。そして子役の柿原りんか、込江海翔の二人の目がまっすぐできれいだったということ。