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アメリカ大統領選:オバマとクリントンの提言する移民政策

2008年05月23日 | アメリカの移民政策
ますますヒートアップするアメリカ大統領選。民主党が優勢とされるなか、その注目はオバマとクリントン候補に集まる。現在オバマの勝利が優勢となり、それが確実視されはじめているが、そのひとつの理由として、彼の掲げる移民政策がより多くの人に支持されているからではないかと思う。

「移民の国」であるアメリカでは、多くの投票人にとって候補者の提言する移民政策が最重要課題となるといってもおかしくない。移民政策と一口にいっても。さまざまな利権をもった人が多様な期待をするわけであるが、たとえば↓がその例。特筆すべき点は投票行動が移民集団で同一でないこと。ここで移民というのはとく比較的直近でアメリカにわたってきた移民をさすが(基本的にアメリカ人はみんな移民ですから)、その中でも利害が対立するのだ。候補者はこういうところも頭にいれて支持者を集めなければならない。

タイプ1.雇用主: 柔軟に外国人を雇いたい。適当な労働者が見つからない場合、不法労働者をやっとってもいたしかたないのではないか。高度技術を持った移民は迅速に、そして長期にわたって雇用できるシステムを希望する。

タイプ2 アメリカに帰化した移民1: 同胞が確実に迅速に低コストでアメリカに帰化できるシステム、不法で滞在する同胞を合法化する策、そして柔軟に母国より家族呼び寄せができる(難民・移民カテゴリー双方)移民政策を希望。

タイプ3 アメリカに帰化した移民2:不法移民がたくさん来ると自分たちの仕事が脅かされる。賃金も下がる。国境警備を増強し、不法移民を取り締まってほしい。合法移民も同様に一定の数だけ受け入れればいい。

タイプ4 その他: 外国人テロリストからアメリカを守るため、厳しい態度で移民政策を策定・履行してほしい。

ブッシュJr.を再選した前回の選挙では9.11の影響で移民政策議論はテロ対策問題に成り代わり、極度に制限的な移民政策を作り上げるシナリオが支持された (上の項目4の議論が優先した)。これによって特定地域(イスラム圏)からの移民や難民が極度に制限され、国境を隔てる壁が増築・増強され、移民を統括する管轄機関もINS(Immigration and Naturalization Service)からDHS (Department of Homeland Security)に変わった。その名のとおり、移民政策は国家安全対策の下におかれることとなった。

各候補者の提言する移民政策をみていく。


オバマ候補は移民問題を経済の視点から議論する傾向にあり、移民の経済的貢献を重視する。不法移民の合法化についても積極派。ただオバマ移民政策の堅いとことはそこで終わらないこと。不法移民対策として、国境警備の強化、不法移民を雇う雇用主への罰則強化も具体的に提言し、アメとムチの移民政策を打ち出している。これは、上にあげた、タイプ2,3,4カテゴリーの選挙人の支持を獲得することができる。唯一取り込めない支持基盤は雇用主であるのだがこれも心配なさそうだ。なぜかというと、移民政策の一環としての雇用主罰則はどこの国でも機能しない政策の代表格だからだ。なぜ機能しないかというとそれは現場レベルでの履行が難しいからである。労働基準監督署は常に人不足で雇用主の抜き打ち検査を行えるだけの余裕がないこと、不法でも合法で雇える人がいないと証明できればその罪が酌量されるシステムを導入している州が多いこと、不法移民を基準に満たす待遇で雇っている雇用主の場合その行為を罰することで多くの移民家族が収入を失い、そのサポートに税金を投入しなければならないこと、などなど問題が多い。クリントンのでかたにもよるが、オバマはこの政策で移民政策に最大の関心を示す投票人の心をつかむチャンスがある。

一方クリントン候補は、自らの掲げる移民政策を主に「家族の尊重」を核とした構図でまとめている。もともと子供の権利などに力を注いできたクリントン。9.11以来、多くの家族がDHSの執行する強制退去によって引き裂かれてしまうことに異議を唱えてきた。クリントンの掲げる移民政策の骨子は、家族統合の保障(家族を切り離す強制退去の禁止)、移民の子供の教育や医療の拡充などとなっている。もちろんハイテク技術を利用した国境警備の強化なども唱っているが具体策が見えにくい。もうアメリカの入国管理政策は世界基準でみても十分ハイテク化しているからだ。オバマのアメとムチに対比させるのなら、アメとアメの政策のように見うけられる。結果、クリントンは持論の移民政策によって↑の集団のうちタイプ2の集団からしか支持がえられないのである。雇用主からは逆に反発があるかもしれない。というのも彼女は農業に従事する季節出稼ぎ労働者プログラムが搾取が顕著であるとして反対しているからだ。

民主党は元来移民政策に寛大で、比較的近年にアメリカ国民となった移民を支持基盤にしてきた。それは今回のクリントンのようなアメ・アメ戦略で獲得してきた支持基盤(2)に代表される集団なのかもしれない。しかしその移民集団もいまや分裂し、それぞれが個別の利害を主張しはじめている。それに加えて移民政策をテロ対策とセットにして考えるグループが台頭してきたことなどからも、選挙において移民政策が影響する集団の構図が大きくが変化したといえよう。オバマ陣営はこの変化を捉え、それに十分対応した包括的な移民政策を打ち出したともいえる。それが現在、レースで優位的地位を保っていることにも少なからず貢献しているのではないだろうか。

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