世界の移民政策、移住労働と日本

日本型移民政策とは何か?世界の移民政策に関するニュース、エッセイ、本の紹介など

TICAD と移民?

2008年05月26日 | ニュース・新聞記事
TICADアフリカ開発会議がいよいよ横浜ではじまります。アフリカ、とくにサハラ以南アフリカはミレニアムディベロップメントゴール(MDG)の達成が非常に危ぶまれ、さらに2000年以降、各指標が悪化している国もすくなくありません。会議も大切ですがその後のドナー国の弛まないコミットメントが求められています。

さて、このTICADから話を進めて、アフリカ開発援助とこのブログのテーマである移民。ピンとこないかもしれませんがこの二つは実は切ってもきれない関係にあるのです。なぜなら、経済の低迷するアフリカからは大量の労働者がヨーロッパをはじめとした先進諸国に流れており、アフリカ諸国に流れる労働者送金が莫大な額になっていることが最近の研究によって明らかにされています。これがアフリカ経済に正負の大きな影響をあたえているのです。また医者をはじめとした国を支えていくべき高度技術者の流出が続く中、こうした頭脳流出がアフリカの低迷を助長しているとも考えられています。

途上国の開発を考えるにあたり移民政策をも守備範囲にして取り組もうというドナー国のアイディアは比較的新しいのですが、とくにヨーロッパで最近より積極的に取り組まれているアプローチです。Center for Global Development (CGD)は先進国の毎年発展途上国開発援助貢献度をランキングして公開していますが、この流れをうけ、指標作成には援助金総額だけでなく、移民・難民の受け入れもひとつの重要な指標として組み込んでいます。移民や難民の受け入れが低い日本はそういう意味で比較論的には不利な立場におかれます。(たとえばアメリカは毎年約7万人の難民の第三国定住受け入れをしています)。

CGDが直近で行った先進国のアフリカ開発援助への貢献度調査では、日本のアフリカ開発援助への貢献度は21先進国カのうち最低の21位。国民一人当たりの援助額が少ないという決定的理由のほかにも、日本がアフリカの難民の再定住を受けれていなかったり、アフリカからの労働移民をうけいれていないこと、がランキングを低くするひとつの主要な原因となっています。

ではなぜCGDは積極的な難民・移民受け入れが開発援助の貢献度を測るに際して重要な観点であると考えたのでしょうか。移民と開発の関係の理解促進のために非常に単純化して考えると現在二つの対立する議論があります。

議論1:移民はの経済開発の失敗による副産物、拡大すると開発を停滞させる恐れがある。開発途上国の経済が思うように成長しない→人々が雇用を求めて外国に出る→技術労働者の流出の場合途上国で頭脳流出が起きる→人口減→さらに国の発展の可能性が薄れる→単純労働者の海外出稼ぎの受け皿が限られていることから不法移民が増大する→汚職の拡大、法治国家から逸脱などなど

議論2:移民は途上国の経済発展や貧困削減に有効である。国内における高い失業率→海外出稼ぎにより賃金確保→労働者送金によりまずは出稼ぎ家庭は貧困からの脱出→送り出し国の国際収支の安定→送金の増加により投資増加に期待。出稼ぎにより労働者の技術の向上や経済活動に必要なネットワーク構築も期待される。

CGDは上の議論の両方を加味し、移民の中でも高度技術者ではなく、非熟練労働者の受け入れを積極的におこなっている国(つまり家族統合や単純労働者の受け入れをしているか?)をより評価するという形で貢献度をはかっているようです。ただ議論はそう単純ではありません。移民が開発に有効だとしても、移民によって恩恵を受けるのは途上国のマクロ経済か、裕福層の国民か、それとも貧困層か?そこで議論が分かれるからです。

とくに重要なのは出稼ぎと貧困削減に関する議論です。そのポイントとして挙げられるのは、出稼ぎは単に消費活動を支えるため、現状を維持のために必要な活動なのか、それともすこしでも現状を持続的に改善する役割を果たしているのか、出稼ぎは労働者送り出し国が経済発展のスタートラインに立つための準備段階として必要不可欠な活動であるのか、また途上国にすでに存在する貧富の差をさらに拡大させるのでは、といったものがあげられます。海外出稼ぎにはある一定の準備金(旅券作成、高額の斡旋量、航空運賃など)が必要で、いわゆる超貧困層(ウルトラプア)は海外出稼ぎの恩恵に浴すことができないといわれており、他のグループが海外出稼ぎをし、収入を得ることで、超貧困層がさらにマージナライズされてしまう危険があることも指摘されています。これらの議論への答えを出すには更なるデータの収集と研究が必要とされています。


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