22日(日)、大阪大学中之島センターセンターで開催された、第130回懐徳堂秋期講座の①、「祭礼ににみこまれる行進曲ー近代京都の幕末鼓笛隊ー」を聞きに行きました。「幕末鼓笛隊‐土着化する西洋音楽 (阪大リーブル037) 」の著者・静岡文化芸術大学准教授・奥中康人さんの講演です。
その概要は当日いただいたレジュメに従うと;
1)日本の西洋音楽(軍楽)導入の経緯
ペリー来航以来、日本は欧米列強に対抗するために西洋式の軍事訓練がなされた。
軍隊における軍楽の役割について過去の絵図などでその説明があり、メロディを
吹く篠笛と,リズムを刻むスネアドラムが軍楽隊として誕生した経緯や、軍楽の
機能や意義についての説明があり、<積極的に西洋音楽を導入したのは、近代的
な軍隊の運用に音楽が不可欠であった>とのこと。
2)生き残った鼓笛隊
その後廃藩置県により鼓笛隊は消滅に向かうが;
・山形県 天童維新軍楽隊保存会(天童藩 天童市)
上山藩鼓笛楽保存会(上山藩 上山市)
・熊本県 西間下町鼓笛隊保存会 (人吉藩 人吉市)
・千葉県 オランダ楽隊 (香取市)
・京都府 山国隊軍楽保存会 (京都市右京区)
などで保存活動がなされている。
3)山国隊
山国隊の発足の歴史と軍楽隊としての凱旋から平安神宮の時代祭の先導をする
までの歴史と、
・篠笛とスネアドラム、パストラム編成の鼓笛隊
・パスドラムの演奏法は、完全にヨーロッパスタイル
・レパートリーは「行進曲」と「礼式」
・幕末維新期の記譜法(楽譜)を現在も使用
・左右の足を揃える行進も厳格に継承
といったその特徴の説明
4)京都市における幕末鼓笛隊の展開
やがて、平安神宮第8社(朱雀地区)の維新勤王隊が創設され、時代祭での役割
はそちらに継承された。
また北海道、札幌市の北海道神宮、と、岡山県、岡山市の宗忠神社にも伝播した、
京都市内においても時代祭の鼓笛隊を模倣した次のような幕末鼓笛隊が誕生した。
・大正~昭和 元祇園梛神社(中京区)
・昭和初期 熊野神社 (左京区)
・昭和30年代 晴明神社 (上京区)
・昭和30年代 藤森神社 (伏見区)
・昭和30年代末 西院春日神社 (右京区)
この様に 官軍⇒山国隊⇒京都市内の各神社など と、地域社会の祭礼と結びついて今も生き残っている。その例を取材された史料やビデオを見せていただけた。
講師の奥中さんは、<これらの神社には、戊辰戦争や明治維新などとの特別な由縁はない。しかし、鼓笛隊が神輿を先導する習慣が定着している。その風景は、もはや、「身体の規律」という軍隊的なコンセンサスから離れ、どちらかというと稚児行列の一部であるかのようにも見え、「行進」もうやむやになるか、あるいは独特の歩行スタイルに変容している。こうした事例は、それまでの伝統を壊すものとして否定的に語られやすいが、西洋近代というグローバリゼーションが、従来の伝統的な慣習に取り込まれ(のみこまれ)、なし崩し的に新たな文化を生成してゆく柔軟な事例として、また歴史の重要性をそのまま示す事例として、肯定的に評価したほうがよいのではないかと、私は考えている。>と分析・評価して結論付けられている。
上では「のみこまれ」と言っておられるが、「のみこんだ」とも言えると述べておられたのには、しかり、と思った。
当日現在のそれぞれの鼓笛隊の演奏や行進の姿を収められたビデオを見せていただいたのは大変参考になった。
・山国隊の鼓笛隊は、錦旗や隊旗=指揮者=小太鼓=笛=大太鼓=鉄砲隊、という隊列だが、笛=小太鼓 という隊列になっているのが多かった
・小太鼓のバチの持ち方は、山国隊は、右=アップハンド、左=アンダーハンド、であるが、その逆のものもあり、両方アップハンドのさえあった。
・山国隊では小太鼓は、ここでは図式出来ないが、パランホロロン、とか、エンテー、エンテー、と独特の楽譜で習ったのだが、朱雀地区の勤王隊へは形は少し違うがほぼ同じ形式のものが使われていて、その譜面を初めて見せていただいた。(この、エン、テー、はオランダ語の1,2です)
・その意味で小太鼓の方は各隊ほぼ同じ様に伝播していると思うが、笛のメロディーは各隊微妙に、また相当に違っていた。
・さっぽろ祭での北海道神社の鼓笛隊は、今風の行進曲を彷彿とさせる見事な演奏行進だった。
・史料では、山国隊が時代祭に参加した時の名簿を見せてもらったが、我がひいお爺ちゃんや斎さんなどのそうそうたる名前が出ていた。小太鼓の楽譜を3つ見せていただいたのは感謝。その他、様々な絵図や動画をプリゼンしていただいたが、さすがきちんと調査されているなぁ、と感心し、参考になった。
今回は書物では得られない動画や史料も見せていただけ、講演を聞いた価値があった。
最後の質問時に、山国隊の軍楽保存が原型を保存している、と地元では聞いているが、とお聞きしたら、「そのとおり、その保存には国が補助すべき価値があるが、自腹で地道に保存活動をされている」と評価する答えをいただいた。
若かりし頃は小太鼓や笛の演奏を習い、行進に参加していたものとして嬉しい返事であった。この「昔のままの姿」を保存する貴重な山国隊軍楽保存については、戦後一時鼓笛隊の行進も途絶えたことがあるが、それを復活し、現在も保存活動に努力されている関係者には、感謝の気持とエールを送りたい気持である。
なお、奥中康人さんは;
幕末鼓笛隊‐土着化する西洋音楽 (阪大リーブル037)
和洋折衷音楽史
等を著しておられます。ご一読をお薦めしたい。
また youTube には、お祭りでの鼓笛隊の行進の動画が数多くの投稿がありますので、維新勤王隊や神社の名をキーワードに入れて検索してみられてはいかがでしょう。
山国隊軍楽保存会については、このブログで 2007-2-1 と 2-7 にも少し触れました。
今でもブラバンや鼓笛隊はお祭りでは活躍しますよね。
山国隊軍楽保存会の人にも報告しておきます。自分の活動の意義を正しく知ることは励みになると思います。