北山・京の鄙の里・田舎暮らし

北山、京の北に拡がる山々、その山里での生活を楽しんでいます。

★なぜ日本は、中国を挑発してはいけないのか?━北野 幸伯さん

2015-05-20 06:41:37 | 話題
前回5月3日に引き続いて、国際関係アナリスト北野 幸伯さん発行の「ロシア政治経済ジャーナルから記事をの転載させていただきます。

RPE Journal
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ロシア政治経済ジャーナル No.1201  2015/5/18
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安倍総理の歴史的演説で、強固になった日米関係。中国はこれで、尖閣、沖縄侵略が難しくなりました。しかし、日本は、調子にのって中国批判を強めるべきではありません。

なぜ???

★なぜ日本は、中国を挑発してはいけないのか?

北野です。

安倍総理の米議会演説は、日本にとってメッタにない外交的、戦略的勝利でした。中国は、2012年9月に日本が尖閣を国有化した後、「反日統一戦線」を築くべく奔走してきた。そして「反日統一戦線には、中国、ロシア、韓国プラス【米国】を入れるべきだ!」とし、「日米分断工作」を強力に行ってきた。その結果、2013年12月に安倍総理が靖国を参拝すると、世界的「安倍バッシング」が起こったのです。

そして、「終戦70年」にあたる今年、中国は再びアメリカでの工作を活発化させていた。総理訪米前、「議会演説で、中国、韓国に謝罪しろ!」「慰安婦に謝れ!」などと米政府から圧力がかかり、官邸も困っていた。 しかし、安倍さんの演説で、中国の「日米分断工作」は、ひとまず挫折しました。日本は、AIIBでアメリカを裏切ったイギリスやイスラエルよりも、もっとアメリカに近い存在になった。これが、「戦略的勝利」の意味です。
(●中国、驚愕の対日戦略と、安倍演説の意義詳細は、こちらをご一読ください。)

しかし、一瞬たりとも油断はできません。戦いは、まだはじまったばかりなのですから。今回は、「日本はこれから中国とどう接していくべきなのか?」を考えます。

アメリカはどう動く?二つの戦略

さて、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、韓国、イスラエルなどなどがアメリカを裏切って中国についた「AIIB事件」。アメリカはこれで、「中国の影響力は、ここまで増大していたのか!?」「このままでは、中国に覇権をうばわれる!」「わが国最大の脅威は、中国である!」と悟った。そして、アメリカは、中国への対抗措置をぼちぼちはじめているようです。
(●予想されるアメリカの反撃措置の詳細はこちら

しかし、私たちは、「アメリカの対中戦略には大きく二つあること」を知っておく必要があります。

二つとは?
1、バランシング(直接均衡)
これは、要するにアメリカ自身が「主人公」になって、中国の脅威と戦うのです。
2、バックパッシング(責任転嫁)
これは要するに、「他国と中国を戦わせる」のです。 もっとわかりやすくいえば、「アメリカは、日本と中国を戦わせる」のです。あくまで可能性ですよ。 しかし、実をいうと、どんな国でも「敵国と直接対決するより、他の国に戦わせたほうがいい」と思う。

なぜ?

リアリストの世界的権威ミアシャイマー・シカゴ大学教授は、いいます。<事実、大国はバランシングよりも、バックパッシングの方を好む。なぜなら責任転嫁の方が、一般的に国防を「安上がり」にできるからだ。>(大国政治の悲劇 229p) 「アメリカが直接戦うより、日本に戦わせたほうが安いじゃん」ひどい話ですが、わかります。また、人情とか世論からいっても、わかりやすいです。 たとえば日本人二人が、イスラム国に殺された。これは、とてもショッキングな大事件でした。しかし、他国の人たちもイスラム国につかまって殺されてますよね?そのとき、日本国内のメディアは、ほとんど騒ぎません。ほとんどの人は、「自国の青年たちを戦場に送りたくない」と思う一方で、「他国の青年たちが戦争していること」に無関心。何がいいたいかというと、アメリカだって、中国と直接対決したくない。できれば、中国とケンカしている、ベトナム、フィリピン、日本なんかに戦ってもらって、自分は気楽に過ごしたい。そういうものなのです。

アメリカのこれまでの対中政策は、「バックパッシング」か?

上にも出てきましたが、世界情勢を知るうえで、ぜひとも読んでいただきたい一冊があります。

●大国政治の悲劇 ~ 米中は必ず衝突する
(詳細は→こちら  )再臨の諸葛孔明・奥山真司先生の訳ででています。
(ちなみに、再臨の諸葛孔明・奥山真司先生の無料メルマガはこちら。)大著なので少々高いですが、その価値はおおありです。

さて、この本の中で、ミアシャイマーさんは、「バックパッシング4つの方法」(=つまり他国を利用して敵国と戦わせる方法)について触れています。全部引用すると長くなるので要点だけ。

1、敵国と良い外交関係を結ぶ
つまり、アメリカは中国と良い外交関係を結ぶと。 なぜ? そうすると、日本と中国だけが戦って疲弊。アメリカは、「漁夫の利」を得ることができます。実際、アメリカは今まで、「同盟国日本より中国を重視して見える」ケースがよくありました。もちろん「リベラル米民主党は、もともと親中」とか「米財務省は親中」とか、そういう理由もあるでしょう。しかし、「戦略的に動いていた」とみることもできます。

2、敵国と対立する国とあまり仲良くしない
つまり、敵国である中国と対立する日本とあまり仲良くしない。これも、基本的に1と目的は同じです。日本と中国は戦って疲弊し、アメリカは無傷で残る。オバマさんは、AIIB事件と安倍演説まで、日本に冷たかったですね。「安倍さんを歴史修正主義者と警戒していた」という理由もあると思いますが、「戦略的に距離をおいていた」とみることもできます。

3、自国の軍事力を強化する
たとえばアメリカ軍があまりにも強力である。すると中国は、「アメリカにはかなわんから、とりあえず日本をいじめよう」となるでしょう。実際は、日本もそれほど弱くない。だから中国はいま、「とりあえずベトナムやフィリピンをいじめよう」となっている。

4、敵国と戦う他国をサポートし強化する
つまり、アメリカは、中国と戦わせたい日本、ベトナム、フィリピンなどが強くなるようサポートする。たとえばアメリカは今、ロシアと戦っているウクライナ軍が強くなるようせっせと武器を送っている。 オバマ政権はいままで、1と2の戦略を実行し、「日本と中国をケンカさせ、アメリカが漁夫の利を得る」よう行動していたようにも見えます。しかし、AIIB事件でイギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、イスラエル、韓国などに裏切られて孤立した。それで、いよいよ「バランシング」(直接均衡)に動き出したように見えます。

なぜ日本は、中国を挑発してはいけないのか?

私は、中国の「反日統一戦線」戦略を知った2012年末以降ずっと、「日米関係強化が最重要だ」と書きつづけてきました。安倍総理の米議会演説で、一つの峠は越えたと思っています。 しかし、私たちは「汚い世界」に生きる「大人」。ですから、「アメリカには、日中を戦わせて『漁夫の利』を得たい誘惑がある」ことを常に忘れるべきではありません。

日本が目指すのはあくまで、【アメリカを中心とする中国包囲網形成】です。 日本が反中国の主役になったらいけないのです。

日本が中国と対抗するために、
・アメリカのお墨付きを得て軍事力を強化するのは、「よいこと」です。私たちは、「自分の国を自分で守れる」「軍事的自立」をめざしているのですから。
・インド、オーストラリア、東南アジア諸国、ロシアなどと経済、軍事関係を強化していくのは「よいこと」です。 しかし、ウクライナが全世界でロシアを非難しているように、韓国が全世界で日本を非難しているように、日本が全世界で中国を非難するのは「悪いこと」です。なぜかというと、それで日本は「対中戦の主人公」になってしまう。つまり、「日中戦争の可能性」を自分で増大させる結果になる。

だから日本は、中国とは、つかず離れずの関係を保ち、ケンカにならないよう注意しなければなりません。別に「仲良くしろ」とはいいません。安倍さんは、中国を訪問する必要はないと思います。ただ、「挑発するな」「不要な悪口はいうな」「ケンカするな」といっているのです。そういうのは、あくまでアメリカにやってもらうのです。

大国に利用された国々の悲劇

私は、なぜこんな話をするのでしょうか?「利用された国」の例があるからです。

たとえばジョージア(旧名グルジア)
この国では03年に革命(バラ革命)が起こり、アメリカの傀儡サアカシビリ政権ができました。ジョージア(旧名グルジア)の反ロシアはどんどんヒートアップ。そして、08年8月、ロシアーグルジア戦争が勃発しました。もちろん、小国ジョージア(旧名グルジア)は完敗。この戦争後、ロシアは、ジョージア(旧名グルジア)からの独立を目指す、南オセチア、アプハジアの独立を承認します。ジョージア(旧名グルジア)は、アメリカに利用された結果、二つの自治体を失ったのです。

たとえばウクライナ
ウクライナは、2014年2月の革命で、親ロシア・ヤヌコビッチ大統領が失脚。選挙を経て、反ロシアのポロシェンコが大統領になりました。ポロシェンコは、ロシアの支援を受ける東部ドネツク、ルガンスクとの戦争を続行。この期間、バイデンさんをはじめとする米政界の大物が頻繁にキエフを訪れ、ポロシェンコを指導していました。要するに、ウクライナもアメリカの「駒」として利用されている。その後どうなったか?「AIIB事件」で、アメリカ最大の脅威は、ロシアでなく中国になった。それで、ケリー国務長官がプーチンと会い、和解に動き出しました。ウクライナは、今アメリカと欧州から捨てられようとしています。そして、東部の領土も、「事実上」失うことになるでしょう。

もう一国。 今度は、中国に利用されている国。そう、韓国です。
韓国はここ数年、狂ったように反日プロパガンダをしています。実をいうとこれ、「中国の戦略に乗ったから」なのです。結果、韓国は、日本を完全に敵にまわしてしまった。そればかりか、アメリカの信頼を完全に失っています。 私たちは、ジョージア(旧名グルジア)、ウクライナ、韓国など、大国に利用されてひどい目にあった国々から教訓を得るべきです。 繰り返します。日本は、アメリカとの関係をますます強化していくべきです。日本は、インド、オーストラリア、東南アジア諸国、ロシアなどとの経済、軍事関係をますます強化していくべきです。日本は、アメリカのお墨つきを得て軍事力を強化し、軍事的自立にむかっていくべきです。 しかし、日本は中国を挑発するべきではありません。「(日米主導の)アジア開発銀行(ADB)と、(中国主導の)アジアインフラ投資銀行(AIIB)、協力して、アジアの国々を豊かにしていきましょう!」などと、「キレイごと」に終始するべきです。

あくまでも目指すのは、【アメリカを中心とする中国包囲網】の形成なのです。

今日の格言

「はしごを外される可能性を、一時も忘れるな」


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メルマガの内容には一切手を加えていません。ただ;
・メルマガの記事は改行が多くありそのまま転載すると行数が多くなりすぎますので私が編集させていただきました。 ・太文字、斜体やリンクの貼り方なども私が編集しました。
・北野 幸伯さんのHPは→こちら です。
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日本のおかれた現状と今後を考えるに有益な視点を与えてもらいました。皆さんにも読んでいただきたく転載させていただきました。



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2 コメント

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賛成です! (硯水亭歳時記)
2015-05-24 15:18:00
    Mfujinoさま

 私も北野氏の意見に賛成です。今回国連で行われたNTP再検討会議で、日本は極めて高度な変化球を投げました。各国の首脳が広島・長崎を訪問すべきだと。8日の文言には入っていましたが、中国の横槍で、削除されました。何故なら慣例として、NPTでは固有名詞を使わないからです。中国の軍縮大使は、本国からの猛烈な圧力で、狂ったようにガンガン日本叩きをしました。中国の報道官は「それでは日本の指導者は南京大虐殺記念館を観るのか」と。この反論は世界中の笑いものになっていますが、まるで敗戦国になってしまうではないかと。日本は侵略者であり、広島・長崎は当たり前だと言わんばかりだったのでしょう。捏造された南京問題と核軍縮問題は関係あるでしょうか。まぁまぁそんなこんなで30カ国のうち、日本案に賛成したのは26か国でした。広島・長崎の固有名詞は省かれましたが、実質的内容でのこの戦いでは日本は圧倒的勝利でした。実質的に各国からの賛同を得たのです。世界中が知っています。
 また日本で今回開かれた「島サミット」では、各国から大賛意を得られ、全会一致で「法の秩序」が謳われました。日本は中国を各国と共同して封じ込めまたのです。更に総理はアジア開発銀行(ADB)に、13兆円の拠出を決めました。そして徐々にAIIBの本性が現れてきました。中国の覇権主義が露骨になってきたようです。あんなに貧富の差があって、どこが共産主義でしょうか。呆れるばかりです。
 アメリカ追随は如何なものかと思いますが、取捨選択し、Yes.Noのメリハリをつけて、強靭な日米関係を築いて行くべきでしょう。
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日本の置かれた状況を冷徹に (mfujino)
2015-05-25 12:54:23
硯水亭さん、NPTでに日本外交については私も同じ考えを持っています。被爆地を訪れるべきとの文言が入らないと日本外交の敗北だとの声を聞きますが、問題をあぶりだし、中国の主張等をあぶり出し、日本は多くの賛同を得たわけですしね。
また最近の南沙諸島での中国の覇権主義丸出し、我儘な動きに対して「島サミット」を持って来るなど、日本外交なかなかやるじゃんというところです。AIIBについてもよくぞ不参加を決めてくれたものです。乗り遅れるなと多くの新聞が主張しているようですが、彼らはちゃんと取材しているのか不思議な気がしてしまいます。あんな中国のご都合主義丸出しの企画に乗るほど日本は馬鹿でないことが分かり一安心というところでしょうか。
対米従属という見方で非難する意見も聞きますが、私はそうは思いません。仰るように取捨選択し、日本の国益になることはアメリカを利用すべきです。集団安全保障と言いアメリカを活用しなければなりません。心配はアメリカは尖閣有事の時に本当に助けにきてくれるのでしょうか。はしごをはずされないかの心配の一つです。アメリカはアメリカの国益を第一に判断しますもんね。その時に駆けつけてくれるような友好関係は崩してはいけません。
もう一つの視点はロシアをどう見方につけるかです。今は中ロ関係が良いような雰囲気を醸し出しているようにみえますが、これは中ロそれぞれが今はそうした方が得だからという打算であり、両国が仲がいいからでは無いと思っています。極東ロシアの発展に日本は力になり得ますし、それは日本にとってもいいことです。。地政学的に我が国にとってのロシアの重要性は益々増しています。
あれだけ償いをしてきた我が国を孤立させようと騒ぎ立てている乞食根性の中韓とは距離をおき、東南アジアや大洋州の国を援助し、共に発展する平和外交に注力すべきでしょう。
経済力をつけてきた我儘国家、中国、一党独裁の汚職汚染国家は頭痛の種ですね。
NPTでの日本外交の紹介をありがとうございました。
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