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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:破

2009-06-28 22:52:31 | 映画(あ)
評価点:79点/2009年/日本

原作・総監督:庵野秀明

主題歌:宇多田ヒカル

すべてを壊す衝撃の“破”。

エヴァンゲリオン仮設5号機を所有しているドイツで、使徒が出現、緊急処置として仮設5号機を出動させて殲滅した。
しかし、仮設5号機もまた失われてしまう。
特務機関ネルフの加持リョウジ(声:山寺宏一)は、ゲンドウ(声:立木文彦)の元へ2号機とともに届け物をする。
2号機のパイロット式波・アスカ・ラングレー(声:宮村優子)は、日本の環境に慣れられずにいた。
そんな折、再び使徒が現れる。
大気圏上空にあるその第8使徒は、第三新東京に向けて落下しようとしていた。
零号機、初号機、2号機がそれぞれ同時展開することで、使徒を受け止める作戦をミサト(声:三石琴乃)は提案する。
未だなじめないアスカは一人でかまわないと言い張るが……。

新劇場版としてよみがえったエヴァンゲリオンの第2弾。
「序・破・急」の「破」にあたる。
テレビ版との比較をあえてするならば、第七話から一九話ほどにあたる。
ほとんどストーリーはメディアにも明かされていなかったようだが、新キャラ・マリが登場し、仮設5号機のフィギュアを発売するなど、これまでのテレビ版の総編集という印象は脱却している。
多くのファンをもつシリーズがどのように変貌するのか、ファンの期待は高まる一方である。

前回
に引き続き、今回も公開初日に見に行くことができた。
今回はさすがに指定席なのに長蛇の列ができる、ということはなかったが、グッズ売り場は騒然としていた。
夕方の回を見たが、見終わるとほとんどのグッズが売り切れ状態だったのが人気と期待の高さを示している。
(ちなみに無事パンフレットは購入できました。
例によってやっぱりあんまり読んでいませんが。)

だが、今回は、作品の大幅な改編を行ったことを考えれば、グッズを買わせるほどには完成度が高かったということなのかもしれない。

▼以下はネタバレあり▼

前回は「総集編」というより長大な「予告編」である、と書いた
そのため、点数はつけずにおいた。
ほとんどがテレビ編と共通していたからだ。
この映画を見る前に、もう一度おさらいしてみたが、その評価を変えるつもりはない。
だが、今回は点数をつけた。
79点だ。
この数値には全く客観性はないにしても、少なくとも独立性ある一本の映画として描こうとしているスタンスは、誰もが感じるところだろう。
その意味で、僕は今回点数をつけたのだ。

物語は、綾波レイ(声:林原めぐみ)が碇シンジ(声:緒方恵美)とゲンドウとを和解させるためにお食事会を企画する、という出来事が中心となっている。
その物語を成立させるために、前に過剰なまでの伏線を張り、その(実際には食事会は開かれない)出来事の後に、何が起こるかが物語のテーマとなっている。
エヴァの魅力は、使徒やゼーレなどという不可解な世界観がその一つではあるが、「破」に関して言えば、レイ、シンジ、アスカという三人の人間関係がどのように展開していくかということが軸になっている。
そのため、キャラクターの言動に多少の違和感を覚えた人は少なくないだろう。
もったいつけても仕方がないので、そのあたりを確認しておこう。

シンジは前回の件もあり、レイの人間離れした所作に興味を抱く。
ドイツから来たアスカや、ミサトのために作っていた弁当をレイに渡す。
レイも、その時はじめて「ありがとう」と口にし、シンジへの気持ちの変化を意識する。
レイは、シンジとゲンドウ司令との関係を改善させようと、食事会を企画する。
自分が作った手料理で、二人を招き、「仲直り」させようとする。
アスカも、ともに戦ううちにシンジや周りとのつながりを意識し初め、孤独でない自分を発見する。
レイの食事会に誘われたアスカだったが、その日にエヴァンゲリオン3号機の起動実験があるため、パイロット候補として名乗りを上げる。
レイの計画を妨げないように配慮したのだ。

だが、起動実験中、使徒に浸食され、3号機は第9使徒とされてしまう。
ミサトがその事故に巻き込まれたため、指揮権がゲンドウに移り、シンジにアスカが乗る3号機に撃破させようとする。
闘うことができないシンジに対して、父親のゲンドウはダミープラグへと換装させ、3号機に乗るアスカもろとも撃破してしまう。

レイ、アスカがそれぞれ、テレビシリーズにはなかったほど、自分の気持ちを素直に表現し、そして行動していく。
このあたりの言動はファンなら大きな違和感を覚えたはずだ。
「綾波が“ぽかぽかする”ってなんだ!?」「こんなのアスカじゃない!」と心の中で叫んだに違いない。
だが、これは映画的な伏線だったわけだ。
すなわち、そのあとアスカとレイ、シンジを切り裂くための伏線だったのだ。
心がつながり合い始めた矢先、その心の絆は断ち切られてしまう。

ゲンドウは、シンジに「大人になれ、シンジ」とアスカへの処置を正当化する。
シンジは「何が大人なのか、僕にはわかりません」と反発するものの、ここにはシンジを理不尽な世界である大人へと成長させようとするゲンドウの考えが見え隠れする。
それが人類補完計画やゲンドウの青写真とどのような関連性があるのかは本作では明らかにされない。
だが、少なくとも、一人の少年が社会的な役割を与えられ、それを遂行するために、不本意なことでも、不条理なことでも受け入れなければならないという大人への成長が描かれている。

それにしても、あまりにも残酷な仕打ちだと思わずにはいられない。
僕の知人がテレビ版と旧劇場版について「アスカにはなぜあれほどのえげつない運命を背負わせたのだろうか」と言っていた。
まさに、この「破」ではそれが全面に出ている。
やっと一人であることと、一人ではないということを知ったアスカに対して、シンジに襲わせるという運命を、背負わせた。
この「破」がどのように次回作の「Q」につながるのだろうか。

それはさておき、アスカへの一件でエヴァ搭乗を放棄したシンジの元へ、再び使徒が襲来する。
強力な使徒は、ジオフロント内部にあるネルフ本部へと侵攻する。
マリが2号機をビースト・モードにして闘い、レイが零号機による自爆攻撃を仕掛けても使徒は倒れない。
マリへの問いかけに、シェルターにいたシンジが応え、シンジは初号機に乗る覚悟を決める。
レイを取り込んだ使徒から、彼女を取り戻すべく、シンジは初号機を暴走させる。
圧倒的な攻撃力で助け出した初号機は、天使の輪を冠し、さらにはセカンド・インパクトを彷彿とさせる翼をはやしていた。

ゼーレや渚カヲルたちが、どのような物語的記号を担っているのか、この「破」だけではとらえきれない。
それは「Q」以降に明かされるのだろう。
いや、例のごとく明かされないのかもしれない。
とにかく、この「破」でいえることは、シンジの成長である。

エヴァに乗る理由が、父親のためでもなく、世界を救うためでもなく、「レイを守るために乗る」という答えを導き出したシンジは人ではなくなる。
赤木リツコ(声:山口由里子)に「神に近い存在」と称されているが、それは世界に満ちている「不条理を仕方なく受け取ることで大人になった人間」ではなくなったということだろう。
つまり、シンジは能動的に他人のために生きる、自主的に守るべき人のためにエヴァに乗ることを見いだした最初の人なのだ。
そこにはエディプス・コンプレックスのような父子の対立はもはやない。
「世界がどうなってもいい、綾波を助け出すんだ」という強い意志は、自身のアイデンティティを確立できずにカタカナの名前で呼称されるような大人の世界とは根源的に違い、自律している。
いわば、テレビシリーズで言うところの人類補完計画から独立してしまっているとさえ言える。

この「破」では、テレビ・シリーズにもなかった風景が数多く描かれているが、その中でも特徴的なのは、第三新東京市の〈日常〉である。
モノレールの切り替えや、横断歩道、ビルが生える中で通勤する人々などなど、これまでにまして日常的な風景を描いている。
これは、世界が壊れる前の姿を映し出すことで、壊れたものがどのようなものなのかを示すために他なるまい。
印象的に描かれた〈日常〉は、使徒の襲来によって崩壊してしまう。
それは、シンジの内部で大きな発見と孵化が起こったということを示している。
彼は、世界のどの人間とも違う、「神に近い存在」へと変貌したのだ。
その明確な回答は、やはり「Q」まで待たねばならないだろう。

続編があることがわかっているので、謎解きはこのくらいにしておこう。
前作にないほど、独立性高い1本の映画を強く意識された作品である。
だからこそ、野暮ったい演出が目立つのも事実だ。
たとえば、人物の心理描写。
本当につたないほど、登場人物の皆さんは心情を吐露しまくる。
時間の枠に収めるためには仕方がなかったのだろうが、それにしても、映画としてはもっとさりげなく変化を示すべきだった。
あんなに素直に電話できるなら、孤独じゃないですよ、アスカさん、と言いたい。
その丁寧さ(野暮ったさ)に比して、ゼーレや使徒、セカンド・インパクトなどについての説明不足さはアンバランスだ。
まだその設定できていないから、今度説明させてください、と言わんばかりだ。
せっかく買った千円もするパンフレットも、内容はほとんどインタヴューばかりで、キャストとか全然書いていないし。

だが、そういったつたなさを超えて、物語の情熱は伝わった。
「Q」以降でどのような物語になるのか、期待はできそうだ。

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