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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

007/カジノ・ロワイヤル(V)

2009-10-18 18:11:47 | 映画(さ)
評価点:53点/2006年/イギリス

監督:マーティン・キャンベル

次のシリーズの方向性は「荒削り」。

「00(ダブルオー)」のコードネームを得るには二人の人間を殺さねばならない。
ボンド(ダニエル・クレイグ)は裏切り者二人を始末することで、「007」のコードネームを得る。
初仕事、テロ組織とつながる者を一網打尽にするために、男を追っていたが、追跡に気づかれ、騒ぎとなり大使館を爆破してしまう。
汚名返上のために与えられた仕事は、テロ組織の資金を元手に、株操作によって多額の利益を出す闇のマネートレーダーに対してカジノで勝つことだった。

お恥ずかしながら、僕はこの「カジノ・ロワイヤル」が「007」初体験だ。
これまで観ろ観ろと進められてきたが、ピアーズ・ブロスナンのあのいかにも、という甘いマスクがどうも苦手で、また、不自然なスパイのノリがどうしてもなじめずに、ここまでほったらかしできた。

この「カジノ・ロワイヤル」から主演が変わり、作風も変わったそうな。
よくわからないが、ちょっと不細工くらいがスパイらしいと思っている僕は、この作品はとりあえずチェックしておこうと思って、レンタルしてみた。
精神的にアクション映画を欲していたことも、大きな理由ではあるが。

これまでのファンだけでなく、僕のように役者が変わったことで、新たな客層への取り込みも期待されているはずだ。
「007」だからというのではなく、単純にアクションを楽しむ映画として観れば、抵抗は少ないだろう。
 
▼以下はネタバレあり▼

「007」とは?
ボンドとは?
という問いや、シリーズ共通の哲学のようなものについて、語ることはもはや不可能だ。
「007」のコアなファンであるなら、これから先に書くことは、きっと的はずれな意見だろう。
この作品単体でしか語れないのが、心苦しいが、かといって、すべてのシリーズ作品を見る気はないので、こういう意見もあり、と思って読んでほしい。

僕の「007」のイメージは、スマートで完璧、甘いマスクで女性の心をわしづかみ、
わけのわからん役に立つのか立たないのかわからない武器や道具で、相手の心まで翻弄し、スパイのわりには大味な解決方法で、相手をドメスト(根こそぎです)する。
スパイなのかSFなのかイマイチよくわからない映画。

だからこれまで「食わず嫌い」だったのだが、今回のボンドはちょっと違う。
筋肉隆々の、ちょっと不細工めのダニエル・グレイヴが演じていることもあって、荒削りだが、骨太、余計な駆け引きよりも度胸と肉体でぐいぐい解決していくボンド像に変わっている。
ピアーズ・ブロスナンがあまりにも人気が出てしまったので、かえって新機軸を見いだすのは難しかっただろうと察する。
ここまで変更してしまって、過去を完全に払拭できたのではないか。

ピアーズ・ブロスナン時代からしか「007」を観ていない人はとまどうかもしれないが、思い切った変更はよかったと思う。

だから、アクションもリアリティがあり、スピード感、重量感など、アクション映画としての色が濃いものになっている。
シリーズものとしての価値もさることながら、単体として観客を楽しませようという気概を感じる作品である。
特に冒頭のおいかけっこは、ボンドが勝つとわかっていても、おもしろい。
僕は「どないして撮ったん?」「どないして撮ったん?」と連呼していた。

だが、この映画、単体として楽しむにはどうしても限界がある。
ある程度の「007」への「愛」がなければ、非難の嵐になるのではないかと予想する。

まず映画を支えているのは、ストーリーとプロット(人物関係や結構)であることを確認しておきたい。
この二つの要素がなければ、どれだけすごい肉体(男女ともにね)があったとしても、
ドラマとしては楽しめない。
残念ながら、この映画にはそれが圧倒的に荒削りだ。

まず、冒頭いきなりアクションから始まるのは別にかまわない。
しかし、その説明があまりにも乏しい。
作戦に入ってからも、敵の素性が明かされなさすぎる。
なぜそんなまどろっこしい作戦が必要なのか、説明がない。
だから、物語にのめり込めないし、戦うべき目の前の敵以外の要素が多く、誰と戦い、なぜ戦うのかが不明確だ。
むしろ、カジノをしている相手がかわいそうになるくらい、彼の取引相手が残酷だ。
ボンドからも取引相手からも責め立てられる敵は、Mっ気が強すぎて、敵としては不十分だ。

戦う理由が全くつかめないわけではない。
だが、もっとシンプルに、丁寧に描いておけば、カジノの戦いが盛り上がったと思われる。

敵の説明が少ないと言うことは、敵のキャラクターがつかめないということだ。
血の涙という役者泣かせの設定があるのに、それが活かし切れていない。
根っからのギャンブル好きという割には、カジノで不正は働くし、そもそもリスクの高いカジノ・ロワイヤルなんて、開催して本当に借金返済ができると考えていたのだろうか。
CIAにも、007にも潜入されて、本当にその計画が遂行されるとはとうてい思えない。
そりゃ、取引相手も脅しにくるわ、という感じだ。
飛行機テロを起こすキャパがあるなら、もっと確実な方法を考えるべきだった。
(というか一つのテロの失敗で揺らいでしまう組織は脆弱すぎると思うが。)

敵だけではない。
今回はじめての007なのだから、ボンドそれ自身のキャラクターももっと丁寧に描いてよかったのではないか。
女をとるか、任務をとるか、というのがうたい文句だったが、そのジレンマに陥るのは、ラストのほんのわずかの間だけだ。
そこが中心話題ならば、もっと前から女を疑うようなシーンや、女に落ちていくシーンが必要だった。

「寝る」までが長く、ジレンマとしては弱い。

結局メインはカジノだったのか、女とのジレンマだったのか、様々な要素を組み込みながら、主軸がどれかわからない。
だから、雑多な印象があり、まとまりにかけた印象を抱いてしまう。

技術的なことをいうならば、アクションとドラマとのすりあわせが甘い。
アクションが次のドラマ(事件解決)への契機になっていないのだ。
だから、単発で楽しむしかない。
アクション(見せ場)とドラマ部分がスクラムを組んだように感じないので、すごいアクションも効果が半減といった印象を受ける。

画面もよくない。
様々なロケ地で撮影されているが、どの地域もあまりにも映像が鮮明できれいだ。
今はやりの高感度カメラで撮影したのか、どうなのか知らないが、鮮明すぎて、かえって地域性をそいでいる。
色を入れるなり、カメラを変えるなりして、地域や場面ごとにメリハリをつけてほしかった。
間の抜けた、同じトーンで語られるために、間の抜けた印象さえ受ける。

端的だったのが拷問シーン。
高潔で清潔な画面で拷問されるために、主人公の肉体美を見せるためのプロモなのかとさえ思った。
痛そうなのだけれど、どこかちぐはぐだ。
冒頭のおいかけっこも、ラストのベネチアの家が陥落するシーンもそう。
もっと砂埃が舞うような、泥臭さがリアリティには必要不可欠だった気がする。

全体的な印象はやはり荒削り。
役者にしても、ボンドのキャラにしても、「成りたて」感を全面に出している。
同じように脚本も、映像も驚くほど荒削りだ。
これがどのように丁寧になっていくのか、楽しみではある。

機会があれば、ほかの作品も見てみよう(上目線)。

(2007/8/16執筆)

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