secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

オーシャンズ13

2009-10-18 18:16:33 | 映画(あ)
評価点:34点/2007年/アメリカ

監督:スティーブン・ソダーバーグ

観客置いてけぼり型ミッション。

カジノオーナーを夢見たルーベン(エリオット・グールド)は土地の売買や出資をしたが、相棒であるバンク(アル・パチーノ)はすべての条件がそろったところで、彼を裏切ってしまう。
それがきっかけで心臓発作に見舞われた彼の意志を継いで、オーシャン(ジョージ・クルーニー)のチームが立ち上がる。
カジノのオープンの日に最高のしっぺ返しを食らわそうと、計画を立て始めるが、そのカジノは難攻不落の人工知能がセキュリティシステムに組み込まれた一流のホテルだった。

「オーシャンズ11」のとき、話題になったキャスティングの豪華さも、三作めになると、もはや当たり前になってしまうから不思議だ。
それでもやはり、この映画の見所は、監督や製作陣のコネクションの限りを尽くしたような豪華共演者の数と質だ。

映画としての価値よりも、どれだけ自分たちが楽しめるのか、という同窓会的な要素が強いので、万人向けの映画とは言いがたい。
もっといえば、裏事情に詳しいほど楽しめるという、内輪ねた(アメリカ文化やアメリカの映画事情)が数多くある。
そのため、あまり日本人むけの映画ではないかもしれない。

あまり意気込まずにさらっと楽しむほうが、ストレスレスで楽しめるだろう。
元ネタなどを考えるとちょっとコアな知識がなければ難しい。
 
▼以下はネタバレあり▼

実は「12」は観ていない。
「11」の批評を見てもらえればわかるが、このシリーズが豪華なキャスティングに見合わないことは一作目ではっきりしたことだ。
これを新たに観るくらいなら、「ダイハード4.0」を二度見たほうがよほど楽しめるだろう。
それくらいの出来だということだ。

この映画のコンセプトは二つ。
いかに多くの豪華な出演者を無理なく共演させるか。
もうひとつは、悪役をどれだけ徹底的にいじめ倒せるか。
この二つともに魅力を感じられない人は、完全にこの映画のターゲット外だということになる。

ストーリーは映画の根幹である。
これは誰もが知っていることだろう。
この映画はその点で致命的な欠陥がある。
それは敵が抵抗しないということ。

この映画の敵は、カジノを乗っ取ったバンクである。
アル・パチーノ扮するバンクを、オーシャン側がいかに追い詰め、いかにカジノを壊していくか、ということがストーリーの根幹である。
勧善懲悪に見えるストーリーだが、敵がまったく抵抗しない。
難攻不落のシステムに守られているカジノは、確かに難攻不落なのかもしれないが、オーシャンの攻撃に対して一切有効な手段で抵抗しない。
だから、頑丈な城壁を崩していくという楽しみ以外、なにもない。
篭城相手をどんどん兵糧攻めしていくような感覚だ。
相手は追い詰められても、抵抗する手段を持たない。
「覚えていろ」とか「なめるな」とかとアル・パチーノが言うたびに、それが負け犬の遠吠えであることを印象付ける。
なにせ、相手と勝負する要素がなく、アル・パチーノにはなにをされているかさえもよくわかっていない状態だ。

これで善悪でのやりとりを楽しむという高次の楽しみを得ることは出来ない。
いかに追い込むかというきわめて低次元な争いに延々と付き合わされることになる。
この映画の筋を楽しめる人は、よほどのマゾヒズムだろう。
もしくは、究極のサディストである。
ハリウッドでも権威あるアル・パチーノをここまで徹底的にいじめ倒せる、製作陣は、きっとサディストだ。
それを観て楽しい、演じておもしろいという監督とアル・パチーノは、間違いなくMだ。
とにかくやりとりやかけひきといった物語の常識、勧善懲悪の常識を見事に裏切ってくれる。

話としてはアメリカ人お得意の(大好きな)権力者に対抗する弱者、という構図ではあるが、ここまで一方的だと閉口するより他ない。

だが、この映画のおもしろさ、真の魅力はストーリーではない。
いかに多くのキャストを無理なく組み込み、各出演陣の顔を立てるかである。
ちょい役でも、とにかく印象的に、悪役でもスパイスの効いた役所に仕立て上げることが、この映画の魅力である。

残念ながら、それにも大きな魅力を感じにくい。
なぜなら、「11」のジュリア・ロバーツなどに比べると、どうしても、今回のキャスティングは豪華さの面で劣るからだ。
アンディ・ガルシア、アル・パチーノなど、確かにすごいわけだが、ブラッド・ピットやジョージ・クルーニー、マット・デイモンがすでに三作連続で出演している以上、さらに豪華にすべきだった。
たとえば、旬のオーランド・ブルームや、女性陣もジュリアに匹敵する女優をつれてくるべきだった。
そうでなければ、豪華さという面では魅力が薄い。

マニアックなちょい役も、ダイヤを横取りしようとしたヴァンサン・カッセルくらいだ。
それも前作を知らない僕にとっては、なんだかしっくりこないシーンになっている。
(それは僕が悪いんだけど。)
どうせなら、デミ・ムーアとか、スタローンとか、いけてない俳優をちょい役やエキストラ的なカジノ客として出演させたほうが、ネタとしてはおもしろかった気がする。
タランティーノとかなら喜んで出る気がするが。

それ以外でも小ネタは満載だ。
詳しくはパンフレットに載っているのでそちらを参考にすればいいだろう。
アメリカ人やアメリカ文化に通じている人にとっては、にやりとするシーンは多かったはずだ。
僕にもわかるところもあれば、完全にスルーしてしまったところもあるだろう。
それは文化にどっぷり使っていないとわからない文化的コード、文化的メタファーが多用されているからだけではない。
そもそも、計画が複雑なために、字幕を追うことに精一杯になり、ネタを探したり、笑ったりする余裕がない。
しかも、先に書いたように、その計画があまり楽しいものではないために、ストレスばかりがたまってしまう。
たまにおもしろいネタがあっても、それを見過ごして(寝過ごして)しまった人もいるだろう。

とにかく、この映画は万人向けではない。
もっと言えば、アメリカ人にターゲットを絞った作品だ。
国や地域や文化を超えておもしろいというような作品ではないのだ。
特に英語圏外の日本人が、この映画をブラピ以外で楽しめる要素があるのか、疑わしい。
ブラック・ユーモアを効かせるのはいいと思うが、少なくとも脚本はしっかりさせておいてほしかった。
これでは観客無視の、同窓会映画だ。

(2007/8/25執筆)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 007/カジノ・ロワイヤル... | トップ | 今日も今から仕事です。 »

コメントを投稿

映画(あ)」カテゴリの最新記事