secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ロックアウト(V)

2013-07-10 21:35:12 | 映画(ら)
評価点:66点/2012年/フランス/95分

監督:スティーヴン・セイント・レジャー  ジェームズ・マザー

なかなかおもしろい閉鎖型のSFアクション。

2079年、宇宙ステーションの開発が進んだ近未来、CIAのスノー(ガイ・ピアーズ)は謂われのない殺人の罪に問われた。
CIA長官を殺害したところを捜査官に目撃されたのだ。
「はめられた」と主張するスノーは証拠となるブリーフケースを託した相棒が重罪犯罪者刑務所に収容されていることを知る。
その刑務所MS-1は宇宙空間を利用した要塞刑務所だった。
万全だったはずの警備だったが、ちいさなきっかけから囚人たちが脱獄し、人質事件が発生した。
その人質にはアメリカ大統領の娘エミリー・ワーノック(マギー・グレイス)も含まれていた。
公私の利害が一致したスノーはその要塞刑務所に一人乗り込み、500人の囚人から人質奪回を試みる。

閉鎖型アクションに、SF要素が加味された作品。
みるものを物色していてTSUTAYAで見つけたので借りてみた。
ガイ・ピアーズが主演のチープなアクション映画だろうと思ってあまり意識せずにレンタルした。
上映時間も短いので、ひまつぶしにはちょうど良いだろう。

映画館ではどうだったのかわからないが、少なくともテレビ画面ではCGに重厚さはない。
あくまで小品とおもって見てあげて欲しい。

▼以下はネタバレあり▼

TSUTAYAだけ!という広告に踊らされてしまった、ということは間違いない。
あまり見たい気分になれる作品が見当たらなかったので、とにかく手に取った。
当然前評判どころか、ほとんどストーリーもわからずに、当然期待せずに見た。

これが案外おもしろい。
低予算であろうととは、随所にみられる。
地球上でのカーチェイスは一瞬「え? ゲーム画面?」というほど安っぽい。
だが、ストーリーはきちんと練られているし、キャラクターもしっかりしている。
邦画で超目玉と言われている作品でもシナリオに強引さがある中で、このクオリティはさすがアメリカだ。

話は複雑そうに見えるが、とてもシンプルだ。
試験運用されていた宇宙に浮かぶ刑務所が、ひょんなことから受刑者に占拠されてしまい、それを刑務所送りになりそうな捜査官が一人潜入して奪還するという流れだ。
刑務所で閉鎖的な空間といえば、「ザ・ロック」の印象が強いが、同工異曲といっていいだろう。
おもしろいのは、その潜入もモティベーションである。

只単なる「善意」や「正義」ではなく、自分の無実を証明するため、という利己的な発想で潜入する。
一癖も二癖もある主人公を演じているのは、ガイ・ピアーズ。
最近では「アイアンマン3」での怪演が記憶に新しい。
恋人を亡くす主人公を演じるよりも、こういう癖のあるほうがしっくりくる。

そのスノーとペアになるのが、大統領の娘役のマギー・グレイス。
欧米人のわりには顔が大きく、それほどかわいくもないのに結構大きな役を任せられている若手女優だ。
96時間」での活躍の姿が忘れられない(悪い意味で)。
彼女がチープな、お嬢様らしい正義を振りかざすという構図がおもしろい。
シークエンスとしてはそれほど重要ではないのに、うんことコーヒーを混ぜた染料で髪を染められるとか、なかなか刑務所らしい役所がよかった。

スノーは相棒が隠したスーツケースを聞き出すために、刑務所に潜入し、彼を見つけだすが、すでに収容システムによって痴呆症状がでてしまっていた。
スノーはそのスーツケースがなければ無実であることを証明できない。
人質のほとんどが殺されながらも、何とか脱出したスノーとエミリー・ワーノックはメース(ティム・プレスター)が残してくれたメッセージを元にスーツケースを見つけ出し、めでたしめでたし、となる。

心憎いのが、冒頭の伏線がしっかりと回収されることだ。
命からがらフランクが渡したジッポライターにチップが隠されているというオチは、見ている者にとって「ああ、やっぱりそうだったか」という期待感と達成感がある。
さんざん人質が死んでしまった、最悪な救出劇なのに、カタルシスが生まれているのはあくまでもこの物語が「スノーの物語」だから。
救出という正義を振りかざすような物語にしてしまうと、きっと後味の悪い感じになっただろう。
大統領の娘以外の人質にほとんどキャラクター設定を与えなかったため、「失敗した」印象は受けない。
逆に「助けられるか」という緊迫感が失われてしまったことは確かだが、シナリオの構成は正しかったと思う。

全体としては「B級映画」として満足できる作品だ。
しかし、やはりどうしても不自然な点が目立つ。
だからこそ、傑作B級になれたのに、残念な映画になっている。

一つは、刑務所のシステムについての説明的な描写がなさ過ぎるという点だ。
どういうシステムで管理しているのかという「絶対崩せない城」であることがわかりにくい。
特に、「刑務所を攻撃する」という命令が下されたのに、戦闘機でちまちま攻撃するという意味不明な作戦にでる。
私なら、ミサイル一発で黙らせるところだろう。
機関砲があることは、その前からわかっていることなのに、なぜ戦闘機で戦いを挑む?
(結局爆弾を仕掛けて堕とすわけだから)
そのあたりの設定をしっかり描いておかなければ不自然に感じてしまう。
自重で軌道を外れてしまうという設定にしても、もっと前もって台詞の中で説明しておけばすっきりする。
視察訪問するという設定なのだから、そのシークエンスをもっと活かせばよかったのに。

次に、500人という囚人の数がまったく意味がないという点だ。
結局囚人の中のリーダーのみが全体を管理し、混沌としているのはごく一部だ。
500人という数に恐怖が生まれないし、絶望感も薄い。
エミリーとスノーが一度囚人の集団に囲まれただけで、とくに混乱はない。
もっと上手く話をつくれば、もっと効果的だったのではないか。

そもそもなぜスノー1人に任せようとしたのかがいまいち見えてこない。
元CIAとはいえ、悪人として逮捕されたのだから、大統領の娘の救出という最も重要な任務には適さないのではないか。
もし、救い出せたとしても、そのあと逆に娘を人質にとることだって危険性があるのに。
それなら他の超優秀な元シークレットサービス(ジェラルド・バトラー)にでも頼んだ方が蓋然性がある。

ラスト、黒幕が意外な人物(ごめん、役名忘れました)だった、ということがスーツケースの解錠で明らかになる。
それまで伏線らしい伏線がなかったので、唐突な印象を禁じ得ない。
なぜ彼が犯人なのか、どうやってブラフをかけようとしたのか、納得できない。
きれいな終わり方だし、彼が黒幕だったことに対して不満はない。
だからこそ、もっと上手い伏線はいくらでも張れた気がする。

大きな結構に対しての不満はない。
すこしひねればすごい大作になった気もする。
だからこそ、残念だ。
ん? プロデューサーはリュック・ベッソン? それなら仕方がないか。

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