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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

アルゴ

2012-11-15 23:10:46 | 映画(あ)
評価点:79点/2012年/アメリカ/120分

監督:ベン・アフレック

結論が分かっていても面白い。ドキュメンタリー映画としても珠玉。

1979年、イランで大規模な革命が起こった。
それまで独裁政権を保持してきた国王パーレビが倒され革命軍が実権を握ったのだ。
パーレビは末期のがんに侵され、アメリカは亡命を受け容れた。
そのことに反発した民衆はイランのアメリカ大使館を取り囲み、ついに大使館内に入り込んだ。
機転を利かせて脱出した大使館職員6人は、カナダ大使館の私邸に逃げ込んだ。
重要書類をすべてシュレッダーにかけたが、大使館名簿は革命軍によって刻々と復元されていく。
人数が足りないと知れると確実に殺される。
CIAはこの6人の救出作戦を考えるが、どれも可能性は低かった。
人質救出のプロ、メンデス(ベン・アフレック)は六人をカナダ人映画スタッフを装い、映画制作のためにイランを訪れたことにしようと提案する。

ザ・タウン」でも好評だったベン・アフレックの監督第3弾。
監督業に転進してその力を発揮する俳優は多い。
イーストウッドも、レッドフォードも、メル・ギブソンも、もともとは人気俳優だった。
もちろん、今でも人気なのだけれど。
その中で注目の若手監督は、この人、ベン・アフレックだろう。
彼を一躍世に知らしめたのは有名なエピソードだ。
マット・デイモンと共同脚本でオスカー受賞にいたった「グッド・ウィルハンティング」である。
その意味では、彼ら二人はもともと映画を撮るという視点で撮られることができる、そういう俳優たちなのだろう。

そういう期待もこめて、「アルゴ」を見に行った。
実話ということもあり、政治色も強い作品である。
だからといって毛嫌いするべき話ではない。
是非劇場で見てほしい作品だ。

▼以下はネタバレあり▼

18年にもわたって機密扱いとされてきた、人質救出作戦。
それが「アルゴ」という作戦であった。
事実に基づいて撮られていることを、見事に演出した良作といえるだろう。
この映画がどこまで忠実に事実を再現しているのか、正直わからない。
けれどもエンドロールに、実際の写真と今回の映画のカットを対比させたり、ラストにことさら後日譚をテロップで流したりするあたりから、この映画を「事実に基づく映画だから」という点を推したい意図がうかがえる。
事実であろうと、事実でなかろうと、面白い映画は面白い。
面白くない映画は面白くない。
だが、この映画について言えば、事実であることを執拗に訴えることで、面白さが増す、そういう種類の映画だ。
なぜなら、この物語があまりにも荒唐無稽で、「映画みたいな話」だからだ。

逃げ出した人質、敵国(当時の状況は間違いなくアメリカにとって敵国だろう)真っ只中に取り残されている。
それをいかにして救い出すのか。
その方法が、「偽映画」の製作なのだから、笑うほかない。
その様子を映画にしているから、この映画はメタフィクションとしても楽しめる映画になっている。
しかも、その舞台となったのは、SF映画がまさに消耗品(エクスペンダンブル)のごとく作られた、あの1980年代なのだから。
この映画は、あらゆる意味でタイムリーだ。

イランという今でも情勢が不安定な国で、映画最盛期の時代の様子を、しかも映画で描くというのは、何重にもタイムリーだといえるだろう。
映画ファンにとっても、社会情勢に詳しい素人ジャーナリストにとっても、そして気軽に映画館に足を運んだ単なる観客にとっても、誰もが面白くなれるそういう映画なのだ。
だから、この映画をこの時期に、映画化しようとしたこと自体が、この映画の成功の大きな理由になっている。

じゃあ、中身はそうでもないのか。
それがそうではない。
アメリカ人にとって有名なこの人質事件を描くということは、結末では勝負できないということだ。
結末は変えようがないから。
けれども充分面白く撮っているのは、監督の手腕と脚本の妙があるからに相違ない。

この映画の面白さは、「顔」のある人物とない人物の対比がしっかりとしている点にあるだろう。
だから、僕たち観客はこの史実を知らなくても、充分に感情移入することができる。
トニー・メンデスというCIA職員は、顔のある「英雄」である。
だが、大使館から機転を利かせて逃げ出した六人は、顔のない普通の人物たちだ。
僕たち観客は、トニーの途方もない計画に驚きながら、六人に感情移入して計画の実行を味わう。
非日常的な革命時の国の混乱など、そう体験することはない。
けれども、六人があまりにも普通の人々なので、僕たちはいつの間にか混乱期のイランの真っ只中に立たされることになる。

日本に住む、この事件をリアルタイムに知らない僕が楽しめたのは、一つに中国の反日デモがあったからだろう。
もちろん、社会的文脈は全く違うが、「顔のない群衆の恐怖」という意味では同じだろう。
だれか凶悪な元凶があり、その集団や人物に対する恐怖、というよりは群衆が指揮や理性を失い暴徒と化する恐怖は、近いものがある。
しかもそれが革命という紛争状態にある群集となればなおさら怖い。
大使館メンバーの2人が計画参加を渋るのは無理もない。
無残に殺される姿を目の当たりにしながら、その混乱の渦中に飛び込むなど、よほどの勇気がなければできない。
たとえそれがたった一つの望みであったとしても。
「勇気とは恐怖を克服して立ち向かうこと」とツェペリさんは言うけれども、そう簡単なことではないだろう。
それが愛する妻と一緒となれば、なおさらである。

顔のあるメンデスの心情もきちんと描かれている。
彼と、別居する家族とのやりとりが描かれることで、ラストでよりがもどったことに対する物語のカタルシスは増大する。
僕たちが享受するのは、事件ではない。
物語なのだ。
だから、この事件は「アルゴ」という映画という形式に変換され、物語化される。
しかもそれが「事実に忠実に基づいている」ということを演出することで、説得力も補完される。
本当に離婚危機があったのかなんて、もはやだれも問題にしない。
それは現実に起こった事件ではなく、映画の中の物語だからだ。

その変換がうまくいっているため、違和感なく映画に没頭できる。

「イーストウッド級の監督になり得る」とパンフレットではべた褒めだった。
果たして、ベン・アフレックは若き俳優出身の監督として大成するのだろうか。
次の作品も見に行きたい。


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