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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ラ・ラ・ランド

2017-03-27 14:35:55 | 映画(ら)
評価点:69点/2016年/アメリカ/128分

監督:デイミアン・チャゼル

見せ場か限られている。

ミア(エマ・ストーン)は、女優を夢見てオーディションを受け続けていた。
あるとき、パーティに招かれてセバスチャン(アイアン・コズリング)と出会う。
第一印象の悪い二人だったが、なぜか忘れられず、そして会う度に惹かれていくのだが……。

「セッション」のデイミアン・チャゼル監督の最新作。
もうどんな形容詞も必要ないくらい、有名になったミュージカル映画だ。
「セッション」を見ていないので、彼の作品ははじめてとなる。

他のオスカー争いの映画も観ていないので、この映画が作品賞から漏れたことがどんな意味を持つのかは知らないが、とにかく見ておこうとと思ったので劇場に足を運んだ。
その前から「良い」という話は聞いていたので、多少期待値は高かっただろう。

わたしは、ダニエル……」の後に見た。
集中力は高かったはずだが、あまり私は楽しめなかった。

▼以下はネタバレあり▼

ミュージカルなので、もちろん見せ場は歌とダンスなのだが、私はそそられたのは最初と最後の二曲だけだった。
映画の見せ場として成立しているのは、私はこの2曲だけだったように思う。
それ以外は、確かにすばらしいが、見ているこちら側をかき立てる「何か」に欠けるように思っていた。
そして、それは最後の結末を見たとき、「なるほど、私にはこの映画が乗れなかった理由はこれか」と思い至った次第である。
逆に言えば、この2曲を見る(聴く)だけでも、この映画はすばらしい。
この2曲にどれだけの金が払えるか、という点で、評価が分かれるだろう。

ラストの1曲で示されるのは、二人が別れてしまっていなければどうなっていたか、という可能性だ。
その可能性を、1曲聴くだけで二人は共有することができた。
そのシークエンスが、この映画のすべてであり、このシークエンスが楽しめるかどうかがこの映画の評価に大きく影響する。

たとえば、映画館を後にするとき、高校生くらいの男の子が、「なんじゃそれ、二人は別れるんかい! 期待と違ったわ」とぼやいていた。
どうやら彼らにはこの映画の面白さに気づくだけの「経験」が足らなかったようだ。
私くらいの年齢になると、この映画で描かれているものの「何か」を共有することができる。
若い人にはその感覚は乏しい。
若い頃の恋が、成就しなくても美しいということに気づけない。
成就するかどうかが恋の本質ではなく、どれだけ情熱を傾けられたかが、恋の重さなのだということをまだ知らない。
それはちょうど「ベンジャミン・バトン」のすれ違いに似ているのかもしれない。

その意味で、この映画はちょっと大人向けであり、玄人向け(私が玄人というわけではない)なのかもしれない。
アカデミー賞間違いなし、と言われていたのもこの辺りに原因があるだろう。

もってまわった言い方になった。
この映画のテーマは、「昔あった恋に思いをはせる」物語なのだ。
今は失ってしまったし、今の生活が別に後悔しているわけではない。
けれども、それを少し思い出したとき、胸の痛みを感じることができる、その程度の若い頃経験した恋を、ある瞬間に思い出すことができる、そういう瞬間がある。
しかもそれは、相手も同じ感情に浸る〈接点〉というものがあるのだ、ということだ。

この映画はだから、ラストの1曲が、見事なのだ。
たった一曲聴くだけで、二人は心の内奥を覗きあい、共有することができた。
それは、結婚して子どもができるとか、自分の夢が叶うとか、そういう現実とは違った、火傷のような体験だ。
(私にはそんなことが残念ながらなかったけれども)
その1曲に賭けられるかどうかが、長々と綴られていたのだ。

だから、この映画はすべて〈過去〉の出来事にすぎない。
あまりにもきれいで、とんとん拍子に進む物語は、〈過去〉の歴史にすぎない。
だから〈今〉ではないのだ。
そこに熱さやギリギリのせめぎ合い、祈りのような不安はない。
だってすでに過ぎ去ってしまった〈過去〉としてしか描かれないから。
私がこの映画のほとんどの時間が「乗れない」と思っていたのは、〈今〉でなかったからなのだろう。

たしかに過去の作品のオマージュがちりばめられている。
私が気づいただけでも相当あったのだから、きっと細かく見ればもっとあったに違いない。
けれども、そんなことはどうでもいいのだ。
だってそれはアメリカ人の、映画好きに対するリスペクトであり、ハリウッドという街に対するリスペクトにすぎないのだから。

私はあまり乗れなかった。
2曲だけは楽しかったが、それ以上に面白さを感じることができなかった。
消化不良の分は、違う映画で満たそうかな。

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