secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

デッドマン・ウォーキング(V)

2010-03-22 22:32:16 | 映画(た)
評価点:80点/1995年/アメリカ

監督:ティム・ロビンス

アカデミー主演女優賞受賞作品。

貧民街のセント・トマスに希望の家という福祉施設で働く尼僧である、シスター・ヘレン(スーザン・サランドン)の元へ一通の手紙が届いた。
送り主は暴行と殺人容疑がかけられた死刑囚、マシュー・ボンスレット(ショーン・ペン)だった。
「無実だ」と訴える彼に会いに、ヘレンは刑務所に出かける。
そして上告申請を希望するマシューに協力することを約束したヘレンは、有志の弁護士をあたり、協力を得ることに成功する。
しかしマシューの処刑日が数日後に決定され、事態は急変する。

「ショーシャンクの空に」で有名なティム・ロビンスが監督したという作品。
もともと出る側の人間がメガホンをとると急にしょぼい作品になってしまうという僕の定説を打ち崩した作品でもある。

▼以下はネタバレあり▼

実際、映画を撮るのと出るのとではかなりの差があるとおもうのだけれど、完成度の高い作品に仕上がっている。
でも、奥さんを主役に起用するあたりが、公私混同を匂わせている。
今回は成功したけど、あまりそういう私情を挟むのは良くないとおもうけれど。

モティーフとしては「死刑」の是非を問う作品であるといっていいだろう。
監督(製作者側)の「解答」としては、主人公の最後の、「俺は人を殺すことは間違っていると思う」という台詞に収束されているだろう。
要は死刑反対派なのである。
ここではそれが「正しい」のかどうかという問題はさておき、この映画がすばらしいといえる理由は、この解答をあっさり出してしまわなかったことだ。
きちんと賛成派側の言い分も描いている。
このことがこの映画が成功した理由だと思う。

こうした二つの矛盾した、しかもどちらとも正しいといえるだけの根拠があるような問題に対して、一定の解答を出すことは非常に難しい。
非常に難しいから、どちらと正しいといえるわけだけど、この映画では、二つの立場を知り悩みぬくヘレンと、事件の真相を言えないマシューとの目を通して語ることで、その解答を出している。
二人とも必死でその問題に向き合い、そして自分の立場で解答を見出すのだ。
死刑はいけない、というのは簡単だ。
人が人を殺す以上、それが法の下に「客観的に」正しいとされていても、いけないと言う事は簡単にできる。
でも相手の立場を知り、その上で自分の罪と向き合い、そう言うのはとても難しい。
その難しさをきちんと知った上で解答を出すという、プロセスがきちんとしているため、この映画には妙な説得力があり、重さがある。

具体的に言えば、特赦審査会での被害者家族とのやりとり。
話しにくいと思っていたヘレンは、被害者の父親に電話番号を渡そうとする。
その彼女に対して、父親の方は、「私からあなたに電話するって?あなたは傲慢な人だ。」と一蹴する。
それまで、ずっと加害者側、つまりマシュー側にいた観客たちにとって、この台詞はひどく冷たいものに感じる。
しかし、この態度は被害者側の悲しみと怒りが象徴されている台詞になっている。
後に遺族へ訪問することになるが、ここで初めて事件の真相と被害者についての知識を与えられた観客は、問題の難しさを知ることになる。
なぜならば、「無実だ」と訴えるマシューのことばと、被害者の思い出を語る親、この両者のことばの重みがあまりに違うからだ。

そしてテレビで「爆弾テログループに加わってもいい」と言うマシューは事件の真相について一向に語ろうとしない。
その理由は物語のクライマックスで判明する。
無実といい続けていたマシューは、実は殺人に参加し、男の子を殺していたのだ。
母親や、ヘレンの真摯な態度をみるにつれ、自分の犯した罪を告白することができなかったのだ。
死の直前まで罪と向き合うことができなかったのだ。
しかも、事件の真相は、彼の口が開くまで殆んど全容が明らかにされない。
この構成によってより彼のことばが「重く」なる。

この、被害者加害者両者の苦悩を丁寧に描いたことによって、説得力と重みをもった映画になったのだ。

ティム・ロビンス監督。死刑制度そのものに賛否両論あるにしても、彼の死刑に対する真摯な気持ちが良く伝わる映画だと思う。

もちろん、主演二人の演技もすばらしい。

(2003/10/8執筆)

あまりに重たいので、もう一度観ようとは思えない作品の一つだ。
死刑制度そのものへ賛否両論あるが、その議論の契機となる作品だ。
日本人はどうしてもこういった社会的な作品は作れないし、作ってもなんだか説教くさい「相棒」みたいな作品になってしまう。
享受する側の感性の問題もあるのかもしれない。

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