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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ザ・コンサルタント(V)

2022-07-05 16:20:14 | 映画(さ)
評価点:76点/2016年/アメリカ/128分

監督:ギャヴィン・オコナー

サスペンスのお手本のような作品。

地方でしがない会計士をしているクリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)は周りの人と交流を持たない異色の人だった。
一方、金融犯罪専門の長官レイモンド・キング(J・K・シモンズ)は、不穏な金の流れに常に顔を出している男の捜査を、若手の分析官メディナに半ば強制的に指示する。
メディナが命じられた男こそ、ウルフその人だった。
ウルフは地方会計士という顔以外に、別の裏社会専門の「誰にも頼めない」会計士だった。
ウルフの元に、義肢技術で名をはせた会社から、不正が見つかったので捜査して欲しいという依頼が飛び込む。
すべて紙ベースの資料を集めさせ、クリスチャン・ウルフは仕事に取りかかった。

以前から見たいと思っていたがなかなかその機会が訪れずに、ついにレンタルして見た。
例によってほとんどストーリーを前もって仕入れなかったので、ちょっと戸惑った部分もあった。

あらゆる結構ががっちりとスクラムを組んでいるので、話として非常にまとまりがある。
また、荒唐無稽の話だが、それでもリアリティを感じさせるシナリオと見せ方になっている。

金の亡者と言われても仕方がないくらいオファーのお金が莫大なベン・アフレックが演じているのも面白い。
あくまでフィクション、と思って割り切ってみるくらいがちょうど良い。

▼以下はネタバレあり▼

この映画が荒唐無稽でありながら、ひょっとしたら? と思えるのは、人物造形のうまさにある。
この映画に登場する人間は、すべて二面性をもっている。
主人公はもちろん、黒幕の人間も、すべて二面性がある。
それが人間的な説得力をうみ、また深見と立体的なキャラクター造形につながり、面白さを生んでいる。

主人公は、数学的なチカラがずば抜けて高い高機能自閉症をもっている。
自閉症スペクトラムと呼ばれるこの手の患者は、世界の見え方が違っていて、普通の社会的なやりとりが苦手な場合が多い。
それもスペクトラムと言われるだけあって、グラデーションになっている。
つまり、どんな能力が優れていて、不得意かというのは個人によってかなり個人差がある。
ほとんど健常者のような能力を持っている人もいる。

LDやADHDなどの症状に似ている場合もあり、一概に自閉症といっても作中人物のように一見するとわからない場合も多い。
なんなら人間のほとんどは何らかの自閉症スペクトラムだと言うこともできる。
社会的なスキルが苦手な面は誰にでもあるからだ。
アスペルガーという表現が少し前まで一般化したが、すでにそれは古くなっている。
その理由がすべてはグラデーションで、境界に線を引くことが非常に困難だからだ。

さて、しかしそれでもウルフの能力はかなり誇張されているものではある。
しかし、彼の逡巡を夢や過去を回想させることでかなり深く重いものとして描かれる。
だから、観客は彼の悲しみに寄り添うことができるし、そういう人もいるかもしれないな、とリアリティを感じることができる。
数学的なチカラがずば抜けているが、社会的な交流は苦手。
状況認識に優れており、幼少期から学んだ対人格闘術に長けている。
一意専心に学んだスキルだからこそ、他の誰かに左右されることなく、ただただ能力を発揮する。

彼を追うのは、捜査官として任命されたメディナである。
彼女は優秀な分析官として登用されたが、実際には過去に犯罪歴があり、闇を抱えている。
その点を突かれて捜査を命じられるが、優秀さと過去の犯罪歴が二面性となる。

彼女の上官であるキングもまた、華々しい事件の捜査について裏側をもっている。
それは、彼が捜査したものはすべて内部告発がされていたということだ。
その内部告発は常に電話でもたらされ、そこにはあのウルフらしき人物がかかわっていた。
最初の記者会見で記者たちが「内部告発ですか?」と執拗に聞いていたのは、そのためだったのだ。
そんな細かいことは内部告発でしかわからないこと、それなのになぜわかったのか。
その伏線が冒頭にあったわけだ。

相棒となるディナ(アナ・ケンドリック)もまた二面性がある。
芸術家になりたかった夢と、事務職員になった現実の間をふらふらしている。
絵画という共通点によって、ディナ自身の人物の二面性とともにクリスチャンのもう一つの顔にもスポットを当てさせる。

このあたりまでは早い段階で示されるが、それでもこの映画はまだまだネタを仕込んでいた。
一つは事件の黒幕が、依頼者であった社長自身だったということ。
これも会社を大きくするためにとはいえ、不正をしていたことを隠していたわけだ。
ここに「道義的に問題ない」といった価値観がもたらされないところがこの映画の肝だ。
会計士としての不正や齟齬は絶対に許さない。
ましてやそのために人が殺されようとしているという正義を重んじる、これがこの映画の世界観だ。

さらに、その社長が雇った男が、実はクリスチャンの弟だったというところ。
こちらは私はだいぶ前から読んでいたが、人生の揺れ動き、運命のいたずらという意味でも物語に深見を与える。

そして最後に、信用できる一人の人間を見つけろ、といわれた相棒が実はあの養護施設にいた幼なじみだったという点だ。
「知っていますか? あのpcは国防総省にもハッキングできるくらいの高性能だ」
こういう台詞回しが本当にうまいと思う。
彼女は、見た目にも全くスマートさや知性はないが、だからこそその二面性に私たちははっとさせられるのだ。

クリスチャンの人間性を描くために、やや冗長になった印象はある。
けれども、やはり人間を描くと言うこと、二面性というモティーフを徹底して貫いたという点がやはり美しい。
人間を立体的に描くことが、結局物語に深見を与える。
単純なことに思えて、こういう物語やシナリオを描くのは、実はとても難しい。

面白い映画だった。


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