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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ゴーン・ガール

2014-12-27 10:57:37 | 映画(か)
評価点:90点/2014年/アメリカ/135分

監督:デヴィッド・フィンチャー

これが現代の男女の象徴なのか。

2012年7月5日、結婚五年目朝、ニコラス・ダン(ベン・アフレック)は午前11時に自宅に帰ると、妻が行方不明になっていた。
すぐにミズーリ州の警察に連絡し、調べてもらった。
異常な様子から深刻な事態と判断し、自宅を事件現場として詳しく調べることにする。
驚いたダンだったが、妻のエイミー(ロザムンド・パイク)は「アメイジング・エイミー」というベストセラーの本のモデルになった女性で、多くのボランティアが捜索に参加する。
マスコミが慌ただしく取り上げる中、ダンは教え子と不倫していたところ、妹のマーゴに見つけられてしまう。

もう代表作が多すぎてどれを上げて良いかわからないヒットメーカーのデヴィッド・フィンチャーのサスペンス。
ソーシャル・ネットワーク」「ベンジャミン・バトン」「ファイト・クラブ」などなど。
予告編が流れる度に、どのようにそれを裏切ってくれるのか、わくわくしながら見にいった。
レディース・デーということもあり、多くの席が埋まっていた。

見終わった隣のおばちゃんは、「こわ~。無理わやこの話」と言っていたのが印象的だった。
私は大好きだ。
脚本は、原作を書いてベストセラーになったギリアン・フリン。
作家としては新鋭の彼女が、映像化にも携わったことで、話はぎゅっと圧縮されおもしろくなった。
今年の「menfithランキング」の上位に食い込むことが間違いない傑作だ。

ちなみに、以下の批評はこの「ゴーン・ガール」だけではなく、「プリティ・ウーマン」のネタバレも含んでいる。
あまり配慮なく書いていくので、見ていない人は要注意だ。

▼以下はネタバレあり▼

1990年に公開された「プリティ・ウーマン」があれほど人々に愛されたのは、あの二人が一つの象徴であり理想だったからだ。
セックス・シンボルといってもいい。
みなああいう二人のカップルを理想として、最大公約数的な恋愛を想像させた。
それは、フェミニズムの人たちからいえば結構な偏見である。
男(リチャード・ギア)はお金持ちで無尽蔵に年収を持ち帰り、女(ジュリア・ロバーツ)は気立ての良いが育ちの悪い娼婦である。
私はこの映画は究極的な男尊女卑のイメージを具現化したようで、とても好きになれない。
それでも私の周りは「プリティ・ウーマン」最高、と言っているのにちょっと違和感をもつ。

この映画を観ながら、「男女の関係性はずいぶん変わったのだ」と思い知らされた。
「ゴーン・ガール」は夫婦の一つの現実を描いている。
それも辛辣に、説得力あるように。
誰もが「プリティ・ウーマン」に憧れたように、誰もがエイミーが計画した「理想」を抱く。
どんな男も、同じ状況に陥れば、ダンのように振る舞うだろう。
そういう象徴性や代表性が、この映画を一層恐ろしいものに思わせる。

話を映画の脚本通りに説明していってもおもしろくないので、夫婦の時系列に従って確認しておこう。
二人は理想とも言える出会いをして、理想的な結婚を実現させる。
夫は男性誌のライターで、妻は文才あるクイズ雑誌のライター。
妻は両親から大切に育てられて、「アメイジング・エイミー」という本のモデルとして世間からも注目されていた。
すべてが順調であり、誰もがうらやむ結婚だった。

しかし、一連のサブプライム問題などを発端にした不景気により二人は仕事を失う。
10万ドルという大金を娘のために貯金していた、妻の両親は本が売れなくなり、そのお金の大半を借金返済に充ててしまった。
無一文にちかい二人は、夫ニックの母親の看病のためにミズーリ州に越してくる。
しかし、それは二人にとって理想的とは言えない生活だった。
たびたび小さな事で口論となり、妻にとっては「最も嫌な典型的な妻」に成り下がっていた。
夫は妻に子どもを作ってそれを「鎹(かすがい)」にしようと提案する。
しかし、妻はそれに同意しない。
なぜならそのまま子どもを産んでも、それは「女性として負けの人生」になってしまうからだ。

失望していた夫は、自身が受け持つ作文教室に通っていたアンディと恋をする。
不倫関係は1年以上も続いてしまう。

そこで妻は巧妙に計画を練る。
5年目の結婚記念日に、失踪することで、その容疑を夫にかけようと考えたのだ。
自分が死んでしまえば、その犯人は夫だろうと予想されるように仕向けるのだ。
夫が働いている日中に、自分が虐待を受けているように周りに訴え、今にも殺されるかも知れないと銃まで用意する。
日記には300日以上、事実と虚構を交えて綴っておく。
夫の名義で買い物を続け、カードで破産しそうであるように仕向け、失踪する。
そういう事実と嘘を積み重ねることで、マスコミの印象を悪くし、有罪に仕向け、死刑にする。
「離婚で逃げられる」負けた妻ではなく、妻を殺した夫として祭り上げ、自分は自殺することで不幸な妻を演じようとしたのだ。

失踪から数日はそれでよかった。
そのままいけば確実にニックは死刑になっていただろう。
しかし、予想外のことが起こる。
一つは、「逃走」中、エイミーは「自殺しないこと」を決意する。
生きていたいと欲が出たのだ。
もう一つは、ニックが「どうしようもない夫」であることをテレビで告白したのだ。
それは、まさに妻のエイミーが望んでいた「理想の夫」だったことだ。

欲を出してしまったエイミーは、顔見知りになった男女にお金を奪われる。
無一文になってしまったエイミーは、すでに「生きる」ことを決めている。
死ぬ決意が揺るいでしまったため、高校時代から続くストーカーのトミーに電話をかけ、助けを求める。
言葉巧みに自分が被害者であることを告げ、彼の別荘へ逃げ込む。
しかし、そこは彼女が思い描いていたような逃げ場ではなかった。
異常な彼の偏愛に苦しんでいたところへ、ニックの姿を見てしまう。
彼女は決意する。
「再びニックの元へ戻ろう」と。

彼女はずっと探し求めていた。
それは愛ではない。
自分を愛して欲しいとか、自分が愛したいとかそういう欲求ではない。
ただ、絵に描いたような、まさに「アメイジング・エイミー」を越える自分と環境がほしいということだった。
それは誰にでもあるのではないか。
誰もがうらやむ、誰もが憧れる夫婦。
お金も、誠実な夫も、名声もある。
彼女はそれが欲しかっただけだ。
そして、彼女はそれを実現するだけの美貌と、頭脳があった。

対する夫は、ふつうの男だった。
美しい妻を望み、子どもがほしいと思い、地元に愛着をもち、退屈な日常を不倫でごまかす。
彼はラスト、妻の言いなりになることを受け入れる。
子どもを放棄できるほど、無関心でも、無責任でもなかった。
普通の男だったからだ。

この二人はメディアに翻弄される。
メディアのあり方も一つのトピックになっている。
しかし、メディアそのものが中心ではなく、人々が夫婦にどのように光を当てるかという視点として利用されている。
あくまで夫婦二人がどのような人間なのか、どの部分に焦点を当てるか、それによって現れる像が異なるというだけだ。
実際に、ニックやエイミーについて、私たちはどんどん見方を変えていく。
それでも私たちは彼らがきちんとした一人の人間であると感じるのは、それだけ私たち自身が立体的な性質をもっていることを裏付けている。

そして、この脚本のすばらしさに加えて、それを正しくミスリードし、正しく真相を明かしていく監督の手腕はほんとうにすごい。
私たちはいつのまにかこの二人に釘付けになり、この二人の行く末を見たいと思わされる。
下手な監督ならきっと二人とも中途半端に描けなかっただろう。
二人の様子が手に取るように分かる。
それはこの脚本において、極めて難しい仕事だったと思う。

この映画の後、奥さんを見て、子どもを見たとき、ちょっと怖くなるくらい良い映画だ。

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2 コメント

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謹賀新年 (おゆば)
2015-01-11 11:36:37
昨日、レイトショーで観てきました。
最初は内容の整理が追いつかず、「これはどういう意味だ?」と考えながらストーリーをおっていました。どんどん事実が明らかになっていく展開に、終始、集中しっぱなしでした。ドキドキ・ハラハラもありながら、終盤はブラックコメディのような演出に、何度も吹き出していました。
特に印象的だったのは、最後の夫婦の押し問答で、エイミーが「これが結婚よ!」と言ったシーンです。独り身の私は背中に鳥肌が立ちました(笑)
DVDレンタル出たら、また観ようっと。

追伸
邦画を観ない管理人さん、『寄生獣』はなかなか良かったですよ。『STAND BY ME ドラえもん』の山崎貴監督です。機会があれば、観てまた評を書いてください。
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お久しぶりです。 (menfith)
2015-01-12 22:05:59
管理人のmenfithです。
年始早々、仕事に追われて、映画館に行けていないのが残念です。
昨年の総括については、今週中にできればいいな、と考えています。

あ、今年も宜しくお願いします。

>おゆばさん
すごいですよね、この映画。
強引で、ちょっとあらも目立つのですが、それを感じさせない、考えさせない展開でした。
やはりフィンチャーいいですね。

「寄生獣」、実は原作をほとんど知らないんですよね。
それでも大丈夫なんですかね。

今年はシリーズものの最新作がたくさん公開されますね。
年間30本は見たいところですが……。
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