外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

「けっこう嫌な思い出」の夏の効用

2011-08-14 17:20:31 | 日記
カイロのダハブ・ホステルで見つけた仔猫。ダハブ・ホステルは猫だらけであった。


毎日暑い日が続いている。これはアフリカより暑いんじゃなかろうか。
昼間外を歩こうものなら(特に3時頃が山場)、熱気とアスファルトの照り返しで蒸し焼きになりそうだし、夜もなかなか気温が下がらず、湿気をたっぷりと含んだなま暖かい空気のなかで、じっとり汗をかきながら、陸揚げされた魚のように、床に横たわって煩悶することになる。おそるべし、日本の夏!

先日図書館で借りて読んだ、川上弘美の「東京日記3 ナマズの幸運。」の28ページに、彼女の編み出した、オリジナルな「暑さ対策」が載っていた。それはこんな具合である。

「八月某日 晴れ 
暑いので、昔の嫌な経験を、できるだけたくさん思い出す。嫌な経験の反芻は、体表の熱を奪うからである・・・(以下略)」

ただし、いろいろある嫌な思い出の中でも、「真に嫌な思い出」は、体の中心をかっと燃え立たせるのでいけない、「けっこう嫌な思い出」だけを思い出すように注意深く努める、と筆者は但し書きをつけている。

昔の「けっこう嫌な経験」を思い出すだけで涼しくなるなんてステキ、ぜひ私も試してみたいと思い、ここに書き連ねてみることにした。

<真夏のサバ事件>
私がまだいたいけな少女だった頃(だと記憶している)。
ある日母が台所から、大声で私たち姉妹を呼んだ。何事かと思って行ってみると、サバの切り身が入った白い発砲スチロールのトレーが、食卓の上に置いてある。母が「よく見てごらん」と嬉しそうに言うので、近づいてラップ越しに観察すると、なにか動くものがある。それはサバの表面を出たり入ったりする、無数の小さなウジムシだった。買ったサバの切り身を冷蔵庫に入れるのを忘れて、放置していたらこうなった、と母は目を輝かせて語った。彼女は虫が大好きなのである。

<ハムスター共食い事件>
小学生の頃、私はハムスターを二匹飼っていた。
ハムスターは可愛いらしい小動物だが、毎日餌(ひまわりの種など)をやり、ケージを掃除するのは結構面倒である。生来の怠け者でいいかげんな私は、よく餌をやるのをさぼっていた。
そんなある日、朝起きたとき、なんとなく不吉な気配を感じて、ハムスターを見に行くと、片方のハムスターの頭がなく、首の辺りの赤い肉を露出させて横たわっていた。もう一方のハムスターは落ち着きがなくうろうろしている。その毛皮には血のような赤い染みがある。ハムスターという動物は、ときどき共食いをする習性がある、と後に知った。
頭のないハムスターの死体を、私は新聞紙にくるんで、自転車で近所の公園の片隅に埋めに行った。共食いした方のハムスターは案外長生きして、後に老衰で死んだ。

<歯医者と唾液事件>
これも子供の頃のこと。
近所の歯医者さんで、虫歯の治療をしてもらっているとき、先生が「この子、ツバすごいわ~」と助手の女の人に言った。

<ニンジン縦切り事件>
これは大人になってからのことだが、実家で料理をしていて、ニンジンをまな板の上に垂直に置いて、包丁で切ろうとしたら、包丁がずりっと滑って、人差し指を切ってしまい、血が吹き出たことがある。それを見た父親が、「あっほやなあ、ニンジンは横に寝かして切るもんやでえ」と馬鹿にした。もっともな話だが、怪我人に対してそんな言い方はないだろう、とむっとしていたら、父親は重ねて、「セロテープ貼っとけばいいんや。わしはいつもそうしてるでえ」と言った。ということは、父親もしょっちゅう指を切っているということになる。似たもの親子ということか?

この他にも、私の「かなり嫌な思い出」はたくさんある気がする。いまちょっと思い出せないけど。川上弘美も、「ほんとにまあ、ずいぶんたくさんの『けっこう嫌な思い出』にまみれて人は生きているのだなあと、感心する」と書いている。

反芻しているうちに、ホントに暑さが少しやわらぐ心地がした。つまり、これは実際に有効な暑さ対策なのである。ただし、涼しくなると同時に、気分がちょっとブルーになるという副作用があるのも否めない。人生ってむつかしいわね。
冬になったら、「真に嫌な思い出」を反芻して、寒さ対策に効果があるか、試してみたい。


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