蛍のひとりごと

徒然に、心に浮かんでくる地唄のお話を、気ままに綴ってみるのも楽しそう、、、

風に鳴る三味線

2005年03月15日 | 地唄箏曲よもやま
ある晴れた日の窓辺。
当時、私の住んでおりました神楽坂のお部屋の畳の上においていたラジカセ(今は死語?)のNHK-FM放送から、久留米にお住いの久富一郎さんとおっしゃる検校さまのお声が流れてまいりました。
確か七十代でいらしたかと存じますが、淡々とお話になる少ししわがれたお声の魅力的なこと・・・。



Q:「久富さんは地唄が大変お好きだというように伺っていますが、それはどんなところにでございましょうか?」

「はい、三味線の中では、何といいいましても地唄が一番むつかしんでございます。
むつかしいだけに品がよくて、とても気持ちがよいものですから好んでまいりました。」


Q:「では、久富さんの目指していらっしゃる三味線と唄とは?」

「地唄らしい素朴な雰囲気をこわさん様にと心がけております。」

「昔から、地唄の三味線は、風の吹いて風で鳴らしたと聞いとります。
なるほどそうやと思いまして、出来るだけ楽に弾いて、楽に聴いてられる三味線をと思うとります。」



そうして演奏して下さいましたのが、地唄『ままの川』。

    夢が浮世か 浮世が夢か 夢てふ里に住みながら 人目を恋と思ひ川
    うそも情もただ口先で 一夜流れの妹瀬の川を・・・

お嬢様がお箏を合せられ、それはそれは結構なお唄と演奏でございました。



その当時の神楽坂と申しますと、一筋入れば、どこからともなくお三味線の音が聞こえ、夕暮れどきともなりますと、あの狭い坂道に黒塗りの立派な車がずらりと並んだその脇を、左褄を取ったお姉さま方が登っていく後姿に、娘心にもうっとりとため息をついてお見送りしたものでございます。
今は昔、私が18歳の頃のことでございます。



お稽古をちょっと中休みして、お調子を合わせたままにしてあるお箏に、開け放った窓から入ってくる五月の風がそよそよあたりますと、リリィィ~ンという涼やかな音を立てて、絃がひとりでに鳴り始めることがございます。
あっ、お箏が風に鳴って・・・なんてきれいな音!!

お三絃をお膝にかかえようと、そうっと持ち上げるかすかな空気の流れに、三絃が嬉しそうにビィィ~ンと響いて鳴ってくれることもございます。

そんな優しい響きを聴くたび、あの日ラジオから流れてきた『ままの川』を今でも懐かしく思い出します。

表紙の裏ばなし・第三話(大切な楽器)

2005年03月14日 | 楽器のおはなし
HPの表紙を飾ってくれている楽器のお写真が二枚ございますが、そのひとつがこのお箏です。素晴らしい美人さんでございましょう?

このお箏とお三絃は、両方とも、私のお嫁入りの時に九州から一緒についてきてくれました。

お箏には『舌(ぜつ)』と呼ばれる装飾的な部分がございますが、真っ白な象牙に実家の家紋をあしらった金蒔絵が小さく入れられておりますので、この子のお名前は『かさねだか』と申します。

初めは、ふたり共お揃いの胴掛け(三絃の胴を包んでいる布)と口前袋(お箏の右端を包んでいる布)が着せられていたのですが、いつしかすっかり古びて、それに私の年恰好とも少しばかり不似合いな色柄になってもおりましたので、いつの頃からか違うものに取り替えられました。
若い頃からのほんとに長いお付合いです。

いろいろな方にさんざんお世話になりながら、それから後も、いろいろな楽器がMY FAMILYに加わって参りましたが、今でも、いざという時には舞台へ登場して頼もしく私を助けてくれます。ひとりの時には一番親しい遊び相手です。そういうワケで、HPの表紙では、私の代役を務めてくれているのです。大切な大切な宝物です。

楽器は、持ち主がいつも弾いて触って、調整を繰り返していくことで、その楽器の持っている本来の音色を湛えてくれるもの。とはいえ、三絃の皮貼りと、お箏の糸締めに関しては、腕のよい楽器屋さんに総てが託されております。私は、とても幸運なことに、当世一番の素晴らしい腕をお持ちの方々にそれらのお世話を引き受けて頂いておりますおかげで、本当にいつも気持ちよく弾かせて頂いております。有難く感謝いたしております。

すべからく、自分ひとりの力で出来ることなど何にもございません。
生かせて頂いていることの有難き哉。



今朝は何て良いお天気でしょう。
寝起きでボンヤリしている私には、ちょっぴり眩しすぎるような、、、。

表紙の裏ばなし・第二話(蛍のこと)

2005年03月11日 | その他のよもやま
こいしこいしと鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす


私の好きな地唄の歌詞です。


こころに焼きついている音に惚れ、ふしに惚れ、地唄に憧れ身を焦がす、、、
こんな蛍に想うところがあって私の姿を重ねてみました。

この小さな蛍は、あんなに遠いお月様まで飛んでいきたいと願っているのでしょうか。


           名月を取ってくれろと泣く子かな


子供の時分はいざ知らず、齢を重ねた今の私は、
すぐそばの、川原の葉っぱのそこここで、ときおりほのかにホーっと光る
そんな蛍になりたいです。





初めてのひとりごとに、優しいコメントをお寄せくださった皆様方、
ありがとうございました。嬉しくて嬉しくて、、、。


今日は催花雨。
あいにくのお天気の中でのお稽古日です。
どうぞ皆様お風邪をお召しになりませんよう、、、。
暖かくしてお越しください。
火鉢に炭をおこしてお待ちしております。

表紙の裏ばなし・第一話(なんにもかはりは)

2005年03月10日 | その他のよもやま
なんにも かわりは いたしません

ざわめき うごめく うつつのよにも
ぼんのう うずまく ひとのよにも

この ねいろだけは
ええ りんといきております

おとに ひかれるものも あとをたたず
かうして けふにつたえて おります

ときを すこし おかしください
こころで しばし おききください


私のHPの表紙を飾ってくれている詩がこれです。
これは、美緒野会創立10周年のときに、コピーライターの方が私のために書いて下さいました。とてもとても、あまりにも、私の気持ちそのものでしたので、しみじみ有難く感慨深いものがございました。何事につけましてもプロの方の豊かな才能とはあらまほしきもの。それ以来、美緒野会のキャッチコピーとして大切に大切にさせて頂いておりまして、温習会のプログラムには、いつも決まって登場いたします。
ときどき、自分で書いたものですか?と聞かれるのですが、私にはとてもこのような文才はございません、、、。
残念ではございますが、、、。