蛍のひとりごと

徒然に、心に浮かんでくる地唄のお話を、気ままに綴ってみるのも楽しそう、、、

良い撥にお出会いください

2006年02月23日 | 楽器のおはなし
私はかねがね、お三味線を楽しく弾くために一番肝心なお道具は、
お三味線自体よりも、むしろ良い撥の方ではないかと思っております。

是非とも良い撥とのお出会いがあるとよろしいですね。




地唄三味線は、撥の重みでストンと弾くものでございます。

ですから、正しく三絃を構え、掌に撥を正しくのせましたら、撥先は自然に良い位置に納まってくれるもの・・・
撥であるからには、皆、当然そうなるものと心得ておりましたところ、なんとも申し上げようのない困った撥に幾度もお目にかかってしまいました。



いつぞやは、撥じりがほんの少し重た過ぎるつくりになっておりました。
そうなりますと、撥先が上がってしまわないよう、撥を常に掌で支えていなければなりません。
自然と薬指や小指に力を入れ、撥を握り締めて弾くことになってしまいます。
そんな過酷な条件では、楽しく上手に弾けないばかりではなく、それこそ腱鞘炎のもとになりはしないかと心配になってしまいます。



     柔らかく曲げたお指の中にやんわりのせてある貴方の撥は、
     三絃の棹に対して、無理なくちょうど平行になるような
     バランスを保っているはずです。

     万一、棹にきっかり平行になるようなバランスを保って
     いないようでしたら、それは貴方の持ち方のせいではなく、
     もしかすると撥のつくりの方に問題がある
     とお考えになったほうがよろしいかもしれません。

     (http://www.shamisen.info/how.to/how.to.html<三絃の弾き方 Point 3 :撥の持ち方>より引用)



ちょっと注意深く握ってみられれば判ることでございますので、少なくとも、バランスの良い撥をお選び下さい。
ここで間違えますと後々の修正も全くききませんので、これだけは、決して譲れない条件ではないかと存じます。



では、バランスさえよろしければ皆、合格かと申しますと・・・

鼈甲撥などでしたら、そこそこご留意頂ければ大概大丈夫でございましょう。
ところが丸撥になりますと、そうはまいりません。
良いお仕事は、最後の最後の仕上げの、撥先の薄め方にかかっているのです。


決して均一ではない生地を相手に、微妙な加減を指先で探りながら、その撥をお使いになる方の弾き方やお好みに合ったちょうど良い「しなり具合」に仕上げてゆく作業には、お象牙への深いご造詣と、長年に亘って培われた勘と繊細な技が必要でございます。




たいへん高価なお道具でございますし、慎重に生地をお選びになり、すでにご注文なさった後でお願いする大切な作業。
それを、どちら様に託されるかの重要なご選択につきましては、どうか必ず貴方のお師匠様にご相談なさることをお薦め致します。




どうぞ良い撥とのご縁がございますように・・・






蛍はオタクでございますので、ちょっとお道具に想いを馳せましたら
どうにも止まらなくなってしまいまして、ナントめずらしく三日も書き続けてしまいました。
でも、ちょっとおせっかいなブログになりましたわね。
お許し下さいませ

 

お象牙のこと

2006年02月22日 | 楽器のおはなし
和楽器のあちこちには、お象牙が使われております。

贅を尽くしてという装飾的な使われ方も
多少ないワケではございませんが、
殆どは、良い音色を出すために、なくてはならない
大切な材料として使っております。

とりわけ、お三味線の撥や、お箏の柱、お爪の場合は、
直接に絃に触れる部分でございますので、
お象牙のよしあしが、
音色を大きく左右する重要な役割を担います。

良いお象牙を見極めることなしには、
良いお道具に巡り合えないと申し上げても
過言ではないかと存じます。

もしも、ご興味のおありになる方がいらっしゃいましたら、
少しお付き合い下さいませ。




お道具には、アフリカ産の象牙が使われます。

かつては、良質な北アフリカ産のお象牙だけを使用しておりましたが、
近頃では、手に入れるのが難しいという状況になってしまいました。
心ない濫獲によるもので、収獲地をだんだんと南の方へ下げ、
昨今では、ジンバブエ辺りの象牙が輸入されておりますとか・・・。

『ソフト』とか呼ばれているのがそれでしょう?

お心当りの方もいらっしゃるかと存じますが、
何となく白っぽくて、少々、水っぽい感じが致しますね。
見たところ、判りにくい場合もございますが、
ちょっと弾いてみますと、明らかに音色がよくありません。
お象牙には、何の罪もございませんのに
とても残念ですけれども、
あまりお薦めできない感じのお品です。



象牙は、乾燥すると隙間が開いてしまうことがありますが、
(『口が開く』という表現をいたします。)
新しい生地でしたら尚更、この点でもご注意が必要でしょう。



平素の練習用には、鼈甲やプラスティック製などで代用して
おりますけれども、本来は丸ごと全部、お象牙で出来ている
という大変贅沢なものが、お三味線の撥です。
『丸撥』と呼ばれております。

一本のお象牙から、通常、四丁の丸撥がとれます。

中心に近い部分から取られた二丁の撥の方が上等です。
『芯持ち』と呼ばれるものでしたら、生地は最高です。

外側から取られた二丁には、多少皮目が出ていることもあります。
とりわけ、少し細めの牙ですと、皮目が出てしまいがちです。
せめて撥先には皮目のないものをお選びになられるのがよろしいでしょう。

生地には、固めのもの、柔らかめのものがございますが、
これはどちらがよいという訳ではなくて、
音色のお好みでお選びください。


ところで、生地に『やまい』と呼ばれる一種のキズが
ついてしまっている場合がございます。
この『やまい』を少しでも持っておりますと、
音には直接、関係がないのですけれども、
やはり見た目で好まれませんので、
割安なお値段で購入することが出来ます。
お気にならないようでしたら、かえってお買い得なのではないでしょうか?







ご本人様が好まれないと存じますので、お名前は申しませんが、
お象牙のことを知り尽くしていらっしゃる、さる有名なお方に、
折節、教えて頂いたことを少しだけお話いたしました。

つやつやしたお象牙の撥の、したたるような美しい光沢には、
いつもうっとりとしてしまいます・・・
平素より大変お世話になっております





今日は、ひさしぶりにお陽様もお顔を出してくれて気持ちの良い午後です。
色をも香をも知る人ぞ知る・・・

最近 嬉しかったこと

2006年02月21日 | その他のよもやま
過日、港区立青山中学1年生の生徒さんがおふたりで、
私のお教室を訪ねて下さいました。
興味のある職業の『職場訪問』をするというお授業なのだそうです。


いろいろ質問を考えてきて下さって、素直な一生懸命なお顔で聞いて下さるので、
私も嬉しくなってしまって、一生懸命お答えいたしました。




例えば・・・


Q: 邦楽家を志したのは、いくつの時ですか?

A: いつでしたか、実家でお納戸を片付けていたら、小学校の卒業文集が出てまいりました。
  それに『大きくなったらお箏の先生になりたい』と書いてあるのを見つけて、
  とてもびっくりしました。
  すっかり忘れていたのですけれど、どうやら、そんな頃からだったようです。



Q: 今、一番困っていることは何ですか?

A: それは何といっても、楽器を作って下さる職人さん達の後継者不足です。
  
  良い音色を出すには、まず、良質の木や繭といった様々な材料を育てて頂くところから始まります。
  良い材料を得て、それに様々な工程を加えて、楽器を作るのですが、
  その大部分が手仕事ですので、それぞれの工程がご専門毎に細かく分かれています。
  どれもが繊細なお仕事で、楽器は皆、素晴らしい職人さん達の熟練の技によっているのです。
  私共は、平素から一体、どのくらいの方々のお手をわずらわせておりますことやら。
  そんなたくさんの職人さん達に支えていただいて初めて、
  気持ちよく演奏することが出来るのですから・・・etc。



こんなふうなおハナシをして楽しいお時間を過ごしました。
きらきらした瞳や紅潮したお顔が、とても可愛くて・・・

後日、綺麗なお花の絵葉書で、ご丁寧なお礼状を頂戴いたしました。
二度も嬉しい思いが出来て、お礼を申し上げたいのはこちらの方でございます。





雨水(うすい)の候。
このところは、シンと浸み込むような冷たさの雨の日が続いておりますけれども・・・
一雨ごとに春が深まっていくようで嬉しいですね