蛍のひとりごと

徒然に、心に浮かんでくる地唄のお話を、気ままに綴ってみるのも楽しそう、、、

稚児桜

2006年03月22日 | 地唄箏曲よもやま
王ジャパンの優勝、おめでとうございま~す

テレビで野球を観たのは生れて初めてかもしれないくらい
スポーツ音痴の私でさえ、日本野球の気概と品格に感動いたしました。
日の丸を背負って戦うサムライ達の格好良いこと・・・



桜達も嬉しくて、思わず開花を迎えたのかもしれません。




タイムリーには、箏曲『稚児桜』などいかがでございましょう。


     鞍馬の寺の稚児桜 咲けや四海にかほるまで
     昼は読経をつとむれど 暮るれば習ふ太刀つるぎ
     思ふ源氏の再興を 天満宮に祈らむと 夜毎に渡る五条橋

     笛の音高く夜は静か 
     思いもよらずかたへより 出でてさえぎる大法師

     太刀を賜へと呼ばはれば 
     太刀が欲しくば寄りて取れ

     さらば取らんと打ち振るう 薙刀ついに落とされて
     今ぞひたすら降参と 誠あらはす武蔵坊

     さては汝が弁慶か
     牛若丸にましますか

     主従の契り深かりき 鏡は清し 加茂の水

                    (菊武祥庭作曲)




先日『地』のおはなしを致しましたけれども、この曲中にも、
前歌の「出でてさえぎる大法師・・・」というところから、
お箏で、ツルシャン、ツルシャンという地が入ります。

弁慶の薙刀をヒラリヒラリとかわす牛若丸の様子がいきいきと
表現されているとても面白い手でございます。
今年11月26日(日)の『三曲歌ざんまい』で弾かせて頂きますので、
上手に出来るかどうかは分りませんけれども、
ご興味をもたれた方は、どうぞ赤坂区民センターホールまでお運び下さいませ。
チョコっと宣伝でございました






桜と申しましたら、最近、興味深いことを聞きました。
若い桜木は、少しでも暖かい日がありますと、我先にと開花して
三寒四温の風にすぐ散ってしまいます。
老木の桜は、その辺りをよくよく見極めてから花をつけるので、
咲くのは遅いのだけれども、長い期間、私達を楽しませてくれるというのです。
桜にも「年の功」というおはなしでございます

菜の葉

2006年03月16日 | 地唄箏曲よもやま
三月のお花といえば一番は桃でしょうけれども、菜の花も同じくらい私は好きです。
桃色と黄色を花瓶に活けると、春めいた華やぎでウキウキするのは私だけでしょうか?




地唄の手ほどき曲に『菜の葉』という可愛らしい曲がございます。



     可愛いということは 誰が初めけん
     ほかの座敷もうわの空
     許さま参ると示す心のあどなさよ
     上々様の痴話文も 別に変わらぬ様参る

     思いまわせば勿体のうて
     言葉さげたら思ふこと
     菜の葉にとまれ 蝶の朝



菜の花というお名前の由来は「野菜(菜っ葉)の花」の意味からと伺いました。
でしたら、『菜の葉』は「お野菜の唄?」なんてことになってしまいそうですけれども・・・。




ところで、本年一月の歌舞伎座は、坂田籐十郎の襲名披露公演でございました。
ひょんなことから幸運にも、お友達がチケットをお世話して下さったので、
箏曲の『鶴寿千歳』や竹本の『万歳』なども聴かせて頂いて、
おかげさまで、うんと楽しんでまいりました。


藤十郎さんが天満屋お初を演じられました『曽根崎心中』は云うまでもなく素晴らしいものでございました。

   この世の名残 夜も名残・・・

あんな不条理な行き違いなど、今なら裁判でも起せましょうに、
来世は必ずこの世で結ばれますようにと心中するおふたりの可哀相なこと。




ところで・・・
第二場「天満屋」の幕が上がったところで、『菜の葉』がほんのひとふし唄われます。


    可愛いということは 誰が初めけん ほかの座敷もうわの空・・・


たったこれだけなのですけれども、これから始まる苦しい恋の道行の前の一休み。
まだあどけなく可愛らしいお座敷模様の華やぎが思わず心いっぱいに広がって、
ほんの少し、ほっとするのも趣深いものでございます。





    



菜の花が咲く頃に降り続く雨を「菜種梅雨(なたねづゆ)」とか申しますが、
今宵もシトシトよく降る雨でございます

『地』のはなし

2006年03月13日 | 地唄箏曲よもやま
私が尊敬してやまないお師匠様は、実は見事な『地』をお弾きになられることでも、つとに有名でいらっしゃいます。




      『地』と申しますのは、大変、面白いものでございまして、
      その部分がまいりますと、ずぅっと同じ手を弾き続けます。

      ツンルン、ツンルン、ツンルン、ツンルン、ツンルン・・・
      ですとか、ツルテン、ツルテン、ツルテン、ツルテン・・・


      たったこれだけの手で曲を表現するのですから、
      神業とでも申しましょうか。




『地』を弾く心得は、「本手を生かして、自分も生きること」なのでございましょうが、それこそ、言うは易し・・・の典型でございますね。
実際には、遠慮して弾けば地味に終わって目立たず、頑張れば本手を邪魔してうるさいばかりといったところが大方でございましょう。





いつぞや、さるお方が芸術祭で『四段砧』という珍しい曲に挑戦なさいましたが、
この曲の出来栄えは『地』にかかっているといった演目でございました。

ツンルン、ツンルン・・・だけで一歩も引かず、表現力の豊かさにおいては本手を超える『砧地』で、ため息も出ないほど素晴らしい「本手を生かして、自分も生きる」のお手本となる演奏でございました。その会場に居合わせられた幸運な方々は、さぞ満ち足りた至福のひとときをお過ごしになったことでございましょう。
平素よりさまざまな名人のお手を息を詰めて、じぃっ~と拝見させていただきながら、豊かな表現力の鍵は、何と申しましても、自由自在な消し音の技にありそうなとお見受けいたしております。


いつの日か、もしかして、私にもあのような豊かな『地』を自由自在に操れる日が来るのでしょうか






邦楽をお聴きになるチャンスがおありになりましたら、例えば、歌舞伎座などにでもお出かけになられましたら、ちょっとお耳をすませてごらん下さいませ。運がよろしければ、思いがけない拾い物をしたようなお気持ちになられるかもしれません。










啓蟄は過ぎたと申しますものの、今年の春もごゆっくりのようですね。
今日はやはりコートを羽織って出稽古にまいりましょう。
縁の上で虫におどろくウラウラ陽気はまだのようでございます