蛍のひとりごと

徒然に、心に浮かんでくる地唄のお話を、気ままに綴ってみるのも楽しそう、、、

津軽三味線

2006年04月11日 | 楽器のおはなし
テレビ東京の新番組『豪腕コーチング』で、タレントさんが三味線に挑戦するという企画がございまして、その練習風景の録画撮りが、昨日、私共のお稽古場で行われました。(4月24日20:54オンエア)

師匠は正司歌江さん、お習いになるのはヒロシさん。

タレントさんって大変でございますね。
たった五日間かそこいらで、見たこともないような楽器をとにかく何とか格好をつけて、テレビで生演奏をするというのですから・・・。

今回、ご使用になられる楽器は津軽三味線。
お弾きになられる曲は、『帰ってこいよ』という歌謡曲です。
普通の津軽三味線の曲でしたら、それなりの手の流れというのもございましょうが、今回、挑戦なさるのは歌謡曲ですので、なおさら難かしかったことでしょう。

ヒロシさん、スタジオでの本番、頑張ってくださいね。




歌江師匠のサポート役として付き添って来られた津軽三味線の長谷川一義先生は、青森で、お父様の代からの津軽三味線のお家柄でいらして、現在は大阪にお住まいでいらっしゃいますとやら・・・とても素敵な方でございました。

お持ち物もオシャレで凝っていらして、総鼈甲の撥には、螺鈿の蒔絵・・・。
お三味線の長袋には、目立たないようにさりげなくご家紋がほどこしてあります。
目ざとく見つけた私、「そのご紋は、縫い紋でございますね?」
長谷川先生は、恥ずかしそうに「ええ、マアそんなところで・・・。」
なぁんてにごされて、そそくさとお仕まいになられましたけれども、
『私の長袋にも近いうちに縫い紋を入れさせて頂きましょ
ミーハーな私は、心ひそかにニッコリ頷いたのでございました。




とわずがたりに・・・

『六段』と申しますのは、地唄箏曲の専売特許かと思っておりましたら、何でも、『津軽じょんがら六段』という曲があるそうでございます。
お箏の『六段』と同様に、等拍の六つの段で構成され、全国的に統一された基本曲という位置付けとのこと。
撥の基本、ハジキの基本を一年間、みっちり仕込んた後で初めて取り掛かるのが一番よろしいのだそうで、私共が馴染んでおります『六段』と似た感じがいたします。やはり「もとはお箏から来たのかもしれません。」とのことでございました。
最近の若い方が基本の習得に時間をかけず、すぐにアレンジ弾きをしたがるのが、お悩みの種でいらっしゃますとか・・・。
そのあたりは、いずこも同じでございますね。


ところで、長谷川先生は、たまにはお頼まれして、津軽三味線で地唄を弾かれることもあるそうでございます。
そのときは、駒を地唄駒に替え、撥も津山に持ち替えられ、「そうしましたら自然に構え方も地唄風に変わります。」とのおはなしにもご造詣が伺われます。


ずっしりと持ち重りのする太い見事な棹のお三味線を持たせて頂きました。
皮は犬皮を強く厚く張り、撥皮は長四角。東サワリに頑丈そうな太いおネジ・・・。
拝見しているだけで、雄雄しい音色が聴こえてきそうです。
それに較べて、細く繊細な竹駒が印象的でございました。


今でこそ津軽は太棹を使いますが、以前は地唄と同じ中棹をお使いになっていらしたこと。
昨今は、音を少しでも大きくということでこうなりましたが、昔の門付けでは、
こんな重たいものは下げて歩けませんでしょうとのお話もごもっともでございます。





お大切な素晴らしい楽器やお道具も見せていただき、また、さわらせてもいただきまして、
すっかり楽しませていただきました。
本当にありがとうございました







間の良いところで

2006年04月05日 | 楽しいお稽古講座
概ね「リズム」に似たようなもののことを、私共は「間(ま)」と呼んでおります。


邦楽用語が日常生活で普通に使われている例は多々ございます。

     間を外す
     間が悪い
     間を取る・・・
     間一髪???

最後のひとつは眉唾でございますけれども、こんなところでざっとイメージをお作り頂ければと存じます。


『大辞林』を拝見しましたら、

   「間」  日本の伝統芸能(音楽・舞踊・演劇など)で、
        拍と拍(動作と動作)のあいだの時間的間隔。
        転じて、リズムやテンポの意にも用いられる。    とございました。

リズムやテンポのことをも、「間」と呼んでしまいますと、本来的な意味がいつしか薄らいで、
単旋律の絡み合いの妙を楽しむ独自の感性を損ねやしないかと心配になってしまいますのは、
杞憂でもございましょうけれど・・・。


各民族の持つ固有のリズムは、無意識な身体の動き(主に歩き方)と密接な関わりがございます。
ウインナワルツの三拍子が、ウイーンっ子の専売特許であるのと同じくらい
地唄の「間」は、日本人固有のもの・・・

『時間的間隔』だなんて、世界的にも、とびきりお洒落な感性ですもの
大切にしたいものでございます。






さて、それでは、楽しい地唄のお稽古講座を始めましょう。

まず最初は、お口を大きく開けて、はっきり言葉が分るように、
正直に間拍子の通りにお唄いになるお練習をなさって下さいませ。
拍子の通りに「ふし」が動いていくお唄は「べたつけ」と呼ばれ、
まして、いつの間にか四分音符がはためいて聴こえてくるようなお唄は、
決して巧者なとは申せませんが、まず始めは基礎をしっかり固めましょう。

次に、昨日ご説明させて頂きました「ふしの味付け」を、だんだんに
ほどこしてまいります。
程好く「ふしの味付け」もお出来になられましたら、最後に、
お唄がお三味線の手と同じ場所にならないように頑張ります。
ほんの少し前か、または、ほんの少し後、どちらでも結構でございます。


     春は花、夏は橘、秋は菊
     冬は水仙、梅の花


さあ、こんな簡単な手ほどき曲でも充分に地唄の味わいが出てまいりましたでしょう。
美しい日本語の流れに逆らわず、間の良いところで、どうぞ楽しくお唄い下さいませ。







春分から15日目にあたる今日は、清明(せいめい)と申しまして、暦の上では早や晩春。
清浄明潔の略で、万象に清朗の気があふれくるそうでございます。

折りしも、ふるさとからは、たらの芽や野芹といった好物の山菜の便りが聞こえて参りました。
私も長い冬眠から目覚めて、いよいよ動き出さなければなりません・・・でも

ふしの味付け

2006年04月04日 | 楽しいお稽古講座
メロディーラインのことを、私共は、『ふし』と呼んでおります。

ところが、この「メロディー」だけでは何とも立ち行かないのが地唄でございまして、
「唱歌うたい」なんていう、お口の悪い云われ方をされてしまいそうです。


     「地唄は、そのまま、きっちりと唄いさえすれば
      唄の『心』が出るように出来ているのですから
      昔の人はよくぞ作って下さったとお思いになりませんか?
      本当にありがたいこと・・・。」


桜咲く陽だまりの午後、富樫先生がしみじみとおっしゃられました。
もちろん、私に何の異論のあろうはずもございません。





では、その「心のある」地唄を唄うにはどうすればよろしいのでしょう。

ふしの味つけには、いくつかの技巧がございます。


     1、アタリ・・・・・唄い出すときには必ず使います
     2、フリ・・・・・声を単調に引っ張らないために使います
     3、フリキリ・・・・・声を切るときに使います
     4、シオリ・・・・・声を絞る技術です
     5、強弱・・・・・これが一番大切かと存じます


どれも、声の高さは全く変えないままであしらいます。

中でも声の強弱はとても大切で、例えば、高い声域にきた時には、お声をスゥっと絞ります。
また、アタリやフリ、フリキリなどの細工をする直前にも、必ずお声をいったん絞ります。





いつか機会がございましたら、どうぞ、よぅくお耳をすませてお聴きになってみて下さいませ。
お料理の隠し味のようにさりげなく、何気なく、フワッと良い具合にあしらわれているのが
聴こえてまいりますでしょう