この日のプリマは、私のオペラ鑑賞歴の中でも、1980年ウイーン国立歌劇場来日公演でのグルベローヴァ(ツェルビネッタ)以来の絶唱であった。一幕のカーテンコールで、すでに東京文化会館の客席はブラヴァーの嵐に包まれた。テオドッシュウの歌唱は、開館以来この舞台で繰り広げられた数々の歴史的名唱に肩を並べられるものだったと思う。そんな歴史の一ページに同席できた幸せを20年振りに心より感じた。美しいppから鋭い切れ味の超高音のffに至るまで、極めて円滑にコントロールされたその声は、とても人間技とは思えない程素晴らしい。エネルギー配分が完璧で、これと言うときに蓄てきた全力を噴出し、信じられないようなパワーを炸裂させるその歌唱法こそ、彼女の歌の説得力の秘密であり、同時にこの歌手独特のものである。その声を聞くだけでも感動して涙してしまう程である。恋敵役のパラテオスも全力でこれに対峙し舞台を盛り上げたが、相手が相手だけに分が悪い。しかし、一般的な尺度ではその彼女も充分な名唱であった。問題はフォリアーニの指揮で、残念ながら彼らの名唱を万全にサポートできていたとはいい難い。とりわけ感動的な終幕のアリア・フィナーレでは、常に「ぎくしゃく感」が付きまとったが、最終的にはデオドッシュウが自分のテンポを守り抜いてネジ伏せた感がある。また相手役のテノールや合唱が弱いなど、不満な点も数々あったが、所詮プリナドンナオペラは、プリマよければ全て良しで、ここまで歌われてしまうと、そうした不満も吹っ飛んでしまう。最終幕のカーテンコールも大きな盛り上がりを見せいつまでも続いた。とりわけテオドッシュウのはしゃぎ振りが印象に残ったが、きっと彼女にとっても会心の出来であったのだろう。マリア・カラスの再来というフレコミでデビューした彼女であったが、初来日のフェ二ーチェのビオレッタでは今一つ印象に乏しかった。しかし、ここに来て才能が全開した感がある。とにかく思い出すだけで身震いを禁じ得ない舞台であった。秋にはビオレッタで再来日の予定があるとのこと、再度のヴェルディでどんな歌唱を示してくれるか楽しみである。
goo blog お知らせ
プロフィール
最新コメント
ブックマーク
カレンダー
goo blog おすすめ
最新記事
- 八ヶ岳高原サロンコンサート(11月1日)
- びわ湖ホール声楽アンサンブル第15回東京公演(10月14日)
- 東響第97回川崎定期(10月13日)
- 新国「夢遊病の女」(10月9日)
- 東京シティ・フィル第373回定期(10月3日)
- 東響オペラシティシーリーズ第141回(9月28日)
- 紀尾井ホール室内管第141回定期(9月20日)
- 東フィル第1004回オーチャード定期(9月15日)
- 東京シティ・フィル第372定期(9月6日)
- 第44回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル (8月28日〜30日)
- ロッシーニ・オペラ・フェスティバル2024(8月17日〜21日)
- 読響フェスタサマーミューザKAWASAKI 2024公演(7月31日)
- 京都市響第691回定期(7月27日)
- 東京二期会「蝶々夫人」(7月21日)
- 新国「トスカ」(7月19日)
- 東響オペラシティシリーズ第140回(7月7日)
- 東京シティフィル第371回定期(6月29日)
- 都響第1002回定期(6月28日)
- アーリドラーテ歌劇団「シチリアの晩鐘」(6月22日)
- 紀尾井ホール室内管弦楽団第139回定期(6月21日)