話題のプリマを迎えての15年間続いた新春の「椿姫」が終わって、今年の藤原歌劇団は純粋日本人による「ラ・ボエーム」で幕が開いた。オーディションによる主役抜擢の公演だが、この初日は、砂川、高橋、村上、堀内、三浦、久保田、病気の山田に代わって重鎮の折江という、現在の藤原の総力を結集したような出演者だった。指揮に園田隆一郎、演出に岩田達宋。結論からいうと、とても楽しませてもらった。日ごろの同僚であるせいか、本当にパリの学生街の下宿屋の一室がオーチャードの舞台に引っ越して来たかのように皆の息が合っていて、あらゆる場面が自然で生き生きとしていた。村上、砂川の歌唱も幕を追うごとに声が練れてきてどんどん調子を上げ、最後には涙を誘った。岩田の佐伯祐三風の舞台が秀逸で、簡単でありつつ雰囲気万点。とりわけ、2幕の屋台のある雑踏からカフェへの転換や、ゼッフィレッリばりの二重舞台のアイデアには感心した。また1幕フィナーレのデュエットで窓から月明かりが差し込む場面や、2幕の粉雪舞い散るムゼッタのワルツの場面など、絵画的にも印象に残るシーンがあった。オペラデビューの園田も決して出過ぎず全体を盛り上げて成功に貢献していたと思う。総じて現在の藤原の力が如何なく発揮された舞台と受け取ったが、聴衆の反応はいまひとつであった。会場には同じような装いの学生らしき姿が大勢いたことを思うと、音大生に観客動員を頼んでいたかなという感じも否めない。やはりこのメンバーでは一般の観客動員が難しかったのかなと思わせる。残念なことだ。
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